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WHOがエイズ治療に関する新たな勧告を発表

2013年7月1日
WHOがエイズ治療に関する新たな勧告を発表

世界保健機関(WHO)から、エイズ治療に関する新しいガイドラインが発表されました。抗レトロウィルス治療の開始時期を早めることを勧告しています。

WHOのニュースリリースの和訳(仮訳)を掲載いたしました。「予防と治療のプログラムが急速に拡大している現状を考えれば、新たなWHOのガイドラインは非常にタイムリーなもの」とマーク・ダイブル世界基金事務局長がコメントを寄せています。


WHOプレスリリース(仮訳)

世界保健機関(WHO)が新たな勧告を発表

より早期のエイズ治療開始を呼びかけより早く、より安全で、より簡潔な抗レトロウイルス治療がHIVの流行を縮小傾向に

2014年6月30日 ジュネーブ― WHOの新たなエイズ治療のガイドラインは、抗レトロウイルス治療(ART) をこれまでより早く提供することを勧めている。最近のエビデンス(証拠)は、ARTの開始が早ければそれだけ、HIV陽性者が長く、健康的に生きていけるようになり、他の人にHIVが感染するリスクも大きく低減することを示している。早期治療によって現在から2025年までの間に300万人の死亡を回避し、350万人のHIV新規感染症を防ぐことが可能になる。

新たな勧告はWHOが発表した報告書「HIV感染の治療と予防に向けた抗レトロウイルス薬使用の統合ガイドライン」(Consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing HIV infection )の中で示されている。ガイドラインはまた、2012年末現在970 万人が生命を救うこうした治療薬を使用しているとの新たな推計も明らかにしている。

「これらのガイドラインは、より高い目標とこれまで以上の成果に向けた新たな飛躍を示すものである」とWHOのマーガレット・チャン事務局長は語った。「ほぼ1000万もの人がすでに抗レトロウイルス治療を受けており、HIVの流行を不可逆的な縮小に追い込むという展望の実現に向けた動きは勢いを増している。ほんの数年前までは考えることさえできなかった動きである」

 

血液1㎣中のCD4細胞数500以下での治療開始を提唱

新たな勧告はすべての国に対し、HIV陽性の成人のCD4細胞数が血液1㎣中500以下になったら、免疫システムが依然として良好な状態であっても治療を開始することを勧めている。2010年に設定された従来のWHO勧告はCD4細胞数が350以下での治療開始を勧めていた。世界の90%の国は現在、2010年勧告を採用している。すでに500で治療提供を開始している国はアルジェリア、アルゼンチン、ブラジルなど数カ国である。

安全かつ安価で飲みやすい治療薬によりHIV陽性者の治療を早期に開始することができれば、患者自身の健康状態を保ち、同時に血液中のウイルス量を下げることで他の人に感染するリスクも低減することになるというエビデンスに基づいて、WHOは今回の勧告を行った。各国がそれぞれのHIV政策の中にこうした変更を組み入れ、必要な資金を確保していければ、公衆衛生と個人レベルの両方で極めて大きな保健上の利益を得ることになるだろうと報告書は指摘している。

 

その他の勧告

新たな勧告は、CD4細胞数に関係なく、すべての5歳以下のHIV陽性の子供、妊娠、授乳期のHIV陽性女性、HIVに感染していないパートナーを持つHIV陽性者に、抗レトロウイルス治療を提供することを勧めている。また、活動性結核やB型肝炎のHIV陽性者は抗レトロウイルス治療を受けることを引き続き勧めている。

もう一つの新たな勧告は、抗レトロウイルス治療を開始する成人のHIV陽性者にはすべて、毎日1錠の服用ですむ同一組み合わせの合剤を提供することだ。この組み合わせは服用が容易で、これまで推奨されていた組み合わせより安全なので、成人も妊娠中の女性も子供も使うことができる。

