日本国際交流センターではグローバルファンド日本委員会の事業の一環として、三大感染症に対するグローバルファンドの資金が、支援を受ける国のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(注)達成にどのように貢献しているかを明らかにする事例調査に取り組んできました。このほどその研究成果がまとまり、報告書 Leveraging Disease Funding to Advance Health for All—The Global Fund and Universal Health Coverage (Susan Hubbard, Maya Wedemeyer 著)を発行しました。ダウンロードはこちらから。
長い間、グローバルヘルスのコミュニティでは、エイズなどの個別疾病対策を優先すべきか、保健システム強化を優先すべきか、両者の間で激しい議論の応酬が続けられてきました。しかし最近は、こうした二項対立の議論はもはや意味をなさないものであるとの認識が広まってきています。
本調査では、フィールド調査と文献調査により、エチオピア、ルワンダ、ミャンマーにおけるグローバルファンドの支援とその影響を分析し、三大感染症対策と、より広い保健システム強化とが密接に関連することを示しています。特に、国の側で綿密に計画している場合は、個別の疾病対策で飛躍的な効果をあげつつ、同時に、全般的な保健医療サービスの質やアクセスにも寄与しWin-Win の関係を作り出していることが明らかになりました。
本調査の対象国では、グローバルファンドの支援がその国のUHC達成に貢献する道筋として以下の5点が認められました。
- 保健サービスの拡大
グローバルファンドの三大感染症対策資金は、クリニックの建設、資機材の購入、ヘルスワーカーの人材育成や給料の支給などに充当されるが、これらの人材やリソースは、三大感染症のみならず妊婦健診や予防接種、ほかの疾病対策などにも幅広く活用され、保健サービスの拡大に繋がっている。 - 保健省の能力強化
支援を受ける国の保健省は、グローバルファンドの資金を使うことで、自ら三大感染症の国家対策を立案し、管理し、モニタリングする能力を強化している。こうした能力は他の保健課題にも適応可能である。 - 健康保険のカバー率の拡大
健康保険への普遍的なアクセスはUHC達成の基礎の一つであるが、貧しい人々は保険料を負担できないため、保険に入れず必要な予防や治療を受けることができない。ルワンダでは、グローバルファンドの資金は、HIV陽性者や感染リスクに晒される人々の保険料を補助することに充てられ、健康保険のカバー率の拡大に貢献している。健康保険に入ることにより、HIVの治療や予防が受けられるようになるだけでなく、他の保健サービスにもアクセスできるようになった。 - 脆弱な立場に置かれた人々の保健サービスの利用を促進
近くに保健センターがあり無料でサービスが提供されていても、全ての人が利用するとは限らない。特に、セックスワーカーや男性同性愛者、薬物使用者など脆弱な立場に置かれている人々は、受診することで受ける差別や不利益を避けるため、保健医療施設の利用を避ける傾向がある。グローバルファンドの資金は、こうした人々のニーズに配慮できるHIVクリニックやコミュニティセンターの運営やヘルスワーカーの人材育成に使われている。安心できるHIVクリニックやコミュニティセンターがあることで、保健サービスを受ける習慣がつき、さらにそこを起点に慢性疾患など他の疾病の受診にもつながるという副次効果がみられる。 - 各国政府の保健医療予算の増加
グローバルファンドは、支援対象国政府が支出すべき保健医療予算の最低額を設定し、それ以上の支出を条件に資金供与を行っている。また、国際援助からの自立に向けて、グローバルファンドは各国の移行準備状況を分析・評価し、それに基づく移行準備計画の立案に協力し、パートナー機関と共に支援を行っている。
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは、全ての人が、お金に困ることなく、必要な保健医療サービスを受けられ
2012年12月12日、国連総会でユニバーサル・ヘルス・カバレッジを国際社会共通の目標とする決議が全会一致で採択されました。UHCは、2030年までの持続可能な開発目標(SDGs) のゴール3のターゲットの一つであり、SDGsが重視する「誰ひとり取り残さない」という考え方を具現化する上で重要なコンセプトです。