医療従事者はヒーローとして拍手喝采を浴びている。しかし必要なのは、もっと構造的な支援だ。 ーーゾレーワ・シフンバ
ゾレーワ・シフンバさん 南アフリカの若き医師であり、多剤耐性結核と新型コロナにかかった経験を持つ当事者であり、医療従事者の環境改善を訴えるアクティビストです。コロナとの闘いの最前線で働いた恐怖と使命感と焦燥感、そして今、医療の現場を離れアクティビストとして世界の医療従事者の置かれている状況を改善するために声を上げる思いを、グローバルファンドのインタビューで語りました。是非ご覧ください。
“We must invest in our healers”: Dr. Zolelwa Sifumba is Fighting for Health Workers on the Front Line
(グローバルファンドウェブサイト 2021年11月22日掲載 以下仮訳あり)
なお、ゾレーワさんは、グローバルファンド日本委員会の招きで2019年のTICADの時に来日しています。来日時のメッセージやこれまでの記事や映像も本ページ下部リンクより合わせてご覧ください。
私たちのヒーラーに支援を:最前線の医療従事者のために闘うゾレーワ・シフンバ医師
新型コロナのニュースを初めて聞いたのは、昨年、南アフリカのクワズル・ナタール州の田舎にある郡立病院でコミュニティ訪問診療を行っている時でした。私は昔、医学生のときに多剤耐性結核に感染して以来、資源の乏しい状況での医療システムがいかに危険かわかっていて、その改善のために率先して活動してきました。新型コロナが身近に迫ってきた時、過去に結核にかかったことのある人は高いリスクがあるらしいと知り、とても心配になりました。私の働いている病院の周辺の小さな町から新型コロナの症状を訴える患者さんが出てくるようになると、ウイルスがどんどん近づいてくるのがわかりました。
怖かったですね。外国の映像で、医療従事者が新型コロナから身を守るために全身を覆う防護服を着ているのを見ていました。私たちには、普通の医療用エプロンとK95マスクが与えられましたが、N95マスクはもう見つかりませんでした。また、数週間後にやってくるであろう多数の数の患者を収容するスペースがないこともわかっていました。大変な事態になることは明白で、また自分が新型コロナに感染してしまうのではないかと心配になりました。病院の経営陣に、医療従事者の保護が十分でないと訴えましたが、私たちはいつも通り仕事を続けることを求められました。やがて、病院のスタッフの間で新型コロナが発生するようになりました。
病院に来る患者の数が増えるにつれ、あらゆるものが不足してきました。(ガウンやマスクなどの)個人防護具(PPE)も不足していましたが、医療従事者は、必要な防護具がなくても、出勤して患者さんに対応することが求められました。また、患者を治療するための医療用酸素も不足していました。酸素を与えなければ、少なくともここにいる半数の人たちを失うことになると知りながら、2つしかない酸素タンクと酸素を必要とする多くの患者さんを前にしなければならないのは精神的につらいことでした。酸素飽和度20%の人が入院してきたら「ここでは酸素ボンベが足りていない。どうしよう」と考えてしまいます。同じことが何度も繰り返されました。酸素を入れることができた人でも、結局、酸素濃度を十分に上げることができずに亡くなってしまった人もいました。
このトラウマは、圧倒されるほど強くまた広範なものでした。自分が守られていないと感じるトラウマと、自分たちがサービスを提供している人々が物資不足で十分なケアを受けられないことへの憤りのトラウマが混在しているのです。また、世界中の医療従事者がパンデミックのために亡くなっていたり、ストレスで自ら命を絶っている人がいることもトラウマでした。
このことは、私の不安感に深刻な影響を与えました。私はこれまでの数年間、医療に携わる者としての不安感に悩まされていましたが、新型コロナはそれをさらに悪化させました。実際、私自身も新型コロナに感染してしまいました。疲れて、咳が出て、頭痛がして、胸が痛くなって、息をするのに力を入れなければならないというのは異様でした。本当に苦しかった。一度だけ病院で酸素吸入をしましたが、その時はすごく待たされました。結局、自宅用の酸素ボンベを借りることができ、隔離期間中は友人や家族が食料を届けて助けてくれました。
その後、仕事に復帰しようとしましたが、不安感がとてつもなく大きくなりました。その場しのぎの防護服を着て仕事をする状態はもう続けられないと思いました。過去に多剤耐性結核に感染したのも、まさに同じ理由だっからです。十分な防護策を取らずに医療従事者が感染するという状況に対し、私には声を上げる責任があると感じました。コミュニティ診療の役割を終えた私は、自分の体を守らなければ生きていけないと思い、前線を離れました。自分の好きな仕事から離れるのは辛かったです。しかし、アドボケートとして、自分の声や人脈を使って変化を起こせることがわかっていました。私の天職は、医療従事者をサポートすることです。たとえそれが、医療の世界で困難な道のりだとしても、です。
