グローバルファンドは、3年に一度、三大感染症対策に必要な資金額を算定し国際社会に呼びかけて資金を調達しており、これを「増資」と呼んでいます。2025年の第8次増資では11月に増資サミットが行われ、その後の追加誓約も含め2026年2月までに国際社会から今後3年間で126億ドル(約2兆円)の資金拠出が誓約されました。第8次増資の資金は、持続可能な開発目標(SDGs)達成年である2030年に向け、各国が感染症対策の結果を出すための主要財源となります。
国際援助資金の極端な削減傾向の中で、126億ドルものコミットメントがあったことは特筆すべきことであり、感染症危機に対応する多国間協力を象徴する公共財であるグローバルファンドへの信頼の証と捉えられます。一方、目標とした180億ドルには届かない結果となり、感染症対策と保健システム強化の進展が危惧されます。また、今回、米欧主要ドナーの誓約が極端に減らず多くても2割削減程度で留まったのに対し、日本は半減という結果となりました。厳しい財政状況、円安等が背景としてあるものの、人命に直結し世界の健康安全保障にも影響しかねないことから、長年の間に築いてきた日本への信頼の回復が求められています。
第8次増資誓約の全体像
2025年11月21日に南アフリカ共和国ヨハネスブルグにて開催された「グローバルファンド第8次増資サミット」で113.4億ドルが各国政府首脳から誓約され、その後、いくつかの国が追加拠出を表明し、2026年2月までに総額126億米4607万米ドルが誓約されました。以下が50を超える国、財団、企業、NGOによる誓約の一覧です。この金額をもとに資金供与額が算定され、支援対象の低・中所得国約100カ国に配分額が通知されています。2026年の1年間をかけて感染症対策と保健システム強化のための案件形成・資金申請・審査・承認・契約が行われ、2027~2029年にその資金による各国の事業が実施されます。持続可能な開発目標(SDGs)達成年である2030年に向け、各国が感染症対策の結果を出すための主要財源です。

出典:以下2資料に基づき、グローバルファンド日本委員会にて作成
2月18日付グローバルファンド発表リスト(EUの発表に伴い一部改変) https://www.theglobalfund.org/media/quro4ogq/core_eighth-replenishment-pledges_list_en.pdf
4月7日付EUの発表 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_26_776
国際援助が大きく減退する中、126億ドルもの拠出誓約があったことは明るいニュースで、下図の通り、新型コロナ対策が追加となり増額する以前の第4~5次増資のレベルを維持したということができます。他方、8次増資で目標とした180億ドルには届かず、目標とした感染症対策と保健システム強化の進展が危惧されます。現在、グローバルファンドは、疾病負担が最も重い国のプログラムに資金を集中させ、三大感染症の終息を目指す国が自立に向けて加速していけるよう丁寧に支援すべく戦略を転換させています。
Source: https://data.theglobalfund.org#pledges-contributions
1ドル未満切り捨て。日本の誓約額は各回政府発表に基づく、初期はGF増資サイクルと若干のずれあり。
主要ドナーの動向
Source: https://www.theglobalfund.org/media/quro4ogq/core_eighth-replenishment-pledges_list_en.pdf
いずれも1000万ドル未満切り捨て。米国は上段が増資会合発表額、下段がマッチングを勘案した額。下段の注)参照。欧州委員会は上記グローバルファンド誓約一覧のユーロ・ドル為替レートを暫定的に使用
日本:日本は増資サミット直後の昨年11月25日に、最大810億円の貢献を行うことを公表しました(外務省ウェブサイト)。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成に向けてグローバルファンドとの協力の重要性を強調し、国際保健分野で積極的に貢献していく方針を表明しています。しかしながら、810億円はドル換算で5.1億ドルとなり、前回の第7次増資における日本の誓約10.8億ドルに比べると半減です。円では前回比約2割減であることから円安の影響を受けたことは間違いありませんが、国際的には米ドルで比較されるため、他の主要ドナー国と比べて大幅な削減率となりました。尚、日本はこれまでドルで誓約してきましたが、今回初めて円で誓約をしています。
英国:英国は、南アフリカ共和国とともに第8次増資の共同議長国として増資全体をリードする役割を担い、8.5億ポンドの拠出を誓約しました。ポンドでは前回の第7次増資比15%の削減、しかしながらポンド高のため米ドルでは11.1億ドルとなり5.2%の微減に留まりました。英国にとっては、防衛費の増額のためODAをGNI(国民総所得)の0.5%から0.3%に引き下げると表明した中で迎えた増資でした。増資サミットに登壇したスタマー首相は誓約にあたり「英国のように、どの国も開発援助について苦渋の決断を迫られている。しかし、たとえそのような決断を下す場合でも、グローバルヘルスを優先し、提供された資金で最大の効果を上げるグローバルファンドのような組織を優先する選択はできるはずだ」と述べ、税金の使い道として効果が高いグローバルファンドへの支援を訴えました(増資サミットの詳細)。
