グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長をはじめ、日本の国会議員、外務省・厚生労働省の関係者、保健医療分野の専門家、感染症の当事者を含む市民社会、民間企業、国際機関の代表など国内外から約150名のご参加を得て、15周年を祝うことができました。日本委員会の15周年は偶然にもグローバルファンドの第6次増資の年と重なったことから、このイベントは増資をテーマにとりあげ、なぜ日本がグローバルファンドに資金を出すのか、納税者として一人ひとりに考えていただく機会となりました。
2004年、新たな外交課題“感染症”へのオールジャパンの対応として誕生
三大感染症への取り組みは将来への投資である
さらに鈴木政務官は、民間での外交対話を担ってきた日本国際交流センターの尽力によってグローバルファンド日本委員会が発足して以来、15年の間に各界の有識者の参加を得て行われた様々な活動に敬意を表すとともに、その活動が感染症対策における日本の官民協力の促進と日本の国際貢献に繋がってきていることを誇りに思うと述べ、「三大感染症への取組みは、世界の将来への投資である。国会議員の一人として国民の皆様の理解が得られるよう努力していきたい」と結びました。
第6次増資計画:140億ドル以上の調達を目標
プレゼンテーションの詳細は後日公開いたします。
「誰も取り残さない」感染症対策に不可欠なのは当事者の参画
フィリピンのエロイザ(ルイ)・ゼペダ・テン氏は、多剤耐性結核にかかった体験をもとに、患者自身が病気と治療・副作用を理解し、障害者への差別をなくすために自ら立ち上がることの重要性を強調しました。
————————-
自暴自棄になっていたあるとき、自分より重い障害をもった人たちに出会い、自分の人生を受け入れる決断がついた。2013年にアクティビストとしての活動を開始。結核治療薬の誤った服用によって聴覚を失う患者は多く、そうした人たちのための結核障害委員会を立ち上げ、CKAT(結核アドボケーツ協議会) も設立し、結核に罹患した人々が受けている治療や副作用について正しく知ることを推進する活動を主導している。結核対策ではまだ医療の面が優先されていて、人権について語る機会が少ない。フィリピンでは、かつての大統領さえ結核で命を落としているにもかかわらず、未だに守秘義務が重要視され、結核に罹ったことを隠さなければならない。また、国民の2割は障害者であり、結核患者もその一部である。今後の取組みを前進させるためには、コミュニティのキャパシティ構築をし、人権に基づいた社会保障を整備していくことが極めて重要である。”
インドネシアのオマール・シャリフ氏(世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+) プログラム・オフィサー)は、当事者を感染症対策の担い手とすることの重要性に理解を求めました。
“私は、薬物依存から一度回復し、海外に新しい職を得て心機一転新しい暮らしを始めた直後、在留資格を得るための検査でHIV感染が判明、即刻解雇、国外追放となった。HIVについて何の知識もなかった私は、ヘロイン使用を再開、2年間ホームレス生活を送った。そんな時、救いは、仲間のドラッグユーザーからやってきた。地元の大学とグローバルファンドの支援を受けたハームリダクション・プログラムがドラッグユーザー自身によって運営されていたのだ。清潔な針の必要性や代替薬物に関する指導を受けたのは初めてだった。私はコミュニティ・ミーティングに参加するようになり、やがて定期健診やHIV治療を開始することができた。そして、同じように苦しむ仲間への支援を拡げるために、インドネシアHIV陽性者ネットワークの設立にも加わり、次第にアジア地域やグローバルな活動にも関わるようになっていった。”
“エイズ対策には、当事者コミュニティが重要である。薬物使用者は、差別やスティグマを恐れるので、自ら公共サービスに出向くことはない。しかも、薬物使用者は早起きではないので、保健センターの9時~5時のサービスには誰も行かない。当事者の声を聞き、彼らの暮らしにあった対策を打つ必要がある。結核もエイズも、病気の社会的背景に対処しなければ、流行を終息させることはできない。一方で、国際支援から卒業する頃になると政府がまず予算から外そうとするのは、性産業従事者や薬物使用者、男性同性愛者などへのエイズ対策である。「誰一人とり残さない」というSDGsの取組みを前進させるためには、グローバルファンドがしっかりと卒業までの移行期を支えて、こうした人々を国が支援するルートを確保することが極めて重要だ。”
——————————