「こうした進歩で子供や妊娠中の女性も、早期に、そして以前より安全に治療を受けることができるようになり、私たちはエイズから自由な世代というゴールにさらに近づいていくことができます」とユニセフのアンソニー・レイク事務局長は述べる。「私たちは今こそ、取り組みをさらに加速させる必要があります。生まれてくる赤ちゃんが可能な限り最良のスタートを切れるよう、新生児にもっと速く検査を行い、適切な治療を提供できるようにするため、技術革新への投資をしなければならないのです」

WHOはさらに、各国に対して、例えば結核対策や母子保健、性と生殖に関する健康、薬物依存治療といった他の保健サービスとの連携の強化などを通し、HIVサービスを届ける方法を充実させることを奨励している。

「予防と治療のプログラムが急速に拡大している現状を考えれば、新たなWHOのガイドラインは非常にタイムリーなものです」と世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)のマーク・ダイブル事務局長は言う。「これはHIVを公衆衛生の脅威から取り除くために、いかに世界基金とWHOが力を合わせて各国を支えているかということを示す好例でもあります」。世界基金は2002年の創設以来、151カ国で1000以上のプログラムを支援し、420万人にHIV治療を提供している。

 

課題は残る

課題はいまなお残っている。新たな治療ガイドラインとともに、WHOとUNAIDS、ユニセフが発表した治療の進歩に関する最新情報では、注意を喚起すべき課題領域も示されている。

抗レトロウイルス治療(ART)が必要な子供の数は2012年には2011年より10%も増えている。それでも、成人の増加率 20%と比較するとペースは遅いほどである。さらに問題を複雑にしているのは、注射薬物使用者、男性とセックスをする男性、トランスジェンダーの人々、セックスワーカーといった鍵となる集団(キーポピュレーション)の多くが、法律や文化の壁があるため、利用可能な治療さえもなかなか受けられずにいることだ。さらに、かなり多くの人がさまざまな理由から治療を続けられずに「ドロップアウト」してしまうことにも対応する必要がある。

 

データは勧告の実現可能性を裏付けている

上記のようなことはあるにしても、あわせて発表された報告書「世界のHIV治療最新情報2013:成果、インパクト、そして機会」(Global update on HIV treatment 2013: Results, impact and opportunities )には、抗レトロウイルス治療が必要な人の数は推計で2600万人に増えると見られているものの、早期のART開始に関するWHOの新たな勧告の実現可能性に期待のもてるデータが含まれている。

2012年は、ARTを開始する人がこれまでで最も増えた1年であり、新たに治療を開始した人の数は160万人に達している。この結果、2012年末現在、抗レトロウイルス治療を受けている人の数は合計970万人に達している。しかも、治療の普及率は世界のすべての地域で向上しており、中でもアフリカでの普及が大きい。2012年に治療を始めた人の5人中4人はサハラ以南のアフリカに住む人である。

「今日では1000万人近い人が生命を救う治療へのアクセスを得ています。これは真の開発の勝利です」と国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長は語る。「しかし、私たちは治療が必要な2600万人が、1人も欠けることなく、治療を受けられるようにするという新たな課題も抱えています。抗レトロウイルス治療へのアクセスの欠如に伴う、いかなる新規HIV感染も、エイズ関連の死亡も、受け入れられるものではありません」

本日の新たな勧告は国際エイズ学会2013クアラルンプール会議の開幕日にあわせ、WHOが発表した。すでに早期治療をエイズ政策として採用している国々の代表や技術的、資金的支援を行っている開発機関もこの新たな勧告を支持している。

国際エイズ学会会議は隔年で開かれ、世界の主要な医科学研究者、臨床医、公衆衛生専門家、コミュニティのリーダーらがHIV関連の最新の研究成果を検証し、科学的な成果を世界のHIV/エイズ対策に反映させる方法を探っていく。

(注)
この勧告で推奨される治療は、テノフォビル、ラミブジン(またはエムトリシタビン)、エファビレンツの3種の組み合わせを1剤にして1日1回服用するというものである。
(世界基金支援日本委員会による仮訳)


 

WHOのプレスリリース原文

世界基金のプレスリリース

 

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