公衆衛生上の最も大きな成果のひとつでもあるマラリアとの闘い。過去20年間で、推定22億件のマラリア感染と1,270万人の死亡を防ぐことができました。
一方で、今、その進展は停滞しています。マラリアはいまだに世界中で命を奪う深刻なグローバルへルス上の課題であり、特に子どもたちと妊婦に重く影響を及ぼしています。
紛争、人道危機、異常気象、薬剤・殺虫剤耐性蚊の拡大、そして対策資金の不足により、これまで築いてきた成果そのものが今、危機に瀕しています。
しかし、ここで立ち止まるわけにはいきません。これまでの努力が無駄にならないように、より健康で、安全で、公平な未来を実現するために、マラリアとの闘いを「Reinvest」「Reimagine」「Reignite」することが求められています。
今年の世界マラリアデーのスローガン:
「Reinvest, Reimagine and Reignite the fight to end malaria and secure a healthier, safer, more equitable future for all」この言葉に、日本としてどのように応えていけるのか。
マラリア対策に関わる国内外の専門家や国際機関、企業の皆さまから、
「マラリアをなくすために日本ができること」について、力強いメッセージを寄せていただきました。
「私は、主にアジア太平洋地域で、科学研究費、NCGM/JIHS開発費、AMED研究事業(SATREPS/日米医学協力計画)、JICA専門家、米国NIH/ICEMRアドバイザー、グローバルファンド技術審査委員などの様々なスコープでマラリアの対策・研究開発に携わってきました。この地域の多くの国々が、2030年までのゼロマラリア達成のラストマイルへ入りつつある現在、それぞれマラリア流行地には特異的な流行決定要因があり(分布しているマラリア原虫の種類、媒介するハマダラカの種類、人々の生活様式、それらを取り巻くエコシステムなど)、きめ細かな詰めの作業が求められています。世界のマラリア対策の流れで足りないところを、我が国のODA等で補完すべきと考えます。日本の科学技術イノベーションの力を発揮できるチャンスではないでしょうか」
狩野 繁之 氏
特殊法人国立健康危機管理研究機構(JIHS)
国立国際医療研究所熱帯医学・マラリア研究部部長
「世界マラリアデーのこの日、私たちはマラリアとの絶え間ない闘いに尽力するすべての方々に敬意を表します。住友化学は20年以上にわたり、長期残効性防虫蚊帳(LLINs)やマラリア対策用室内残効性スプレー(IRS)製品において先駆的な役割を果たし、この病と闘う多くの人々に希望と力を届けてきました。
技術や対策の進展にもかかわらず、マラリアは依然としてグローバルヘルスの重大な課題のひとつであり、2023年だけでも約60万人の命が失われました。
私たちは、揺るぎない決意と希望を胸に、誰一人としてこの予防可能な病気に苦しむことのない未来の実現を目指してまいります」
住友化学株式会社
「今日、かつてないほどに世界は、これまでに築き上げてきたグローバルヘルスの成果を脅かす数々の課題に直面しています。マラリアは依然として世界で最も致命的な疾患のひとつとされ、多くの国々においてユニバーサル・ヘルスへのアクセスを妨げる大きな障壁となっています。
私は、日本がこのマラリア対策を、緊急性と確固たる決意をもって主導してくださることを強く願っています。そして、日本ならば、この大義を世界に訴え続け、先頭に立っていけると信じています。
Reinvest:今年のグローバルファンド第8次増資への拠出を増額し、2300万人の命を確実に救うための支援をお願いします。
Reimagine:新しい蚊帳といったマラリア対策の革新的なツールや技術を推進するとともに、各国がマラリア感染者を迅速に発見、検査、治療し、マラリア耐性を検出・対応できるイノベーションを進めていただきたい。
Reignite:世界中のリーダーたちに呼びかけ、力を結集して、マラリアの排除を私たちの世代で最も偉大で、人道的な成果としましょう。
日本がマラリア対策において多大な貢献とリーダーシップを発揮してきたことに心から感謝いたします」
オリビア・ンゴー 氏