様々な日本の組織がグローバルファンドと接点をもつ
続く「グローバルファンドのパートナーシップとSDGs」のパネルでは、グローバルファンドの國井戦略投資効果局長と、企業、メディア、財団など様々な立場からグローバルファンドと接点のある方をパネリストに迎え、日本国際交流センター執行理事の伊藤聡子(グローバルファンド日本委員会事務局長)のモデレートのもとでディスカッションを進めました。グローバルファンドは21世紀型官民連携基金といわれていますが、残念ながら、日本からそのパートナーシップの輪に入っている組織はあまり多くありません。今後、グローバルファンドが日本のアクターとどのようにかかわりをもっていくべきか、多くの示唆が得られた議論でした。
住友化学は製品開発の分野で多くの国際組織とパートナーシップを組んでいますが、その背景として石渡氏は、感染症対策の商品は市場規模が小さく、また、困っている人に対して低価格で提供するという社会的使命から、製品価格を抑えなければならず個別事業の採算性が低い。その一方で殺虫剤への抵抗性が急速に拡大しているため、絶え間ない新製品開発が要求される。この経済性と技術面での問題のギャップを埋めるためには一企業の努力だけでは限界があり、国際機関等の協力や連携が重要であると訴え、グローバルファンドにはより積極的に新製品の普及に関わってほしいと期待を述べました。
治部氏は、ケニアでグローバルファンド支援の事業を取材した経験から、グローバルファンドについて、もっと一般国民の理解を促進していく必要があると指摘し、特にグローバルファンドは資金規模が大きいので、一般読者にはピンとこない。価値を伝えるためにメディアは想像力を掻き立てる記事を書いていかなければならない、と会場にいたメディア関係者を鼓舞しました。
多くの皆様にご参加いただき、本当にありがとうございました。
- グローバルファンド日本委員会15周年記念イベント プログラムと登壇者略歴
- 15周年記念ビデオ
- グローバルファンド日本委員会設立15周年を迎えて (JCIE 執行理事 伊藤聡子)
スピーカー略歴 (登壇順)
大河原 昭夫
(公財)日本国際交流センター理事長、グローバルファンド日本委員会ディレクター
1973年住友商事株式会社入社、海外運輸部、自動車部等を経て1991年よりワシントン事務所次席、1997年より情報調査部にて部長代理、部長を歴任。2004年より(株)住友商事総合研究所に勤務、2006~13年まで同研究所取締役所長を務め、2014年4月より現職。日米文化教育交流会議(カルコン)委員、ベルリン日独センター評議員を兼務する他、日英21世紀委員会日本側ディレクター、日独フォーラム委員、日韓フォーラム幹事委員、国際保健の分野では、グローバルヘルスと人間の安全保障プログラム運営委員会幹事、グローバルファンド 日本委員会ディレクター等を務める。慶應義塾大学法学部卒。
ピーター・サンズ(Peter Sands)
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長
英国外務省、マッキンゼー・アンド・カンパニーでの勤務を経て、新興国・地域を主なマーケットとする英スタンダード・チャータード銀行グループの最高財務責任者に就任。2006~15年まで同行の最高経営責任者として、事業や利益を拡大し、政府援助を受けず欧州経済危機を回避したことで知られる。任期中、発展途上国の保健に重点を置く同銀行のCSRプログラムを統括し、寄付やロジスティック支援などエイズやマラリア対策に貢献した。その後、グローバルヘルス分野に身を投じ、ハーバード・グローバルヘルス研究所およびハーバード大学ケネディ・スクールのモサヴァー・ラーマニ政治経済センターのリサーチフェローに就任。金融界での豊富な経験を生かしグローバルヘルス財政分野で活躍、2015~16年には、米国医学アカデミーの「グローバルヘルス・リスクフレームワーク委員会」の委員長、2016~17年には、世界銀行の「パンデミックに備えるファイナンスに関する国際ワーキング・グループ」の議長を務めた。2018年3月にグローバルファンド事務局長に就任。オックスフォード大学卒業、ハーバード大学大学院公共経営学修了。
エロイザ(ルイ)・ゼペダ・テン(Eloisa “Louie” Zepeda Teng)
多剤耐性結核を経験した患者代表、アクティビスト
1983年生まれ、フィリピン出身。西太平洋地域の代表としてストップ結核パートナーシップに参画するほか、フィリピン視覚障がい者労働組合の女性委員会のアドボカシー活動にも貢献。2007年に結核に感染、結核性髄膜炎を発症。誤診による発見の遅れと不適切な治療により、多剤耐性結核(MDR-TB)となる。長い闘病生活中、後遺症として視力を失い、うつ病に苦しむ。治療後、アメリカン大学より障がい者政策比較の修士号を取得し、障がい者を含めたすべての人々が結核の治療を受けられるように取り組む。既婚、1女の母。
