アジアの企業によるグローバルファンドを通じた支援は、武田薬品から始まりました。15年におよぶ支援は「タケダ・イニシアティブ」と名付けられ、民間パートナーシップの先駆けとして、アフリカでの感染症対応への支援にとどまらない多くを残しました。
「タケダ・イニシアティブ」によるケニアでの母子保健プログラムの現場から届いたストーリーです。
[妊婦と新生児をケアする」ケニアの母子健康と感染症の統合ケア
*本記事は、グローバルファンドの記事をもとに、グローバルファンド日本委員会が抄訳、再構成しました。

キャサリン・ニィヴァにとって、初めての妊娠は困難な経験を伴うものになりました。何が起こるかわからず不安ばかり募りました。「とても怖かったです」と彼女は言う。「クリニックに行っても、看護師と話したり、不安を伝えたり、質問する時間さえもありませんでした」。
その後、キャサリンは元気な女の子を出産しましたが、妊娠・出産につきまとう不安を取り除くには長い時間がかかりました。
キャサリンの娘ステイシーは現在10歳、よく気が付く好奇心旺盛な女の子です。

今、キャサリンは第2子を妊娠しており、ヴィヒガ郡の拠点病院で出産する予定です。この病院は、HIV、結核、マラリアの各検査と治療を母子保健のプログラムに統合したサービスを提供する、61の医療施設のうちの一つです。
このプログラムは、武田薬品からの支援を受けて、地元の保健当局、グローバルファンド、リバプール熱帯医学校のパートナーシップにより実施されています。
世界保健機関(WHO)によると、ケニアでは2022年に推定500万人がマラリアに罹患し、その多くは妊婦と5歳未満児でした。ケニアの伝染性疾患、妊産婦疾患、新生児疾患の中で4番目に多い死因が結核であり、また、ケニアはHIVの高負担国の一つでもあります。
妊娠は、女性やその家族が確実に保健医療サービスにつながる、数少ない重要な機会になります。
「当院の看護師や助産師が初めて接する医療者だという患者さんがほとんどです」ヴィヒガ郡拠点病院の看護師のアミーナ・バラカ氏はこう話します。
アミーナと同僚たちは、健康診断や定期的な妊婦健診に加えて、妊婦と一緒にクリニックを訪れる家族に対してもHIV検査を行います。HIV陽性と判明した女性には、母子感染を防ぐために抗レトロウイルス薬を投与します。

看護師は、結核やマラリアのスクリーニングを行い、特に妊婦や赤ちゃんにとって危険とされる、これら疾病の予防法をアドバイスします。また、看護師は病気やリスクになりうる危険因子を特定するため、パートナーからの暴力などを含めた詳細な病歴の聞き取りを行います。

こうした方法で患者と医療者の間に信頼と関係性を築いていくことも、研修の実践の一つです。
「今回は全く違ったものでした」キャサリンの言葉です。「看護師たちはオープンで協力的で、どんなことでも相談できました」
看護師のエバリン・オムソンガが陣痛室に配属された7年前、病院はしばし人手不足に直面していました。
「気がつくと、10人、12人の分娩をたった一人でこなしていました」
統合ケア研修の一環として、エバリンは、まだキャリアの浅い看護師たちに母親たちと関係を構築する方法、サービスの仕方などを教えるようになりました。現在、エバリンはトレーニングを受けた陣痛室の看護師14人を監督しています。

また、エバリンはクリニックで行われる定期的なグループ活動も担当しています。ヘルスケアワーカーと10~12人の妊婦が集まり、産前から産後までにすべきこと、起こりうることについて学び、特にしっかり食事をとり、蚊帳の下で眠り、十分な休息をとることなどの重要性などについて話し合う機会を設けています。
出産や母性にまつわる不安や希望、経験を分かち合う、話し合うことを大切にしているのです。

エバリンは、ヴィヒガ郡紹介病院の陣痛室で10年近く、妊産婦クリニックで2年の経験を有する経験豊富な看護師です。
エバリンは、研修・トレーニングが違いを生むと考える: 「私たちはより質の高いケアを提供できるようになりました」
「自分は孤独ではないと感じることができ、気が楽になります」とキャサリンは話します。「勇気を持てる気がして、不安な気持ちも開放されます」
リバプール熱帯医学校によるプログラムは、わずか3年の間にケニア、タンザニア、ナイジェリアで1,200人以上のヘルスワーカーを養成し、130万人以上の妊婦とその家族に保健医療サービスを届けました。
2019年の同プログラム開始当初と比較して、ヴィヒガ郡のHIVの検査率は30%以上、スクリーニングの実施率はマラリア164%、結核は117%増加したことからも、母子保健に感染症のケアを統合したプログラムの効果がうかがえます。
より多くの人々、特に感染症に対して最も脆弱であるとされる人々に救急医療を含めた保健医療を提供するために、産前・産後ケアにエイズ、結核、マラリアのケアサービスを組み込むことは、効果的であり費用効率も高い方法です。母親一人ひとりの身体的および感情的側面と心理的ニーズをサポートする医療者の育成と地域コミュニティを構築する役割も果たしています。

「私たちは、妊産婦一人ひとりを受け入れ、居場所を提供し、名前を呼びかけ、彼女たちのプライバシーを尊重します」とアミーナは述べています」
「ヘルスワーカー、女性、そして地域住民にとっても、このプログラムは保健医療だけでない多くをもたらしてくれています」
謝辞
武田薬品工業株式会社とグローバルファンド日本委員会が出会ったのは2009年秋、15年前に遡ります。数か月にわたる話し合いを経て、日本のみならずアジアでも初となる民間企業によるグローバルファンドへの大型寄付が実現しました。武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)によるこのコミットメントは、10年間にわたる長期的なものでもあり、グローバルヘルス分野における日本企業の先駆的な取り組みは国際的にも高く評価されました。
「タケダ・イニシアティブ」と名づけられたこの大型寄付は、2010年から2019年にかけてグローバルファンドが支援するアフリカの感染症対策プログラムのうち、保健医療人材の育成・強化を中心とした保健システム強化での取り組みに対して活用されてきました。10年にわたってのべ10億円が拠出され、タンザニアでは蚊帳の配布等によるマラリア予防、ケニアでは結核治療アクセスの改善、ナイジェリアではHIV治療の拡大や予防啓発活動の強化などの支援につなげてきました。
また、日本におけるグローバルファンドの広報や啓発活動にも多大なるご助力をいただきました。写真展「命をつなぐ:マグナムの写真家が見たエイズ治療の最前線」、南アフリカのオペラ・カンパニー「イサンゴ・アンサンブル」による結核で倒れる主人公を描いたオペラ「ラ・ボエーム」の日本公演などにも後援いただき、多くの方に感染症について知っていただく機会を設けることができました。
その後も、5年間の「タケダ・イニシアティブ2」を打ち出し、民間企業として初めてグローバルファンドの第6次増資への拠出を表明、2020年から2024年にかけては、アフリカ3ヵ国での母子健康保健活動を支援いただきました。
武田薬品によるグローバルヘルスへのコミットメントは、感染症プログラムでの確かな成果をもたらしただけでなく、CSR活動における長期的コミットメントのロールモデルとなっています。
ここに、グローバルファンド日本委員会より改めて感謝の意を表します。
グローバルファンド日本委員会
2025年3月4日開催の「グローバルファンド日本委員会リーダーシップ・アワード」にて、グローバルファンドを通じたアフリカでの感染症対策への長期的支援を称え、企業部門に武田薬品工業株式会社様を選出させていただきました。