グローバルファンド日本委員会は、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)と共催で、2023年3月1日に公開セミナー「ゲーム・チェンジャーズ:感染症と闘う日本のイノベーション」を開催しました。ハイブリッド形式で行った当セミナーにはグローバルファンドのピーター・サンズ事務局長をはじめ、日本の国会議員、外務省・厚生労働省の関係者、製薬・医療機器関連企業の方々など国内外から200名近くにご参加いただきました。セミナーのプログラムブックはこちら。
開会挨拶
まず日本国際交流センター理事長の大河原昭夫が、当セミナーを通じてグローバルヘルスにおけるイノベーションが果たす役割の理解促進につながることを期待すると述べ、続いて、グローバルファンド日本委員会共同議長の逢沢一郎 衆議院議員は、セミナーのタイトルは大変勇ましく野心的で、これから未来を切り開いていくぞ、という気迫・気概が伝わってくると述べました。
対談セッション
「三大感染症の収束に向けた課題とイノベーションへの期待」と題して行われた対談の中で、グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長はまず、感染症対策の現場における障壁を克服するためにどのような技術革新が求められているかを説明しました。HIVでは、リスク下にある人々の集団ごとのニーズを正確にとらえたきめ細かい予防策が必要、結核では、結核患者をより多く発見するためのツール(診断薬、X線、検査機器など)や患者さんの服薬を助けるためのツール、マラリアでは、迅速に診断できる検査と薬剤耐性・殺虫剤耐性への対応が急務であると解説し、日本の新しい技術や製品が貢献できる分野は大きいと期待を述べました。
また、保健システム強化支援については、膨大なニーズがあり限られた財源をどこに投資するかは国によって全く異なると課題を指摘し、より効果的な支援をするためには、より良いツール、人材、コミュニティのシステムが重要だと語りました。最後に、年間15億ドル規模の医療用品の調達について述べ、グローバルファンドはプール調達メカニズム(注¹)を活用しており、「規模の経済」で製品の価格を下げより多くの人に届けることに成功している。価格の低下は企業からは必ずしも歓迎されないかもしれないが、長期購買契約、調達システムの標準化などグローバルファンドが企業に提供できる付加価値も多々あり、win-winの状況を作っていきたいと理解を求めました。
スペシャル・リマークス
「公平なアクセスのための連携」の視点から、外務省の原圭一国際協力局審議官及びユニットエイドのカルメン・ペレズ・カサス シニア・テクニカル・マネージャーに特別発言をいただきました。原審議官は、今年5月のG7広島サミット及びG7長崎・保健大臣会合に向けた日本政府の取り組みを推進していくこと、新型コロナ対応の経験や教訓も踏まえ、感染症による被害の軽減、パンデミックの早期収束のためには、「誰一人取り残さない」形で感染症危機対応医薬品等(注²)の公平なアクセスを確保することが必要であると話しました。またこのためには、GHIT Fund、ユニットエイド及びグローバルファンドをはじめとする関係機関が、それぞれの知見や専門性を最大限発揮しつつ緊密に連携することが重要と述べました。
続いてユニットエイドのカサス氏は、感染症と闘うためにはイノベーションが必要で、それらを必要とする人々に届けるのがユニットエイドの役割であると述べ、日本発のイノベーションが実際に活用されるようユニットエイドと連携した事例を紹介しました(塩野義製薬の抗HIV薬、大塚製薬の抗結核薬、富士フイルムなどによる結核診断キットなど)。またユニットエイドは、企業の開発促進のためのインセンティブを提供したり、リスク低減をサポートしつつ医薬品特許プール(MPP)を通じて医薬品を安価に供給することにも貢献している。その結果として、日本のイノベーションである抗レトロウイルス薬ドルテグラビル(注³)も、ユニットエイドによるサポートを経て、グローバルファンドとパートナー機関によって大規模に供給され、低・中所得国のHIVとともに生きる数百万人の治療の中心となり、多くの命を救っていると結びました。
パネルセッション「ゲームチェンジャーをいかに早く広く現場に送り出すか?」
パネルセッションでは、まず國井修氏(GHIT Fund CEO)がゲーム・チェンジャー(流れを一変させる新しい技術)が必要とされる背景、ゲーム・チェンジャーとなる治療薬や診断薬が世に出るまでの課題やGHITが支援する製品開発例について説明、紹介されました。その後、結核分野については、世界結核終息戦略の目標達成のために必要な技術革新と日本の貢献について加藤誠也氏(結核予防会理事、結核研究所所長)、富士フイルムの結核迅速診断キットをはじめとする結核対策事業の取り組みについて岡田美広氏(メディカルシステム事業部 IVDイノベーション部長)、大塚製薬の抗結核薬の取り組みについて川﨑昌則氏(医薬品事業部 抗結核プロジェクト グローバルプロジェクトリーダー)よりご紹介いただきました。マラリアについては、マラリア排除の課題と戦略について国立国際医療研究センターの狩野繁之氏(熱帯医学・マラリア研究部部長)、SORA TechnologyのドローンとAIを活用したマラリア対策事業について金子洋介氏(創業者兼CEO)からそれぞれご発表いただきました。その後、グローバルファンドのサンズ事務局長も加えて全パネリストが登壇したディスカッションでは、いかに製品開発を加速させ、必要とする人に迅速に届けるか、製品開発の過去の教訓を事例に挙げながら活発なディスカッションが繰り広げられました。最後にサンズ事務局長からは、日本の企業には、理事会への参画などを通じてグローバルファンドのガバナンス・システムの中に加わってほしいとの要望が寄せられました。
閉会挨拶
セミナーの最後には、厚生労働省大臣官房国際課の井谷哲也国際保健・協力室長にご挨拶をいただきました。 研究開発から地域の実情やニーズに応じたデリバリーまでのプロセスを迅速化するため、包括的なエンドツーエンドの経路確保は公平なアクセスを実現する上で非常に重要であり、グローバルファンドや GHIT Fund をはじめ既存の枠組・プラットフォームを有効活用していくことが、公平なアクセスの実現に向けた現実的なアプローチであると述べ、セミナーは終了しました。
注¹:国ごとに個別に調達していては効率性が下がるため、グローバルファンドでは「プール調達メカニズム(Pooled Procurement Mechanism: PPM)」という一括調達方式を用いて、支援対象国の代わりに調達の価格や条件等を製品メーカーに交渉し、対象国のニーズにあった物品量や価格の範囲で調達している。
注²:感染症危機対応医薬品等(MCM)は、公衆衛生危機管理において、救命、流行の抑制、社会活動の維持等、 危機への医療的な対抗手段となる重要性の高い医薬品や医療機器等のことをいう(厚生労働省ウェブサイトより)。
注³:ドルテグラビルは、塩野義製薬とViiVヘルスケアとの共同研究開発より創製され、ViiVヘルスケアに権利が導出された抗レトロウイルス薬。医薬品特許プール(MPP)に登録され特許が無料で開放されているため、低・中所得国へも安価で供給され、HIV患者の治療に貢献している。