オマール・シャリフ(Omar Syarif)
世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)コミュニティ開発プログラム・マネージャー
2005年にインドネシアのHIV陽性者の支援グループに加わり、その後ジャカルタ市西部地区で注射薬物使用者のハームリダクションに取り組むNGOのアウトリーチ・ワーカーとなる。2008年には「インドネシア全国HIV陽性者ネットワーク」の立ち上げを支援、同組織の資金調達役に就任。2011~12年には同組織のナショナル・コーディネーターを務め、国内やアジア地域の各種の戦略的プラットフォームにHIV陽性者を代表して参加、インドネシアにおけるグローバルファンド国別調整メカニズム(CCM)や、「国連HIVと移住に関する地域共同イニシアティブ」にも参加する。その後、タイ・バンコクにて「アジア太平洋地域HIV陽性者ネットワーク(APN+)」の能力開発プログラム・マネージャーを務めた後、2017年より「世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)」に参加。現在、GNP+のコミュニティ開発プログラム・マネージャーとしてHIVとC型肝炎治療へのアクセス強化のためのコミュニティグループの提唱力強化に取り組む。
稲場 雅紀
(特活)アフリカ日本協議会国際保健部門ディレクター、(一社)SDGs市民社会ネットワーク業務執行理事
1990年代に横浜・寿町の日雇労働組合での医療・生活相談活動、レズビアン・ゲイの人権課題への取り組みを経て、2002年より(特活)アフリカ日本協議会の国際保健部門ディレクターとしてアフリカのエイズ・保健問題に取り組む。2004年~09年にかけて、途上国のエイズ・結核・マラリア対策に資金を供給する国際機関「グローバルファンド」(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)理事会先進国NGO代表団メンバー。その後、同機関を支援する市民社会ネットワーク「グローバルファンド活動者ネットワーク」(GFAN)アジア太平洋地域理事を務める。一方、2016年にSDGs市民社会ネットワークを設立、業務執行理事としてSDGsの普及や政策提言にも取り組む。
吉田 智子
米国法人日本国際交流センター(JCIE/USA)シニア・プログラムオフィサー
津田塾大学を卒業後、ニューヨーク大学教育学大学院にて国際地域保健教育学で修士号を取得。カンボジアでのインターンシップを経てサンスターに入社し、企業広報・CSR(企業の社会的責任)を担当した。東日本大震災を契機に日本コカ・コーラに移り、同社および財団にて全国に展開する各種教育プログラムや復興支援活動の企画運営を行う。一方で、学生時代からHIV/AIDSの社会運動に関わり、日本の若者と職場を対象にする啓発活動や全国キャンペーンのテーマ選定に携わる。現在、エイズ予防財団のNGO助成金審査委員を務める。
國井 修
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)戦略・投資・効果局長
1988年自治医科大学卒。医師、公衆衛生学修士、医学博士。内科医として大学病院等で勤務後、僻地医療に従事、また緊急医療のNGOであるAMDAの副代表として、難民への医療援助に従事した。ハーバード大学公衆衛生大学院留学を経て、自治医科大学衛生学助手、国立国際医療センター国際医療協力局厚生技官、日本国際協力機構(JICA)東北ブラジル公衆衛生プロジェクト長期専門家、東京大学国際地域保健学講師を歴任。2001~04年には、外務省調査計画課に勤務し、沖縄感染症イニシアティブの監理・運営のアドバイザーを務めた。この間、世界エイズ・結核・マラリア対策基金の設立にも関与した。2004年より長崎大学熱帯医学研究所教授、2006年よりUNICEFに勤務し、本部にて保健戦略上級アドバイザー、ミャンマー事務所保健・栄養チーフ、ソマリア事務所保健・栄養・水衛生支援事業部長等を歴任した。2013年3月より現職。
平手 晴彦
武田薬品工業株式会コーポレート・オフィサー