医療従事者を守ることができない以上、医療従事者に対し自己犠牲を期待してはいけません。医療従事者はヒーローとして拍手喝采を浴び、称賛されています。しかし彼らが必要としているのは、もっと構造的な支援です。保健医療のインフラへの投資も、医療従事者への投資もせずに、この世界はどうやって新型コロナに勝てると思っているのでしょう、私にはわかりません。こうした構造的な変化は、新型コロナだけでなく、結核やHIVなど他のパンデミックの状況も改善するはずです。
私は第一線で働く医療従事者のために声をあげ、同時に、酸素ボンベなどを提供する手助けをしています。人々が疑問に思うのはわかります。患者のために酸素ボンベを配ることが、医療従事者のためになるのか?と。でも、医療従事者は患者さんを大切に思っています。単なる仕事ではないのです。助からないかもしれないと思っていた患者さんが助かったとき、私たちは嬉しくてホッとするのです。
自分の組織を立ち上げました。Uxhaso Home of Hotepです。Uxhasoとは、(南アフリカの)コーサ語で「サポート」を意味します。私が行っているのは、医療従事者が必要とするものー例えば 防護具や酸素などの支援ーを求めるためのスペースを提供すること、そして、医療従事者が自分たちのストーリーを語る場を提供することです。それによって、私たちが経験していることを人々に理解してもらうのです。私は、私に声をかけてくれたヘルスワーカーに酸素ボンベを提供できるよう、できるだけ多くのコネクションを得ようとしています。民間団体と連携し、病院に酸素を寄付しています。この数年間、私は大きな声を上げ活動してきました。その活動を通じて得た人脈のおかげで、今度は自分の声を使って他の人々のために効果的な主張をすることができるようになりました。
私たちのヒーラー(治療し癒してくれる医療従事者)は、この危機を乗り越えるために私たちを助けてくれる存在です。では、誰が彼らを癒し助けることができるのでしょうか?
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医療従事者は、コミュニティを守るために自らを危険にさらしており、保護される権利があります。2020年の新型コロナ対応では、WHOに報告された新型コロナウイルス感染者の14%が医療従事者で、いくつかの国では35%まで達しました。アフリカの医療施設を対象とした調査では、60%~80%の施設で医療従事者を保護するための個人防護具(ガウン、マスク、手袋、ゴーグルなど)が不足している状況が明らかになりました。グローバルファンドは、ACTアクセラレーターの「医療システム&レスポンス・コネクター」の共同主管組織として、パンデミックの発生当初から現在までに、低・中所得国の医療従事者を保護するための個人防護具の調達に7億9100万米ドル(約900億円)を支援しています。
コロナ発生以前から、グローバルファンドの保健システム支援は、国際機関の無償供与の中では最大であり、毎年10億米ドルを投資して低・中所得国が強靭で持続可能な保健システムを構築するのを支援しています。
(グローバルファンド日本委員会による仮訳)
ゾレーワ・シフンバさん 略歴
1990年生まれ、南アフリカのイースト・ロンドン出身の医師。2017年にケープタウン大学を卒業。在学中、医学生としてケープタウン市内にある病院で勤務中に多剤耐性結核を発症し、18か月間の闘病期間を経て結核を克服。自身の結核罹患、闘病経験を通じて結核予防の重要性に気づいたことから、多剤耐性結核を経験した医師として世界各国で結核に関するアドボカシー活動に精力的に参画している。ダーバン市内の病院で2年間のインターンを経て、ハーディング市の病院にてコミュニティサービス医師として従事中に新型コロナウイルス感染症にも罹患。現在は、世界の医療従事者の置かれている状況を改善するためのアドボカシー活動に従事。ACTアクセラレーターのコミュニティ代表の一人。
これまでの主な記事・動画
●結核とコロナの両方に感染した南アの若き女医が伝えたい「いま必要なこと」
(朝日新聞GLOBE+ 2020年12月10日)
●スイッチポイント渋谷―ヘルスケア最前線とイノベーション
(2019年TICAD7パートナー事業)
●「UnMasked : みんな呼吸する」
多剤耐性結核に感染した南アフリカの医師3人の物語 (2019年公開)
●WATCH: One South African doctor’s fight in the battle against COVID-19 | A Diary from the Frontline
(米公共放送PBS NewsHour ビデオ 2020年9月)