レポート:アンソニー・ファウチ博士ウェビナー「新型コロナとエイズ・結核・マラリアへの影響」

この記事の掲載日 : 2020年09月19日(土) この記事のカテゴリー : , ,



2020年9月11日、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長 アンソニー・ファウチ博士が、米国フレンズ・オブ・ザ・グローバルファイト※主催のウェビナーに登壇しました。ファウチ博士は、HIV研究やその他免疫不全の研究に貢献してきた世界的な感染症の権威であり、今年1月からは米国の新型コロナウイルス対策を率いるリーダーの一人でもあります。

新型コロナウイルスが低・中所得国の基本的な保健サービスの中断を招いている中、エイズ・結核・マラリア対策に及ぼす影響、これを押し留めるにはどのような対応が有効なのか、また、これまでの感染症対策から学ぶべき点など、米国フレンズの理事長クリス・コリンズ氏と一問一答を行いました。エイズ対策の教訓として博士が挙げたのが、研究開発の重要性と、グローバルファンドや米国のPEPFARのような大規模の資金投下が果たした功績です。以下に主な発言をまとめました。ページ下部よりビデオもご覧いただけます(英語字幕付き)。


新型コロナが低・中所得国に及ぼす影響

私たちが今まさに目撃していることだが、すでに進行しているエイズ、結核、マラリアのようなパンデミックの中に、今回の新型コロナのような規模のパンデミックや大流行が起こった時、非常に深刻な状況が立ち上がってきて、他の疾患対応にも影響が出てくる。HIVの治療薬の供給やマラリア予防のための蚊帳の配布、結核治療薬の提供やケアができなくなるなどの弊害だ。それぞれの国で、新型コロナ前には割とうまくできていたことが、かなりの悪影響を受けることになる。

サハラ以南アフリカ諸国は概して欧米に比べて人口比で若者の割合が大きい。若者の間で重症化する人が少ないために、新型コロナの影響が小さく見えているかもしれない。しかし、遅かれ早かれ、若者から若者に感染が広がり、いずれ既往症のある人たちに感染が広がることで、(欧米と)同じような罹患率になるだろう。

先進国が低・中所得国のコロナ対策を支援すべき理由は?

エイズ、結核、マラリア対策を支援するのと全く同じ理由だ。豊かな国が自国内で行っている対策を、どの国でも行うことができるように支援するという、国としての倫理的な責任がある。もう一つ明らかに言えることは、世界規模で感染症をなくさない限り、どこも安全ではないということだ。自国で抑え込むことができたと思っても、世界の他の場所で流行している限り、遅かれ早かれまた流行がやってくる。

つまり、低・中所得国の新型コロナ対策を支援するに十分な理由が二つあり、そこには何の疑問もない。

 

私たちが今後すべきことー保健システムの構築と基礎研究の拡充

この新型コロナが、今後新たな病原体が出てくる危険性についての警鐘であるとしたら、この危機が収まった時すぐに次の別の問題に取りかかるのではなく、長年の課題である保健システムの構築に取り掛からなくてはならない。市町村レベルでもグローバルな保健の安全保障ネットワークとしても、実現する必要がある。

未知の病原体への備えとしては、プラットフォーム技術の開発が必要だ。新型コロナに関しては、1月10日に中国がデータベースを公開し、同月15日にはすでにワクチン開発がスタートしていた。その62日後には最初の第1相試験が行われ、6ヶ月後には最初の第3相試験が行われていた。これはプラットフォーム技術がなければ、4年はかかっていたことだ。

もう一つ挙げるなら、プロトタイプ病原体の準備だ。新たな病原体の出現にはいつも驚かされるが、病原体はどれも大きなプロトタイプに分類することができる。(中略)例えば、ジカ熱を引き起こすフラビウイルスは、黄熱病や日本脳炎と同じグループの病原体だったため、迅速に対応することができた。それぞれのウイルスに個別に対応するよりも、分類して対応すべきだ。

 

エイズから学ぶことは何かー研究開発とグローバルな対策への資金投下

抗HIV薬が開発できたことは大きな成功だった。基礎医学を駆使してウイルス転写サイクルを突き止め、抗レトロウイルス薬を完成させた。30数年前は絶対に無理だと言われていたが、今は適切な治療を受けることができれば、普通の暮らしができるようになった。HIVでできることは、新型コロナでもできるはずだ。

もう一つ大事な学びは、PEPFAR(米国大統領緊急エイズ救援計画)とグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)が大きな功績を果たしてきたということだ。世界的な対策に大規模な資金を投下すれば、世界三大感染症の現実を変えることができた。この教訓を新型コロナ対応にも当てはめることができれば、間違いなく状況を変えられると思う。

 

検査、治療、ワクチンーそれぞれ今、何が必要か

検査はようやく、高い感度と特異度をもった検査が大規模展開できるところまできた。これはサハラ以南アフリカなど、低・中所得国にも全く問題なく展開できるものだと思う。私が想定しているのはアボット社のBinaxNowだが、安価で、感度が97.1%、特異度が98.5%と非常に高い。例えば、サハラ以南アフリカの地域で、熱が出たときに、マラリアかHIVか結核か、または新型コロナかの区別がつかないが、これを15分で検査できる。米国はこうした綿棒1本で検査できるキットを1億5000万個購入している。これを最初に聞いたとき、さらに2億個購入して、途上国に配布できたらいいのに、と思った。

