9月14日、グローバルファンドは2020年の成果報告書を公表し、各国政府、多国間機関、二国間パートナー、市民社会グループ、病気と闘う人々、民間組織など、グローバルファンドのパートナーシップを構成する幅広いアクターによる努力の結果、2002年の設立から2019年末までの18年間に3800万人の命を救うことができたと(注)発表しました。前年の2018年(3200万人)と比較すると、600万人(20%)増加しており、国際社会が確固たる意志をもって支援を行い、また、感染症対策にあたる現場のコミュニティのリーダーシップがあれば、世界で最も甚大な影響をもたらしている感染症であってもその流行を抑えることができることを示しています。
1年間の成果
2019年の1年間、グローバルファンドが資金を供与した主な国々で以下の成果が達成されました。
- 2019年時点で抗レトロウイルス剤でHIV治療を受けている人数 2010万人
- 1年間に結核の検査と治療を受けた人数 570万人
- 1年間に配布されたマラリア防除用の蚊帳の数 1億6000万張
三大感染症による死亡者数はほぼ半減
グローバルファンドの支援対象国(低・中所得国約100か国)では、三大感染症による年間の死亡数が以下の通り減少しました。
- エイズ関連の死亡数:2002年から2019年までに61%減少
- 結核による死亡数:2002年から2019年までに25%減少
- マラリアによる死亡数:2002年から2019年までに46%減少
新型コロナウイルス感染症が及ぼす深刻な影響
このように大きな成果がある一方で、2020年に入り、グローバルファンド支援対象国では、新型コロナウイルスの影響でエイズ、結核、マラリアのプログラムに中断や遅延など大きな影響がおきています。
- HIVや結核の検査数が大幅に減っている(これは自身の感染に気付かず他者に感染を拡大している人が増えていることを意味する)
- 社会的距離政策のため、通常は集団配布するマラリア防除用の蚊帳の配布に遅延
- 医療や検査スタッフが新型コロナウイルス対応に割かれてしまい、通常の感染症プログラムが実施できない
WHO、UNAIDS、ストップ結核パートナーシップによるモデリング研究では、新型コロナウイルスにより、保健システムが崩壊し、三大感染症の治療や予防が中断すると、エイズ、結核、マラリアによる死亡者数は今後1年間で、最悪の場合、倍増する可能性があると指摘しています。これは絶対に避けなければなりません。
グローバルファンドの新型コロナウイルス感染症への対応
グローバルファンドは、感染症専門の国際機関としての実績を活かし、新型コロナウイルス対策においても重要な役割を果たしています。
- 2020年3月以来、既に調達済みの資金から約7億ドルを低・中所得国約100ヵ国と広域プログラムに支援。
- 具体的には、最前線で働く医療従事者への個人防護具の供給、コロナ禍の制約がある中で三大感染症対策を実施する適応策の実施、医薬品などの必須物資の供給に遅れがないかのモニタリング、検査・接触者追跡・治療ができるよう保健システムの強化などを実施。
- さらに、新型コロナウイルスの検査・診断の分野でも大きな役割を担っている。新型コロナウイルスのための国際協調の仕組み「ACTアクセラレター」の創設メンバーとして、診断・検査部門でFINDとともに共同議長を務め、低・中所得国にも公平に検査がいきわたるよう主導している。簡易で迅速、安価な検査キットが開発されたらすぐに展開できるよう準備を進めるとともに、今できることとして、既存の新型コロナウイルス用検査キット1700万を調達し配布している。
グローバルファンドは2020年6月末に、今後12か月の資金として50億ドルの新規資金調達を国際社会に要請しましたが、まだわずかな額しか調達に進んでおらず、9月末には緊急支援予算は底をつく見込みです。三大感染症対策でグローバルファンドが持つ専門性は新型コロナウイルス対策でも有効であり、引き続きの支援を要請しています。
2020年のグローバルファンドの成果報告書および要旨は以下よりご覧いただけます。
フルレポート 英語
プレスリリース Global Fund Partnership Has Saved 38 Million Lives – but COVID-19 Could Wipe Out Progress (September 14, 2020)
和文プレスリリース グローバルファンドとパートナーの支援により救われた命の数は累積で3800万人に到達 ―しかし新型コロナがその成果を帳消しにする可能性あり―
注:保健への投資の成果は様々な方法で測定可能ですが、最も重要な尺度は救われた命の数です。グローバルファンドの成果報告に含まれる「命が救われた」数値は、他の技術パートナーが推奨する方法を採用して推計しています。特定の年に特定の国で救われた命の数は、主要な疾病介入が行われなかった場合に発生した死亡者数から実際の死亡者数をひいて算出されています。例えば、治療を受けていない喀痰塗抹陽性の結核患者の70%が死亡すると示す研究がある国において、ある年に1000人の喀痰塗抹陽性の結核患者が治療を受け、登録死亡者数がわずか100人だった場合、この例では治療により600人の命が救われたとみなすことができます。反対に治療がなければ、700人の命が奪われていたことになります。(詳細は成果報告書p.74参照)。