伊藤聡子
日本国際交流センター執行理事/グローバルファンド日本委員会事務局長
西アフリカでおきたエボラ出血熱流行の最大の教訓は、保健システムの強化でした。西アフリカの中でも、保健システムの基盤がある程度整った国ではエボラの感染拡大を早い段階で食い止められたのに対し、長い内戦やクーデターなどで社会基盤や保健システムが脆弱なリベリア、シエラレオネ、ギニアでは感染が広がり、人命上も経済的にも多大な被害が出ました。グローバルヘルスに携わる世界中の専門家が、開発途上国での保健システム強化の必要性を再認識するきっかけとなりました。グローバルファンドも例外ではありません。
資金供与の40%が保健システムへの投資
4月末に開かれたグローバルファンド理事会で次期5ヵ年戦略(2017−21年)が承認され、各国がグローバルファンドの資金を使い、三つの疾患の予防・治療と平行して保健システム(注) を構築することを後押しする方針が明確に打ち出されました。グローバルファンドでは設立当初から保健システムへの投資を行ってきましたが、2030 年までに三大感染症の流行を終息させるという目標の達成には、治療や予防のサービスがきちんと届く国やコミュニティレベルのシステムが不可欠であることを改めて確認し、システムへの支援の質を高めていくことが盛り込まれました。
保健システムと聞くと、設備の整った病院を建てることと思われがちですが、グローバルファンドの場合、そうしたハコ物インフラへの支出はほぼ皆無です。現在、グローバルファンドの資金供与の約40% が、保健システムに充当されています(下図参照)。三つの感染症の疾病対策に分類されてはいるが全般的な保健システム強化につながる支出が28%、最初から横断的に保健システム強化を目的とする支出が12%、特に後者の割合は過去2 年間で倍増しています。
エチオピアが好例
エチオピアは、こうしたグローバルファンドの資金を上手に活用して、国全体の保健システムを強化している国の一つです。保健省が中心となり、グローバルファンドや他の開発をパートナーに、医薬品の調達やサプライ・チェーンの制度を作り、全国で育てた女性の保健普及員が地域の人々の健康に気を配るきめ細やかな制度を作り上げています。グローバルファンドの保健システム強化は、三疾患の薬だけでなく基礎的な医薬品が在庫切れとならずに村に常備されるのを助け、また保健普及員が基礎的な病気であれば対応できるようになるのを支援しており、三疾患を超えて幅広い副次効果が表れています。
グローバルファンドは、21世紀初め、エイズの大流行という緊急事態に対応する基金として設立されました。15年にわたる活動の結果、からくも緊急事態からは脱した今、2030 年までに三大感染症の流行を終焉させるという新たな目標に向かって戦略的に投資をする中で、グローバルファンドは三つの疾患を超えて、途上国の保健システムを強靭で持続可能なものにする役割の一端も担うようになってきています。
(注)グローバルファンドでは保健システムを広義にとらえ、当事者コミュニティの対応力なども含めてsystems for healthと呼ぶ。
FGFJレポートNo. 9 (2016年7月)掲載