治療薬は大きな問題だ。人工呼吸器や酸素吸入が必要な患者のための良い薬がいくつかあるが、アフリカ諸国で必要なのは、軽症の患者が自宅待機できるようにする種類の薬だ。今朝の会議でまさに話していたことだが、抗HIV薬のような経口薬で、数日間はそれを飲みながら自宅で様子を見て、悪化したら入院するというような対応を可能にする薬が必要だ。レムデシビル(Remdesivir)はそうした薬の一つだが、この種類の薬はまだあまりパイプラインにない。

そしてワクチン。米国では連邦政府が6〜7社と交渉を行い、開発を支援したり、第3相臨床試験を行う実施機関を提供したり、また相当数のワクチンを事前購入したりと投資をしている。私が希望を感じるのは、ワクチン数が米国で必要な数を遥かに超えているということだ。これらの会社は、さらに1年以内に数十億人分のワクチンを準備できると考えているという。もし、いくつかの会社がそれぞれ数十億人分のワクチンを準備できるようになれば、低・中所得国にもワクチンを行き渡らせることができると思う。

 

新型コロナの影響を受ける三大感染症対策では何が必要か?―鍵となるのは“革新と規模”

エイズ対策で必要なのはワクチンだ。HIVの性質ゆえに困難だが、何とか成功させて、改善していきたい。完成次第、世界中で使えるようにすれば、HIVを葬り去ることができる。もう一つ実現したいのは、長期間にわたって効果を持続できる薬の開発だ。服薬疲れを生じている人たちのために、例えば年に2回の注射による投与で済むような薬が必要だと思う。ワクチンのことだけ考えるのではなく、今現在HIVとともに生きている3600万人のために、使いやすい、大規模に展開できる薬を開発したい。

結核については、新規の感染を予防するだけではなく、世界の人口の25-30%にものぼる潜在性結核患者の発症も防ぐようなワクチンが必要だ。また、世界で広く使うことができ、短期間で完治できる治療も必要だ。

マラリアに関してだが、身体が免疫を作れない病原体に対してワクチンを開発するのはそもそも容易ではない。だが、前進しつつある。それに、アフリカの子どもたち何十万人もの命が救えると考えれば、驚異的な達成になる。これらが実現すれば、途上国における疾病罹患率や死亡率を左右している三大感染症の経過を変えることができるだろう。

 

社会経済的要因と人権が新型コロナにおいて果たす役割

これは必須の要因だ。だからこそ、ユニーバサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を実現しなくてはいけない。米国の統計を見れば、10万人あたりの入院や死亡は白人よりもアフリカ系アメリカ人の方が3~5倍多い。ラテン系の人々にも同じようなことが言える。社会経済的な要因は、私はUHCにより左右されると思うし、非白人に多い糖尿病や肥満、高血圧、慢性的肺疾患や肝臓病などの疾患は、UHCがあれば大幅に緩和できるはずだと思う。

 

地域の医療従事者を守ることが必須

エボラの流行時と同様、医療従事者が最も脆弱な立場にある。米国での研究で、日々、新型コロナ患者に近距離で接しており、明らかにリスクの高い医療従事者の方が、N95マスクやシールドなどの非常に良い個人防護具(PPEs)を使用できるために、一般人口よりも罹患率が低いことがわかっている。だから、低・中所得国の支援をする際には、特に注意して、医療従事者にPPEsを提供するようにするべきだ。それをしなければ、感染力の極めて強いこの疾患により、あっという間に医療従事者たちを失うことになるからだ。

 


アンソニー・ファウチ博士 略歴(NIAIDウェブサイトより)

1984年、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長に就任。エイズ、呼吸器系感染症、下痢性疾患、結核、マラリア、さらにエボラウイルス病やジカ熱など、幅広いポートフォリオに関する予防、検査、治療の基礎及び臨床研究を監督している。NIAIDは移植や免疫関連疾患に関する研究も行っており、自己免疫障害や喘息、アレルギーなどが含まれる。NIAIDの2020年度予算は59億ドルと見込まれる。
ファウチ博士は、エイズや国内外の保健課題について、6人の大統領のアドバイザーを務めてきた。また、低・中所得国で数百万人の命を救ってきたプログラム、PEPFAR(米国大統領緊急エイズ救援計画)の基本設計に関わった一人でもある。

 

※ 米国フレンズ・オブ・ザ・グローバルファイト(The Friends of the Global Fight)について

日米欧にあるグローバルファンド支援のための「フレンズ」グループの一つ。2004年に設立、ワシントンD.C.に拠点を置き、エイズ、結核、マラリア流行の終息を目指し、米国国内におけるグローバルファンドや米国の二国間援助による三大感染症対策に関する情報発信、官民連携の促進など、支援拡大に取り組む。