慶応大学経済学部を卒業。日製産業、ドレーゲル社アジア代表、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社代表取締役、米国メルク社、万有製薬の代表取締役社長、グラクソ・スミスクライン社代表取締役専務を経て、2010年に武田薬品工業にコーポレート・オフィサーとして入社。 中国事業の再構築をなした後に、現在は本社機能の国際化を目指し、対外折衝等を統括する。
日本の製薬業界では知名度が高く、日本製薬団体連合会(FPMAJ) の役員、米国研究製薬工業協会(PhRMA) 日本代表を歴任。現在は、経済同友会の幹事、日本製薬工業協会(JPMA) の国際委員会委員長を務める。
蓑輪 光浩
ビル&メリンダ・ゲイツ財団東京オリンピックプロジェクトマネージャー
スポーツマーケティングにおいて20年超の経験を持つ。1997年に中央大学を卒業後、NIKE入社。主にデジタル コミュニケーションをリードし、ワールドカップ、オリンピック、箱根駅伝、NIKEiDをはじめとした様々なプロジェクトに従事。グッドデザイン賞、カンヌ広告賞を多数受賞。2008年よりNIKE EUROPEに赴任し、ヨーロッパにおけるeコマース展開拡大とデジタル マーケティングを手がける。2011年よりユニクロに入社し、錦織圭、ジョコビッチらトップアスリートの契約、PR広告戦略、イベント、スポーツ商品開発に携わる。2016年よりレッドブルに入社し、300人超のチームを率い、エアレースやF1など年間500のイベントやマーケティング活動を展開。2018年にビル&メリンダ・ゲイツ財団に加わり、東京オリンピック プロジェクトマネージャー就任。
石渡 多賀男
住友化学株式会社 生活環境事業部 開発部 部長
1988年、東京大学大学院修士課程修了(応用昆虫学専攻)。同年4月住友化学に入社、研究所および本社勤務を通じ一貫して家庭用、防疫用殺虫剤の研究、開発、技術普及に従事。WHO(世界保健機関)から世界で最初に推奨を受けたマラリア防除用の長期残効蚊帳(LLIN)「オリセットネット」、殺虫剤抵抗性マラリア媒介蚊への効力を増強した新規LLIN「オリセットプラス」、同じく殺虫剤抵抗性マラリア媒介蚊に高い効力を有する室内残留散布剤「スミシールド」、デング熱などの感染症予防に有効な長期残効型の蚊発生源処理剤「スミラブ®2MR」等の研究開発に取り組む。2015年より現職。
治部 れんげ
ジャーナリスト、W20日本2019運営委員会委員、(公財)ジョイセフ理事
1997年、一橋大学法学部卒。日経BP社にて経済誌記者。2006~07年、ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年、一橋大学経営学修士課程修了。日経DUAL、Yahoo!ニュース個人、東洋経済オンライン、Business Insider等にダイバーシティ経営、男女のワークライフバランス、ジェンダー平等教育について執筆。現在、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京大学大学院情報学環客員研究員。日本政府主催の国際女性会議WAW!国内アドバイザー。東京都男女平等参画審議会委員(第5期)。2019年、日本が議長国を務めるG20に政策提言する女性グループW20運営委員。公益財団法人ジョイセフ理事。一般財団法人女性労働協会評議員。著書に『炎上しない企業情報発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)、『稼ぐ妻 育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)等。2児の母。
伊藤 聡子
(公財)日本国際交流センター執行理事、チーフ・プログラム・オフィサー、グローバルファンド日本委員会事務局長
慶応義塾大学卒、ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)修士課程修了。民間企業を経て1988年より日本国際交流センター勤務。民間非営利セクターの基盤整備や企業市民活動促進のための諸事業に従事し、1997~2004年までリーバイ・ストラウス・コミュニティ活動推進基金による助成プログラムを担当、日本国内のHIV/エイズ、移民問題等の社会正義分野のNPO支援を専門とした。2004年以降、国際保健分野の事業に従事。グローバルファンド日本委員会には立ち上げから関わったほか、「グローバルヘルスと人間の安全保障プログラム」、「アジアの高齢化と地域内協力」など、JCIEのグローバルヘルス関連の諸事業を統括する。
逢沢 一郎
衆議院議員、グローバルファンド日本委員会アドバイザリー・ボード共同議長
(略歴掲載準備中)
古川 元久
衆議院議員、グローバルファンド日本委員会アドバイザリー・ボード共同議長
(略歴掲載準備中)