米国:米国は46億ドルを誓約しました。WHOからの脱退もありグローバルヘルスの多国間協調へのコミットメントの低下が危惧されていましたが、前回の第7次増資での誓約から微減にとどまり(注)、引き続きトップドナーの位置を維持する結果となりました。米連邦議会で共和党・民主党双方から超党派の支持があること、健康安全保障や米国製品調達等で米国の国益にかなうと考えられていること、成果が見え費用対効果が高いことなどが、支持の背景と考えられます。
米国は、他国にも“応分の負担”を促すインセンティブとしてマッチング制度を導入しています。従来は、他国2に対し米国1のマッチング率でしたが、今回の第8次増資に至る米国議会の議論では、この比率を3:1や4:1に変更する議論が何度も行われてきました(円グラフ参照)。しかし結果的に2:1の維持となり、米国は全体の33%までは出す意思を示したことになります。
(注)前回の7次増資会合(2022年)において米国はバイデン大統領より、全体の増資目標額180億ドルの1/3にあたる60億ドルの拠出誓約を表明。この額と比較すると今回の第8次増資の誓約額は前回比23.3%減となる。ただし、米国は従来から、米国の拠出が全体の3分の1を超えてはならないという法律に則り、他のドナーとの比率を2:1にするという条件付きで誓約している。このため、第7次増資の結果が判明した時点で米国以外のドナーの資金拠出誓約が120億ドルに達しなかったため、第7次増資における米国の正式な拠出誓約は60億を下回ることは自明となった。2025年11月現在の資金調達状況に基づきマッチング率を適用すると、第7次増資の米国の誓約額は48.5億ドルとなる(グローバルファンド事務局確認)ため、これを適用すると第8次増資の誓約額は前回比5.2%減となる。尚、2026年3月現在、第7次増資期間の米国の最終拠出額はまだ確定していない。
日本の5億ドル減の影響とグローバルファンドへの拠出の意義
日本の拠出誓約が前回より5億ドル減少したことにより、上記マッチング制度により米国の拠出も2.5億ドル減となり合計7.5億ドルの減となります。グローバルファンドの数理モデルによると、7.5億ドルがあれば可能であったこととして以下の例が挙げられます。
- 救えたはずの命 90万人
- HIV治療薬の提供 120万人
- 結核の検査 2300万人
- マラリア予防蚊帳配布 8300万張
グローバルファンドへの拠出は、国際貢献であるとともに、翻って日本に住む私たちの命と生活と経済を守ることにつながります。グローバルファンド日本委員会は、日本のグローバルファンドへの拠出の意義を以下のように考えています。
感染症の克服は低・中所得国の経済発展と国際社会の安定の基礎
感染症を克服することは、防げたはずの罹患や死亡を減らし、労働力の確保と寿命の延伸による、低・中所得国の経済成長の基礎です。さらに、誰もが必要とする保健医療サービスにアクセスできる公平な社会作りは、人々の不満・不平等感を解消し社会を安定化させテロや紛争の温床となることを未然に防ぐことにも貢献します。
健康医療安全保障:日本を感染症から守る
感染症に国境はありません。グローバルファンドへの拠出は、感染症を日本に入れないこと、新たなパンデミックを防ぐことにつながります。感染症専門の国際基金として最も成果をあげているグローバルファンドへの投資は日本の健康安全保障に直結し、国益に貢献します。
日本経済を強くする
グローバルファンドは年約3000億円の調達市場を持ち、多額の日本製品が調達されています(医薬品・医療機器、予防用品等、累積12億ドル、国際機関では最大規模の日本製品調達)。グローバルファンドの支援の7割はアフリカ向けであり、これらの日本企業にとって、今後成長するアフリカの医療製品市場への入口となります。また、日本の感染症対応製品の海外展開を阻む要因の一つとして挙げられるのが、平時と有事の需給変動が大きく安定していないことです。日本の平時には感染症がまん延している低・中所得国の公共調達市場に参入し生産規模を拡大・維持しておけば、いざ、日本が感染症危機に見舞われた時に、国内供給量の確保を容易にすることに貢献します。これは上記の健康安全保障にとっても重要な要素です。
日本外交を強くする
グローバルファンドの特徴は、グローバルサウス諸国自らも関わる運営体制です。主要ドナーであり続けることは、グローバルサウスとの信頼を醸成し、日本外交を強化することにつながります。また、開発援助資金が減少し国際保健の制度改革議論が急速に進む中、グローバルファンドはその改革議論の矢面に立つ重要な存在であり、主要ドナーとして応分の負担を果たし発言力を確保することは 日本の国際保健外交のリーダーシップに不可欠です。
これまでのグローバルファンドの増資
伝統的には、G7ドナー国政府の持ち回りで増資会合が開かれてきましたが、近年はグローバルサウスも増資会合・準備会合を主催するなど世界全体で増資の機運が高まっています。
第8次増資会合 南アフリカ・英国共催(2025年11月)
第7次増資会合 米国主催(2022年9月)、 準備会合 アフリカ5国共催(2022年2月)
第6次増資会合 フランス主催(2019年10月)、準備会合 インド主催(2019年2月)
第5次増資会合 カナダ主催(2016年9月)、 準備会合 日本主催(2015年12月)
第4次増資会合 米国主催(2013年12月)
第3次増資会合 米国主催(2010年10月)
第2次増資会合 ドイツ主催(2007年)



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