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南アフリカより カリム教授夫妻を迎えて

2023年12月8日
南アフリカより カリム教授夫妻を迎えて
カリム教授夫妻

グローバルファンド日本委員会では、世界エイズデーの機会に、南アフリカよりサリム・S・アブドゥル・カリム教授、カライシャ・アブドゥル・カリム教授を日本に招き、日本委員会のメンバーである国会議員や政府関係者・有識者との会合、公開セミナーなどを開催しました。

両教授は、南アフリカ共和国のダーバンに南アフリカ・エイズ研究プログラム・センター(CAPRISA)を設立し、夫妻で30年以上にわたり共同でエイズ予防・治療の研究をしてきた研究者です。特にアフリカで若い女性のHIV感染の割合が同世代の男性に比べ不均衡に高いことを明らかにし、女性が自らとれる予防策として抗ウイルス膣剤が有効であることを実証した研究で著名です。また、新型コロナウイルス感染症においても、ワクチン接種や治療などの対策や疫学調査を行い、南アフリカ政府の方針決定やワクチンの臨床治験でもリーダーシップを発揮されました。これらの業績から、2022年に日本政府は両教授に対し、第4回野口英世アフリカ賞(医学研究分野)を授与しています。

今回の来日では、グローバルファンド日本委員会の議員タスクフォースのメンバーやアドバイザリーボードの政府関係者・有識者との会合、公開セミナー(カライシャ・カリム教授)、メディアのインタビュー等のほか、日本国際交流センターが保健関連の諸機関と共催した「グローバルヘルス・マルチステークホルダー対話:広島からプーリアへ」の世界エイズデー特別レセプション(サリム・カリム教授)などで講演いただいた他、日本エイズ学会および国立国際医療研究センターの共催で日本の研究者向けの講演会も開催されました。

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両教授の主なメッセージは以下の通りです。

quarraisha karim
公開セミナー「40年のパンデミック」で講演するカライシャ・カリム教授

グローバルファンドは国際連帯の象徴

人間が存亡の危機に直面した時、いかに皆が力を合わせて対応するかで大きな違いが生じる。グローバルファンドのような仕組みは、こうした連帯の象徴だ。グローバルファンドが設立された頃、毎年300万人以上がエイズで死亡していた。今日ではエイズによる死亡は年間約63万人。UNAIDSが2020年までの目標として掲げた50万人には到達していないが素晴らしい成果だ。アフリカの田舎まで抗レトロウイルス治療が普及したおかげだ。HIVは致命的な疾病から慢性疾患へと変わった。かつては社会的にも経済的にも一番活躍する若い人が感染し、平均寿命も40歳くらいだったが、その状況は大きく変わった。これは世界の連帯の賜物だ。日本の皆様の支援に感謝したい。

若い女性のHIV感染

しかし、新規感染者はまだ年間130万人であり、毎日3500人が世界中で新たに感染していることになる。この新規感染者の約半数はサハラ以南アフリカで、そのうちの63%は思春期の少女や若い女性が占める。世界の他の地域の多くでは薬物使用者や同性愛者、法的に疎外された人々の間にHIV感染が集中している。しかしサハラ以南のアフリカでは、一般の人々に感染が広がってしまった。

南アフリカでは、思春期の少女や若い女性の間のHIV感染の割合は、同世代の男性に比べて4倍も高い。シーケンス解析を行った結果、若い女性(16歳~24歳)のHIV感染は、年上の男性(25歳以上)との性交渉が主な感染源であること、男性は25歳以上の女性との性交渉から感染していることがわかった。お互いに大人になりパートナーを見つけてからの性交渉のみであれば、アフリカのHIV感染の軌道は全く違うものになっていただろう。

Salim Karim
マルチステークホルダー対話の特別レセプションで講演するサリム・カリム教授

年齢と性別の異なる連鎖の原因を理解し断ち切るために、何千人もの女性たちにインタビューし、HIV感染の予防手段がすべて男性側にゆだねられていることに気づいた。それからは、女性が特に16~24歳の結婚するまでの時期に自分の健康を守り、感染を予防できる手段がないものか必死に研究した。人口の65%が35歳以下であるサハラ以南アフリカで、成熟する前の若い女性を失うことはできない。彼女たちは社会には欠かせない重要な人材だ。そしてこの女性たちの一生のうち一番大切な8年間(16~24歳)を守るのは未来への投資に匹敵する。これはSDG5のジェンダー平等の問題だ。失敗を繰り返すこと18年。2010年にテノフォビルを使えばHIVへの感染が予防できると判明した。 今では、PrEP(暴露前予防内服)は、毎日一錠服用する予防薬として世界中で活用されている。

パンデミックへの備え

パンデミックになると目の前の危機に気を取られやすくなるものだ。しかしそれではいけない。かつてエイズの流行が危機的状況だった時、結核対策をないがしろにしたことで多剤耐性結核―さらには超多剤耐性結核―の出現を許してしまった。コロナ禍では、エボラ、マラリア、結核、HIVなどが放置された。HIVや結核を放置した“つけ”として、治療を受けていない免疫不全の人の体内で新型コロナの変異株が発生した。すべては連鎖し、つながっている。感染症の拡大が収まった「平時」にこそ、感染症対策に投資し人材を育てておかなければいけない。

オミクロン株の発見はエイズ研究への投資が基盤

アフリカではエイズが広範に広がり、人口6000万人の南アフリカでHIV陽性者は780万人だ。世界のHIV陽性者の5人に一人は南アにいることになる。それだけの人数を抱える南アでは世界で最も大掛かりなエイズ治療プログラムが必要とされる。その中で特に注力すべきは薬剤耐性の問題。もし治療を受けている人の中で薬への耐性ができた場合、すぐに対処する必要があるからだ。そのため政府は、ウイルスを監視し、耐性が出現しているかどうかを評価するために、系統発生的シーケンシング、遺伝子シーケンシングに投資を行ってきた。その投資があったからこそ、コロナに応用が利き、いち早くオミクロン株を特定することができた。

今世界はまさに一つにつながっている。2021年11月に我々はオミクロン株を発見し、発表した。その10日後には56か国でオミクロン株が確認された。それは決して南アからこの変異株が広がったのではなく、その時点ですでに世界中に感染が広がっていたことを意味する。南アフリカには日ごろからHIVに投資したインフラがあったためにいち早く発見でき、これによって世界中が変異株に対応することができた。HIVで得た教訓をコロナに活かし、そしてコロナ対応の学びを次のパンデミックとの闘いに役立たせるべきだ。

日ごろHIVに投資する過程で育てた若い人材が問題提起し、問題解決をもたらしている。今こそどうやってつながったいくのかをしっかり考えるべき時だ。先進国の多くは感染症に対応する能力、サーベイランス能力が落ちている。それに対してアフリカの途上国ではその能力は強化されてきた。今こそ有意義なパートナーシップが組める絶好の機会ではないかと思う。

 

グローバルファンド日本委員会議員タスクフォース会合 右より黒川清教授、サリム・カリム教授、カライシャ・カリム教授、逢沢一郎衆議院議員、狩野JCIE理事長(於 参議院議員会館)

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