世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)のピーター・サンズ事務局長が、ダイアン・スチュアート渉外局ドナー・リレーションズ部長、高山眞木子渉外局ドナー・リレーションズ専門官とともに、4月20日~21日にかけて日本を訪問しました。約2年半ぶりとなった今回の来日では、木原内閣官房副長官(政務)、林外務大臣、佐藤厚生労働副大臣への表敬訪問のほか、公明党の山口代表、古屋副代表などとの懇談、超党派の議員からなるグローバルファンド日本委員会の議員タスクフォース及び官民の有識者によるアドバイザリーボードの合同会合での意見交換、メディアの取材などを行いました。来日中の諸会合での主要メッセージは以下の通りです。
グローバルファンド日本委員会議員タスクフォース・アドバイザリーボード合同会合でグローバルファンドの第7次増資について説明するピーター・サンズ事務局長(隣は、逢沢一郎衆議院議員/議員タスクフォース共同議長、鈴木浩外務審議官、ダイアン・スチュアートグローバルファンド渉外局ドナー・リレーションズ部長)
第7次増資 180億ドルを目標とする背景
近年、エイズ、結核、マラリアとの闘いが大きく進展し、2002年の設立から2020年末までの19年間に4400万人の命を救ったことは誇るべき成果だ。支援対象の低・中所得国では、三大感染症による死亡が約40%減少した。しかし、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)はエイズ、結核、マラリア終息への進展に大きな打撃を与えた。マラリアに関していえば、2020年の死亡者数は2012年のレベルに戻ってしまったのである。つまり8年分の進歩がたった一年で消えてしまった。
三大感染症の2030年までの終息に向けて軌道修正するため、第7次増資は、2023年から25年の3年間で最低180億米ドルの資金調達が必要だ。この金額は、現在の3年サイクル(2021年から2023年の第6次増資)から29%増だが、これはWHOやUNAIDS等のパートナー機関による三大感染症対策の資金需要推計の合計額がコロナの影響で同様に29%増えたためである。低・中所得国自身の資金負担や他の国際支援を勘案すると、グローバルファンドの分担率は14% で、従来と同様の割合である。
なかでも2024-26年の結核の資金需要予測は、前回サイクルと比較して64%増と最も大きな伸びを示している。これは、結核のリソース(ラボスタッフ、検査機器や設備といった人・モノ・資源)がコロナ対応に回さざるをえなかったためで、結核終息に向けた進歩は急激に後退している。
「強靭で持続可能な保健システム」への支援を拡大
グローバルファンドはグローバルヘルスのエコシステムにおいて、保健システムを強化する重要な役割を担っている。2018年以降、グローバルファンドは保健システムへの投資を拡大させており、2024-26年は60億ドルにのぼる予定である。グローバルファンドの低・中所得国の保健システム強化支援は国際機関の無償資金供与の中では最大額で、保健システムやパンデミックへの備えを広範に支援する唯一の重要な資金提供機関である。これは、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)や今後起こりうるパンデミックへの備えに保健システムの構築、強化は重要との認識に基づく。
グローバルファンドは、保健システムの主要な構成要素(サプライチェーン、サーベイランスとデータ、ラボ、コミュニティシステム、保健人材など)に支援をフォーカスし、世界銀行など他の資金提供機関と補完的な重要な役割を担う。グローバルファンドの特徴的な意義としては、1)スピード、2)フォーカス、3)パートナーシップの3つが挙げられる。例えば、長期的に保健システムの改善に向けた資金プラットフォームの提供に秀でている世界銀行に対して、グローバルファンドは非常に速いスピードでダイナミックな支援を行なっている。より柔軟に他機関や市民社会とのパートナーシップを組めることも特徴だ。世界銀行と相互補完的な支援ができる。
新たな局面を迎えたグローバルヘルスの課題(ウクライナ、新型コロナ)
- ウクライナにおける結核やエイズの状況
ウクライナは、世界で最も深刻な結核流行国の一つであり、また東欧・中央アジア地域の中でHIVが2番目に流行している国である。ロシアによる軍事侵攻により、ウクライナおよびその周辺国におけるこれら感染症の悪化が懸念される。グローバルファンドは、紛争の影響を受けた患者が予防と治療サービスを継続できることを喫緊の優先事項に掲げて支援をしている。
- 広がる新型コロナの検査格差
コロナのパンデミックは収束していないことを肝に銘じるべきだ。感染症の発生源を特定し、新しい変異株の出現を追跡するためには検査が必要だと認識するべきだ。しかし、2022年1月以降、検査率の低下や検査受診の格差が拡大しており、憂慮すべき事態が起こっている。
新型コロナが長引くことによる不透明性と長期的リスクの両方に対処する新戦略が必要だ。新型コロナへの対応を他の健康上の優先事項と統合させ、新型コロナだけではなく三大感染症のような他の感染症との闘いにも役立つシステムを考えなければならない。保健システムに投資することで、パンデミックの進行を早期に察知することができる。
新しい病気と闘うために使われる保健管理情報システム、保健人材、サプライチェーンといった保健システムの構成要素は、低・中所得国でいまだ多くの人々の命を奪い続けている三大感染症をはじめとする既存の疾患と闘うために使われているものと非常によく似ている。この点でも、既存の感染症とコロナのように新たな脅威と闘うための保健システムへの投資が極めて重要なのだ。
日本の貢献に感謝
日本政府の持続的、長期的で顕著な資金的、知的支援に感謝したい。また、UHCに関する日本の優れたリーダーシップに敬意を払いたい。
日本は資金的・知的リーダシップにとどまらず、優れた技術を活かした製品で三大感染症との闘いに大きく貢献している。グローバルファンドは、世界の公衆衛生市場における主要なプレーヤーであり、年間20億ドルの医療用品・機器などを調達している。医療用品や機器の調達に占める日本の製品は6%である。診断薬・機器および抗結核薬の調達額は世界第2位、蚊帳では3位である。今後も日本の優れた製品に期待している。
※図表はいずれも、「グローバルファンド日本委員会第35回議員タスクフォース・第28回アドバイザリーボード合同会合」におけるピーター・サンズ事務局長の発表資料をグローバルファンド日本委員会が和文仮訳したもの。
主要日程
- 林芳正外務大臣への表敬訪問
- 木原誠二内閣官房副長官への表敬訪問
- 佐藤英道厚生労働副大臣への表敬訪問
- グローバルファンド日本委員会第35回議員タスクフォース・第28回アドバイザリーボード合同会合
- 公明党山口那津男代表、古屋範子副代表、熊野正士議員、秋野剛三議員との懇談会
- その他政府関係者との意見交換
- メディア・インタビュー
- 日本の若者とのオンライン対話