Impact Santé Afrique事務局長
CS4MEグローバルコーディネーター
「私は東南アジアを中心に30年ちかく現地のマラリア対策に協力してきました。私が長らく関わってきたミャンマーでも、協力を始めた20年くらい前まではマラリアは死亡・罹患の首位を占めていて、住民を苦しめていました。その後、グローバルファンドを中核とする大きな資金援助を背景とした官民一体となった強力な対策が実施され、もはや東南アジアにおいては公衆衛生上の問題とはならなくなりました。しかし、遠隔地や紛争地域などではマラリアが高度に流行しているスポットが依然として多数残っていて、そこが再流行の「火種」となっています。マラリアの脅威を無くしていくためには、資金援助のみならず地域特性に根ざした「火種」撲滅のための技術協力を行うことが必要です」
中村 正聡 氏
元JICAミャンマーマラリア排除プロジェクト チーフアドバイザー
NPO法人Malaria Brigade International (国際マラリア対策団)理事長
「1分に1人がマラリアで命を落とすと言われ、その多くはアフリカで起きています。マラリア対策に必要とされるのは、研修を受けたスタッフ、迅速かつ有効な診断、信頼性ある治療を提供可能にする強固な保健システムです。マラリア対策のためにこうしたシステムを強化することは、マラリアだけでなく、その他の疾病にも有用であり、さらにはユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成にも貢献します。国民皆保険制度が確立されている日本は、UHCナレッジハブを通じて、途上国の保健医療システム強化のトレーニングを担う中核的存在になるのではないでしょうか。
「世界マラリアデー」にあたり、私たちは「Malaria Ends With Us: Reinvest, Reimagine, Reignite」」というテーマのもと、日本政府に対し、アフリカにおける現在進行中の保健医療強化イニシアチブへの支援を呼びかけます。また同時に、マラリア対策への国際的資金の62%を担うグローバルファンド(日本は48億9000万米ドルを拠出する世界第5位の公的ドナー)との卓越したパートナーシップをさらに強化することを日本政府に強く求めたいと思います」
フィツム・ラケウ・アラマイユ 氏
WACI Healthアフリカ連合リエゾン・オフィス所長
「マラリアは、現代において、最も感染症対策が成功した例のひとつとして挙げられています。
21世紀に入ってからというもの、私たちはマラリアとの闘いにおいて大きな前進を遂げてきました。しかし、この努力の賜物とも言える貴重な成果は、非常に脆く不安定です。マラリア対策への継続的な投資とこの課題に取り組む意志を持ち続けることができなければ、これまでの成果は失われ、マラリアの再拡大という重大な結果を招く恐れがあるのです。
ここで手を緩めてしまえば、これまでの成果が失われるだけでなく、マラリア対策そのものが大きく後退してしまうでしょう。マラリアの再流行は、すでに終息されたとされる地域にまで影響を及ぼし、何百万人もの命が危険に晒されることになります。
マラリアとの闘いはまだ終わっていません。今、立ち止まることはできません。そして、行動を起こすべきタイミングは「今」なのです。マラリアをなくすために、取り組みを一層強化させ、これまでに得た成果を無にしないようにしなければなりません。マラリア対策への投資は、多くの命を救うだけでなく、私たちの未来を守ることにもつながります。
「マラリアをなくす」未来の実現へ、日本のみなさまと共に力を合わせ歩んでいけることを願っています」
スコット・フィラー 氏
グローバルファンド マラリア対策責任者
マラリアは「遠い国の病」ではありません。
気候変動やグローバル化が進む中で、私たちすべてに関わる世界共通の課題です。
世界マラリアデーのこの日、多くの皆さまにマラリア対策の重要性を知っていただき、
共に「より健康で、公平な未来」の実現に向けた一歩をともに踏み出す機会となることを願っています。
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