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ピーター・サンズ グローバルファンド事務局長来日の主要メッセージ

2023年3月17日
ピーター・サンズ グローバルファンド事務局長来日の主要メッセージ
Peter Sands
グローバルファンド日本委員会とGHIT Fundが共催したパブリックセミナー「ゲーム・チェンジャーズ:感染症と闘う日本のイノベーション」で日本のテクノロジーへの期待を述べるサンズ事務局長(2023年3月1日)

 

2023年228日~32日にかけてグローバルファンドのサンズ事務局長が来日し、政府要人との会談ほかグローバルファンド日本委員会主催の会合などにご出席いただきました。来日中の各会合での主なメッセージは以下の通りです。


グローバルファンド第7次増資に対する日本の拠出への感謝

最大10.8億ドルという日本の拠出誓約に心から感謝したい。日本の誓約自体が過去最高の素晴らしいものであったが、加えて、8月という早い時期に日本がTICADの機会をとらえて、前回増資に比べ約3割増しの誓約をしたことが、他のドナー国(欧州委員会、カナダ、ドイツ)にも良い影響を与え、9月の増資会合に向けた基調が作られていった。日本には素晴らしい役割を果たしていただいた。

G7広島サミット

2023年5月に日本で開催されるサミットは、コロナ後を見据えたグローバルヘルスにとって、非常に重要な意味を持つ。今年1月の岸田総理によるランセット誌への寄稿を拝読している。グローバルファンドとしても、日本政府のアジェンダ作りにご協力したい。

日本国際交流センターが事務局を務める「グローバルヘルスと人間の安全保障」運営委員会にゲストスピーカーとして参加、右は委員長の武見敬三参議院議員(2023年3月2日)

公衆衛生危機への備えについてG7が、グローバルサウスも含めG7以外の国々の共感を得るためには、今目の前にある危機、現在多くの人の命を奪っている病気を通じて将来のパンデミックに備えるべきである。リソースの少ない低・中所得国は、将来出現する仮想の病原体だけのために備える余力はない。将来の危機に備えることだけを成果目標とした支援がなされると、例えばラボに専門の別室ができ、そのための機材、人材が配備されるが、危機でない間は適正に使われない、といったことが起きるのではないかと危惧する。普段やっていないことは、危機の時にもできない。既存の感染症対策と別のメカニズムを作るのではなく、現実に人の命を奪っている病気に対応する中で将来の感染症への備えを加速化すべき。将来の脅威でも現在の脅威であっても、脅威に備えるためのラボ、サプライチェーンや人材など保健システムの基盤は共通である。

UHCについて:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の”U”(ユニバーサル)は、自然に達成できるわけではない。誰ひとり取り残さず、真にユニバーサルに保健医療サービスを届けるためには、考え抜かれた計画と強い意思が必要だ。サービスを必要とする人にサービスを届けることが困難な疾病ほど、より大変な努力が必要とされるが、それを克服すればUHCにより近づくことができる。グローバルファンドがコミュニティのネットワークやシステムに力を入れているのは、コミュニティを通すことで、最も脆弱で保健サービスが届きにくい人に届けられるからであり、また、質のよい保健サービスへのアクセスが公平になるからである。”C”(カバレッジ)の拡大と公平性は、まさにUHCの中核である。

保健システム強化

グローバルファンドは、従来から三大感染症対策の基盤となる保健システム強化に注力してきた(年間10億~15億ドルを支援)。多くの国でこれが今般の新型コロナへの対応にも貢献したと自負している。現在、7次増資で調達した資金をもとに支援対象国(126カ国)と次の3年の事業について協議しているところである。過去の実績から類推すると各国への配分のおよそ1/3は「健康のための強靭で持続可能でシステム」作りに配分されると考えられる。保健システムというと、通常、病院施設や医師・看護師などを含む医療体制のことを思い浮かべがちであるが、低・中所得国ではそうした公的な保健医療制度に加え、行政のサービスが届きにくい人々の健康を支えるコミュニティの仕組みや、人権擁護やジェンダー規範なども重要な要素で、グローバルファンドはこれを「健康のための強靭で持続可能なシステム」(Resilient and Sustainable Systems for Health: RSSH) と呼ぶ。アフリカとアジアの33カ国をRSSHの優先国として支援を強化しようとしている(内容はラボ、サプライチェーンやサーベイランスの強化、保健情報管理システムの整備・強化、コミュニティ保健人材の育成、保健財政への支援など)。

日本のイノベーションへの期待

感染症対策を進める上での障壁を取り除くためのイノベーションが求められている。HIVで言えば、リスク下にある人々の集団ごとのニーズを正確にとらえたきめ細かい予防策、結核では、結核患者をより多く発見するためのツール(診断薬、X線、検査機器など)や患者さんが服薬遵守するためのツール、マラリアでは、子どもの命をまもる迅速診断と薬剤耐性、殺虫剤耐性への対応が急務である。日本の新しい技術や製品に期待している。グローバルファンドは、年間15億ドル規模の医療用品プール調達メカニズムを持つ。「規模の経済」で製品の価格を下げより多くの人に届けることに成功している。価格の低下は製造企業からは必ずしも歓迎されないことかもしれないが、長期購買契約、調達システムの標準化などグローバルファンドが製造企業に提供できる付加価値も多々ある。また、今、最も関心があるのは、開発された新しい技術がそれを必要とする人々に届くまでの期間をいかに短縮し、プロセスを加速化するかである。新型コロナの教訓を生かすべきだ。UnitaidGHIT Fundなどのパートナー組織とともに挑戦していきたい。

結核予防会結核研究所訪問の様子(2023年3月1日)
日本の結核対策について

31日に東京都清瀬市の結核予防会結核研究所を訪問した。1950年~60年代に日本でいかに結核が蔓延していたかを改めて認識し、国をあげた結核対策に感銘を受けた。それは、行政のみならず、学校や企業、自治体、民間クリニックなど社会全体で結核検診に取り組んだこと、地域の母親たちのネットワークが健診や予防接種に大きな役割を果たしたこと、(結核は余りに規模が大きかったため)結核医療は公費で負担される制度があり国民皆保険は使われなかったこと等であり、現在の低・中所得国における結核対策でも大いに参考になる。また、現代の日本にとって、高齢化や外国出生者の増加が、結核対策上の大きな課題であることも認識した。特に後者は日本にとって健康安全保障上の課題であり、グローバルファンドとも関連がある。


気候変動と保健の関係

気候変動が感染症に及ぼす影響について、強い懸念を持っている。パキスタンの洪水でマラリアが増加したように、異常気象で雨量が増大することによるボウフラの発生増や、温暖化による蚊の生息域の拡大によるマラリアの発生増が懸念される。さらに現在、干ばつによる難民・避難民などの「人の移動」や、食糧危機による栄養不足が三大感染症にも甚大な影響を与えており、グローバルファンドとしても注視している課題である。

 

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