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結核プログラムを適応させて新型コロナに立ち向かう~フィリピンからの学び~

2021年11月30日
結核プログラムを適応させて新型コロナに立ち向かう~フィリピンからの学び~


新型コロナウイルス感染症による影響が深刻な中、結核対策プログラムを迅速に適応させたフィリピンの事例を紹介します。

結核対策への新型コロナの深刻な影響

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、世界の結核対策に深刻な影響を及ぼしました(*¹)。フィリピンでは、2019年と比較して、2020年の結核検査が49%、結核の届出が37%、薬剤耐性結核の届出が14%減少しました(国家結核対策プログラムのデータより)。結核検査率の低下、すなわち、発見、検査、治療を受ける人が減ると、結核の感染者や死亡者が増え、薬剤耐性結核が世界中に広がるリスクが高まります。WHOによると、フィリピンは世界4番目の結核高負担国です。

2020年、フィリピンはロックダウンを実施しました。これにより、エイズ、結核、マラリアの各プログラムは、外出禁止措置や輸送制限といった厳しい条件下で医療サービスを提供し続ける方策を模索しなければなりませんでした。しかし、2020年3月から5月にかけて、国家結核対策プログラム、WHO、フィリピン最大のNGOであるフィリピン・ビジネス社会開発財団(PBSP)の結核アクセスプロジェクト、米国の国際開発庁(USAID)などのパートナーが一丸となって、新型コロナの影響を受けて結核の医療サービスが中断することなく継続するよう、コロナ危機下に適応させる「国家結核適応計画」を策定し、新型コロナに迅速に対応しました。フィリピンは包括的な結核適応計画を最初に策定した国の一つで、他の国のモデルにもなっています。

結核対策における課題

結核を治すには、4種類の薬を6カ月間投与する必要があり、長期間にわたって複雑な治療を必要とします。薬剤耐性結核の場合は、9〜18カ月間に及ぶ治療が必要になり、吐き気を催す薬を毎日服用しなければなりません。患者が治療過程を完了せず、治療から「脱落」することは、患者が完治できないだけではなく、薬剤耐性がさらに増えたり、結核を蔓延させてしまうことを意味します。この「脱落」は、結核対策において深刻な課題の一つです。

新型コロナによる制約で加速した変化とイノベーション

新型コロナ以前、薬剤耐性結核の患者は、医療施設に毎日出向き、薬を服用する必要がありました。しかしロックダウン期間中は、結核患者だけでなく医療従事者も移動の制限があったため、1カ月分の薬の処方が認められるとともに、薬剤耐性結核クリニックの専任看護師が最低月1回、患者の自宅を訪問して容態を確認し、喀痰検査を行うなど、在宅医療に移行しました。これが大きな変化を生むことになりました。新型コロナ以前は治療開始6カ月目までに16%の患者が治療から脱落していましたが、2020年はわずか4%に抑え込むことができたのです。

「今、パラダイムシフトが起こっています。薬剤耐性結核患者の在宅治療は可能で、患者の服薬順守と治療結果に大きな改善が見られるのです」と、結核アクセスプロジェクトのプログラムマネージャーであるAraneta氏は言います。

グローバルファンドの支援

2017年、グローバルファンドとPBSPは、検体輸送ライダー(STRiders)を使って、より患者中心のサービスを提供する取組に着手しました。STRidersとは、医療施設から検査ラボまで検体を運ぶオートバイ運転手のことです。STRidersは、ただ検体を運ぶだけではなく、医療施設から患者の自宅に薬を届けるなど、新型コロナにより任務が拡大しました。また結核のみならず、エイズのプログラムでもこの取組が活用されています。

グローバルファンドは、新型コロナ対応メカニズム(*²)の資金提供を通じて、「国家結核適応計画」に基づき、結核の医療サービスが新型コロナの影響を受けないよう緩和する施策を政府と協力して行なっています。資金の一部は、結核患者を対象にした服薬遵守のデジタルツールの導入などに役立てられています。ツールには、「ビデオ監視下療法(*³)」や、患者に服薬を促して忘れた場合には地域保健ワーカーに通知する「デジタル薬箱」などがあります。このプロジェクトは2つの地域で実施されていますが、グローバルファンドの支援により、さらに6つの地域に拡大し、全ての薬剤耐性結核クリニックをカバーする予定です。

またグローバルファンドは、検査戦略の拡大と移動型診療も支援しています。移動型診療は、患者の自宅を訪問して痰を採取し、その場で検査を行うもので、移動型診療車にはX線撮影装置や心電計など、特に薬剤耐性結核の検査のフォローアップに必要な医療機器が収容されています。また、新型コロナの検査やワクチン接種会場などで結核の集団スクリーニングを実施するなど、出来る限り多くの人に支援が行き届くようにしています。


※グローバルファンドは、2002年からフィリピンのエイズ、結核、マラリアの各対策、強靭で持続可能な保健システムの強化に、これまでに5億5000万ドル弱(約620億円)を支援しました。また、新型コロナ対応メカニズムを通じて、2020年に約150万ドル、2021年に約3800万ドルをフィリピンに拠出し、コロナ対策、エイズ、結核、マラリアの各プログラムへの適応、保健システムの強化を支援しています。


グローバルファンドのウェブサイトに掲載されたニュース記事をもとに、グローバルファンド日本委員会にて作成。

*¹ グローバルファンド成果報告書2021を参照。成果報告書の要点はこちらを参照。

*² コロナ対応メカニズムは、グローバルファンドが支援する低・中所得国が、新型コロナウイルス感染症に対応しながら、三大感染症との闘いや保健システム強化を継続するために時限的に設置された資金調達・配分メカニズム。

*³ 患者が抗結核薬を内服するところを、ウェブカメラ、タブレット、ビデオフォン、スマートフォンなどを介して、医療従事者が遠隔的に観察する方法のこと。

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