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「結核:知られざるパンデミック」サンズ事務局長 ブログ

2023年3月22日
「結核:知られざるパンデミック」サンズ事務局長 ブログ

サンズ事務局長ブログを発表 結核をパンデミックと認識すべき

3月24日の世界結核デーを前に、グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長はブログ “Tuberculosis: The Unseen Pandemic”(結核:知られざるパンデミック)を発表しました。

ピーター・サンズ
Peter Sands, Executive Director, The Global Fund

サンズ事務局長は、世界のほぼすべての国で発生し極めて多くの人が死亡している結核をパンデミックと認識し、緊急事態として取り組むべきであると訴えています。また、戦後日本の結核対策の成功を例に取り上げ、結核に投資すれば、何百万人もの命を結核から救うと同時に、将来のパンデミックに備えるために保健システムを強化するという、二重の利益をもたらすと述べ、日本がG7の議長国を務め、世界で最も結核の被害を受けているインドがG20の議長国を務める2023年は、この二重の利益のチャンスをつかむ年であると結んでいます。

Tuberculosis: The Unseen Pandemic
20 March 2023
Peter Sands, Executive Director, The Global Fund


日本語仮訳

結核:知られざるパンデミック

2023 年 3 月 20 日
ピーター・サンズ 世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長

Q:致命的なパンデミックを無視するのはどんな時ですか?
A: それが結核と呼ばれる場合です

Q:なぜ無視するのでしょうか?
A:貧しい人や疎外された人しか死なないからです

 

2023年は、新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)よりも結核の方が、低・中所得国で多くの人の命を奪う可能性が高くなっています。しかし、結核には、新しいウイルスに対する政治的な注目や資金のごく一部しか注がれていません。グローバルファンドは、結核と闘う国々に対する国際支援の77%を提供していて、年間約8億ドルにのぼりますが、「ACTアクセラレーター」を通じて新型コロナと闘うために同じ国々に提供される資金は300億ドルを超えています。

結核は治せる病気であるにもかかわらず、その対策は蝸牛の歩みのように遅々としています。過去10年間、結核による死亡数は毎年2%づつ減少していました。しかし、新型コロナのパンデミックの間、専門家、機器、資金が新型コロナに転用されたため、結核による死亡者数は増加してしまいました。

パンデミックについて語るとき、私たちはしばしば、貧しい国でワクチンのような救命手段にアクセスできない不公平さについて話します。しかし、結核は別の種類の不公平の一例です。すなわち、豊かな国の人々を脅かす病気でなければ、パンデミックだと考えることすらしない、という不公平です。

数字と地理的範囲を見れば、結核はパンデミックとみなされる全ての判断基準を満たしています。世界のほぼすべての国で結核が発生し、非常に多くの人が亡くなっています(2021年の死亡数は160万人)。1993年、WHOは結核を公衆衛生上の緊急事態に指定しました。当時は最高レベルの脅威であり、新型コロナに与えられた指定でもあります。30年経った今でも、結核はこの指定を受け続けています。

結核の影響を直接受けている貧しい人々や疎外された人々にとって、世界の政策立案者がパンデミックへの備えに固執することは、残酷に思えるかもしれません。私たちは、家庭や経済に打撃を与える可能性のあるパンデミックに対抗するための投資を強化しています。しかし、実際に貧しい人々の命を奪い、経済的な見通しを脅かしている現実のパンデミックに対抗するための投資は停滞しているからです。世界の結核による死亡数の約50%はG20諸国で発生しています。

結核を放置することは、正義に反するだけでなく、賢明でもありません。薬剤耐性結核は、新型コロナと同様、空気が媒介する呼吸器感染症です。新型コロナほど感染力は強くありませんが、実はもっと恐ろしいのです。新型コロナは症例致死率が1桁台前半で、ワクチンが導入されると急激に低下したのに対し、薬剤耐性結核の症例致死率は50%近くにもなります。幸いなことに、薬剤耐性結核は新型コロナほど簡単に感染するものではありません。2021年には、全世界で約45万人の感染者が出た“だけ”です。しかし、新型コロナで学んだように、病原体が変異しないと考えることはできません。より感染力の強い薬剤耐性結核が登場すれば、本当に恐ろしいことになります。

