6月24日、グローバルファンドは新型コロナ対策に必要な追加資金として50億ドルの資金調達を開始することを、レポート『Mitigating the Impact of COVID-19 on Countries Affected by HIV, Tuberculosis and Malaria』(三大感染症の深刻な国々における新型コロナウイルスによる悪影響を緩和する)にて発表しました。この背景にあるのは、新型コロナウイルスがエイズ・結核・マラリア対策に連鎖反応(knock-on impact)を起こし甚大な悪影響を与える可能性です。
ポイント1:新型コロナウイルス対応により、三大感染症対策が影響を受ける
グローバルファンドの調査によれば、新型コロナウイルスによる三大感染症への悪影響として、現在進行形の様々なサービスがかなりの高確率で中断・混乱することがわかっています。
*HIV対策の85%、結核対策の78%、マラリア対策の73%が何らかの形で影響を受ける。
影響は多岐に亘ります。
- ロックダウン(によりサービス自体が実施できない)
- 人が集まる場を持つことができないため、予防プログラムが実施できない(例:集会で蚊帳を配ることができないので戸別訪問して配布)
- 物流が止まることにより、医薬品などの在庫が不足する
- 検査機器や人材が新型コロナウイルスへの対応に割かれてしまう
- 新型コロナウイルスに関連するスティグマ
- 新型コロナウイルス感染症の症状が結核やマラリアの初期症状と似ているため、保健従事者が結核やマラリア対策に関わることを避けるようになる
- 新型コロナウイルスへの感染の恐れや経済的な困窮により、受診や検査、その他保健サービスを受けなくなる
例えば、HIVと結核の検査の20%余りが新型コロナウイルスの影響を受けて実施されなくなっているため、治療に繋げることができず、感染を拡大させると見込まれているのです。
ポイント2:エイズ・結核・マラリアによる年間死亡数が倍増する恐れ
グローバルファンドは、新型コロナウイルスの影響が拡大すると2020年のエイズ、結核、マラリアによる死亡数は2018年と比べ最大で2倍まで増える可能性がある、としています。UNAIDS、WHOおよびストップ結核パートナーシップ(STBP)による複数のモデリング研究によれば、新型コロナウイルスの影響により保健システムが崩壊し三大感染症のサービスが中断すれば、2020年のそれぞれの死者数は以下の通り増加するとの推計結果が発表されており、年間240万人が死亡する三大感染症の何年もの努力が無駄になりかねない事態です。
各疾病による死亡数推計(詳細はレポートp.6-7参照)
- エイズ:2020-21年の12か月のサハラ以南アフリカでのエイズによる死亡数は、2018年の死亡数から534,000人増加
- 結核:2020年の全世界の結核による死亡数は、2018年の死亡数から525,000人増加
- マラリア:2020年のサハラ以南アフリカでマラリアによる死亡数は、2018年の死亡数から382,000人増加
ポイント3:緊急で必要な追加資金は、12カ月で50億ドル
これらの状況を受けて、グローバルファンドはまず、緊急的な新型コロナウイルス対応として合計60億ドルを投資することを決め、資金調達を始めました。つまり、緊急資金を投入することで新型コロナウイルスによる三大感染症への最悪の影響を抑え込み、すでにエイズ・結核・マラリア対策として確保されている2021年以降のための資金を、当初の予定通りに三大感染症対策に使えるようにするという狙いです。
今回発表されたレポートでは、これまでにグローバルファンドが新型コロナウイルス対策として投資した10億ドルを除く50億ドルを新規で調達するとしました。期間は来年7月までの12カ月間、その内訳は以下のようになっています。
- 三大感染症プログラムを新型コロナに適応させる方策および
保健従事者の保護(個人防護具の調達等)と保健システム強化 62% 37億ドル
- 新型コロナウイルス対策(診断キット、治療薬の展開) 38% 23億ドル
ここで注目したいのは、以下の図式の中央部分です。先日FGFJが開催した議員タスクフォース会合でサンズ事務局長は、保健システムが脆弱な国々での、地域に根ざしたヘルスワーカーの存在の重要性を強調しました。
保健資源の限られたコミュニティでは、ヘルスワーカーの存在が不可欠です。彼らがきちんと個人用防護具を入手し、訓練を受けて、新たな感染症を含む地域の保健対策に取り組むことができるようにすることが、全ての命を救うことに直結します。また、例えば、三大感染症のための検査設備は、GeneXpertといった診断機器の例を取り上げるまでもなく、既存の感染症に対応できていると、新型コロナウイルスへの対応も可能になります。
50億ドルのうち、グローバルファンドが18億ドルを最前線のヘルスワーカーの支援に、9億ドルを保健システムの強化に当てているのはそのためです。
新型コロナウイルス対策では、グローバルファンドは新たに作られた「ACTアクセラレーター」の創設メンバーとして、4つの柱のうち、検査パートナーシップと保健システムコネクターの二つで共同議長を務めるとともに、治療薬パートナーシップにおいても調達と分配の2分野を主導し、WHOやユニセフをはじめとする関係機関との調整役や、アフリカCDCとの協働事業も担っています。
グローバルファンドは、それぞれがパンデミックである3つの感染症対策のためにできた国際機関であり、その対策の難しさを熟知していると同時に、そのための強みも持ち合わせています。そのうちの大きな一つが「パートナーシップ」。官民の垣根を越え、当事者の声を聞き、現場と密着した成果の上がる感染症対策を推進するための仕組みをグローバルファンドは内包していると言えるでしょう。
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