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パブリック・セミナー「沖縄・洞爺湖、2つのG8サミットを超えて」

2010年3月10日
パブリック・セミナー「沖縄・洞爺湖、2つのG8サミットを超えて」

2010年2月26日、世界基金支援日本委員会では、ミッシェル・カザツキン世界基金事務局長を迎えてパブリック・セミナー「沖縄・洞爺湖、2つのG8サミットを超えて:保健と開発の新たな発展」を開催しました。

本セミナーでは、カザツキン事務局長より、日本で開催された九州・沖縄サミット及び北海道・洞爺湖サミットという二つのG8サミットによって生み出された国際保健問題上の進展、世界基金の最新の実績や三大感染症対策の将来見通しについてお話いただきました。また、尾身茂自治医科大学教授(名誉WHO西太平洋地域事務局長)をコメンテーターに迎え、世界基金のような新しい資金提供メカニズムが国際保健にどのような影響を与えてきたか、アジアの視点からコメントをいただきました。


カザツキン事務局長の講演の要旨

mk00000000000000000000保健分野には様々な課題があるが、感染症ほど、富める者と貧しい者との間で格差が顕著に現れるものはない。年間400万人が三大感染症のために死亡しているが、そのほとんどは開発途上国の人々である。

資金量の変化とそのインパクト

この10年間に、開発途上国の感染症対策は大きく進展した。変化の出発点は2000年のG8九州・沖縄サミットだったと言ってよいだろう。以降、感染症が政治課題として取り上げられるようになった。政治的なコミットメントにより、感染症対策に投入される資金が大幅に増加したことが何よりも大きな変化である。世界基金やGAVI(ワクチン予防接種世界同盟)など、新しい資金支援の仕組みも次々と設立された。

グローバル・ヘルスの分野では、対策に投入する資金量が増えれば、それに平行して保健サービス・デリバリーが確実に増え、有病率の低下に明確な効果が出ている。エイズを例にとると、2000年沖縄サミット以前には20億ドル以下の水準だった資金量が、2008年には156億ドルまで大幅に増えた。これと平行するように、治療にアクセスできる人の数が増え、一部の国では明確に死亡率の低下が見られるようになってきた。マラリア、結核も同様である。資金量と結果との間に強い相関関係がある。

世界基金の成果

世界基金は、設立6年の間に、191億ドルの資金を途上国の三大感染症対策に支援している。途上国のエイズ対策に対する国際支援総額のうち世界基金の支援は25%を占め、結核では60%、マラリアでは70%を占める。これにより、今までに500万人の命を救ったと推定される。現在も、一日あたり3600人の死が回避されている。

世界基金は一義的にはMDGの目標6(感染症)のため資金を提供しているが、保健関連の目標4,5、6はそもそも不可分で相互に強い関連性がある。世界基金は母子保健の向上にも重要な役割を果してきた。母子保健に与えたインパクトを算出中である。また、感染症対策支援を通じて保健システム強化にも貢献している。世界基金の支援のうち35%は保健システム強化に向けられたものである。途上国が保健システム強化資金を得るプロセスを簡便にするため、現在、GAVI・世銀・世界基金の三者で合同プラットフォームを検討中である。

MDGs達成に向けての課題

今後5年間の喫緊の課題は、現下の経済危機の下で、また他の優先課題との競合の中で、いかに政治的なコミットメントを維持し資金量を拡大していくか、という点につきる。従来のG8国だけでなく韓国などG20諸国などからの資金も拡充し、また、資金を受け入れる途上国にも感染症対策を実施する能力の強化を促し需要を拡大することが必要である。

2010年は、2011年~13年のための第三次増資計画の年である。MDGs達成にとっての重要な鍵となる。さらに資金を拡大できれば、2015年までに、公衆衛生上の課題としてのマラリアは根絶、何百万人もの新規HIV感染を防ぎ、エイズによる死亡を劇的に減少させ、HIVの母子感染もほぼなくなるだろう。また、多剤耐性結核を克服し結核の有病率と死亡率を大幅に減少させることができるだろう。

日本との関係

日本は、世界基金の創設時期からその制度設計に関わり、その後も継続して支援をいただいている主要ドナーである。日本政府は、世界基金の理事会において単独の理事議席を有し、また、多くの国でJICAとの連携が進んできている。今後も、ぜひ日本との関係をより強固なものとしていきたい。

尾身茂自治医科大学教授からのコメント要旨

尾身茂自治医科大学教授世界基金が設立されたことで、大きく変わったことが2つある。第一は、それまで絶望的と思われていた病気の患者が、治療に手が届くようになったことである。治療を受ければ普通の人と同じように生活できるようになり、感染症のイメージが大きく変わった。

第二は、国際保健の”風景”が変わったことである。世界基金のような大型の資金メカニズムができるまでは、保健に関心をもつのは、せいぜい各国の保健大臣かこの分野の専門家のみだった。大きな資金を支援する世界基金ができたことで、元首自身がこの問題に関心を持つようになり、国家のトッププライオリティに入るようになった。

同時に課題も顕在化している。三感染症対策が優先されるがために、優秀な人材が三感染症プログラムにとられてしまい、他の保健サービスとの間で競合がおきている。ただし、世界基金の資金の35%は保健システムに充当されているとカザツキン事務局長から説明があり心強く感じた。感染症対策を進めることによって病院の負荷が減り、他の疾患のサービスができるようになったザンビアのような例も紹介があった。個別疾病対策(垂直支援)か保健医療全般の強化(水平支援)か、という二者択一の議論は不毛であり、今後も、両者にバランスよく取り組んでもらいたい。

国際舞台における日本の存在感はこの20年で低落している。ODAの金額もさることながら、国際貢献の質を高めることによって日本の存在感を高めることも考えるべきである。ODAの額は無尽蔵ではなく優先順位をつけるしかないが、幸い保健分野には、結核や保健システムなど、日本が世界に誇れる技術と経験がある。感染症を含む保健分野を日本の外交の基軸と位置づければ、国際的に高く評価されることになるだろう。二国間援助も重要であるが、国際舞台での存在感を示すには、多国間機関を通した貢献が必要とされる。保健のような問題は、一貫した長期的な方針が求められる。政治のコミットメントも、政権交代に影響されない超党派の取り組みが必要だろう。

 山本正理事長(左)カザツキン事務局長(中)尾身茂教授(右)
山本正JCIE理事長・FGFJディレクター(左)  カザツキン事務局長(中)  尾身茂教授(右)

プログラム

ガザツキン事務局長プレゼンテーション資料


カザツキン事務局長は東京滞在中、本パブリック・セミナー以外にも、古川元久議員(民主党)と逢沢一郎議員(自民党)両幹事をはじめとする 議員タスクフォースのメンバーとの懇談、森喜郎元総理ご出席のもとに世界基金支援日本委員会ボードメンバーとの会合、福山哲郎外務副大臣との意見交換、緒方貞子国際協力機構(JICA)理事長との会談、長浜博行厚生労働副大臣への表敬訪問など、日本の各界の指導者と会い、2015年のMDGs達成に向けて、世界基金と日本との関係をより強固なものとすべく対話を重ねました。

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