結核対策にもっと投資すれば、他の潜在的なパンデミックに対する防御も強化されることになります。新型コロナが発生したとき、多くの国は新たな脅威に対応するために、結核検査機器、X線装置、隔離病棟、感染防止プロトコル、呼吸器専門医に大きく依存しました。結核を克服するために必要な医療システム能力は、ほとんどの潜在的なパンデミックに対応するために必要な中核能力です。そして、特にWHOが最も起こりうる脅威とみなしているのが呼吸器感染症なのです。

つまり、結核との闘いを加速して何百万人もの命を救うと同時に、将来のパンデミックに備えるために保健システムを強化するという、二重の利益をもたらす道を世界は選ぶことができるのです。

これは新しいアイデアではありません。実は、第二次世界大戦後に日本が行ったのと同じことなのです。1950年代初頭、日本は当時国内最大の死因であった結核と闘うために、最新の科学的手段、地域社会の動員、開業医や民間企業の関与、最も疎外されたコミュニティへの徹底した取り組みなどを組み合わせて、国を挙げて大規模な取り組みを開始しました。日本は結核の感染と死亡を劇的に減少させただけでなく、この取り組みを基盤として、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成し、強力な公衆衛生の要素を持ちすべての人が利用できる包括的な保健医療制度を構築しました。新型コロナは、日本のシステムの強さを証明しました。日本は世界でも最も人口高齢化が進む国で、多くの人が都市部の人口過密地域に住んでいるにもかかわらず、新型コロナによる死亡数は他の類似国よりはるかに少なかったのです。

私たちは日本から学び、この二重のチャンスを再びつかむべきでしょう。例えば、G7とG20のパンデミック対策アジェンダの中で最もエキサイティングな要素の1つが「100日ミッション」です。これは、新しいワクチン、治療薬、診断薬の開発・導入までの期間を短縮するという野心です。しかし、これまでのところ、この取り組みは、仮想の新しい病原体に対して、いかに迅速に対応するかに焦点が当てられている。しかし、結核でその能力を試すことはできないのでしょうか?結核ワクチンの候補はいくつかありますが、従来のやり方では、2026年までに大規模な展開ができれば運がよい、という程度です。つまり、1000日以上かかるということです。毎日4400人もの人々が結核で亡くなっているというのに、この差は大きい。さらに、過去40年間に承認された結核の新薬はわずか2種類しかなく、また、薬剤耐性結核を検出するための、より安価でより優れた診断薬が切実に求められています。

「パンデミック基金」もあります。しかし、私の知る限り、この新しい仕組みで結核対策に資金を提供する計画はありません。しかし、貧しい人々の命を最も多く奪っているパンデミックとの闘いに資金を提供しないのであれば、パンデミックのための基金に何の意味があるのでしょうか。結核の被害を直接受けている家族に対し、この資金は、実際に人を殺しているパンデミックである結核からあなたの愛する人を救うために使うことはできない、人を殺すかもしれない将来のパンデミックに対する備えのためにのみ使うのだと、どう説明すればいいのでしょうか。

2023年は、この二重のチャンスをつかむ年です。G7では日本が、G20では結核の被害が最も大きいインドが議長国であり、我々は適切なリーダーシップのもとにあります。今年9月の国連総会では、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、パンデミック対策、結核に関する各会合がすでに予定されています。しかし、これらの会議が注目度を競い合い、必然的に結核を敗者とするのではなく、結核との闘いを加速させることがUHCの進捗を加速させ、パンデミックへの備えを強化するということを示す包括的な戦略を構築しようではありませんか。

今週金曜日は、「世界結核デー」です。私の経験では、この日は通常、気が重くなるような体験となります。私たちが行っている対策のわずかな進捗を祝うとしても、目の前にある課題の大きさや、リソースやツールの不十分さの方が圧倒的に重いからです。このままでは、2030年までに公衆衛生上の脅威としての結核をなくすという持続可能な開発目標は達成できません。今年の世界結核デーは、これまでとは違うものにしようではありませんか。30年間、結核を世界的な保健上の緊急事態と表現してきましたが、今こそ、結核をパンデミックと認識し、緊急事態として取り組み、結核を収束させる時なのです。

(グローバルファンド日本委員会による仮訳。英文を正文とする)


戦後日本の結核対策の1コマ


結核とは (グローバルファンド日本委員会)

結核の最新情報(英文、グローバルファンドウェブサイト)

薬剤耐性結核とは (グローバルファンド Focus On 和文版)

 

 


 

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