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レポート:結核に関する国連総会ハイレベル会合に向けての市民社会ヒアリング

2018年6月14日
レポート:結核に関する国連総会ハイレベル会合に向けての市民社会ヒアリング

本年9月26日、結核流行の終息を目指して、結核に関する国連総会ハイレベル会合(UNHLM on TB)がニューヨークで開催されます。世界で最も深刻な感染症であるにもかかわらず、結核としては初のハイレベル会合であるため、各国政府首脳の出席による、実行につながる政治宣言の採択が期待されています。日本の別所浩郎国連大使が、アンティグア・バーブーダのウォルトン・アルフォンソ・ウェブソン大使とともに、会合の共同議長を務めます。

市民社会ヒアリング

結核の流行を終わらせるためには市民社会の力が不可欠であることから、9月の本会合に先だち、6月4日にニューヨーク国連本部でインタラクティヴ・ヒアリングが開催され、日本国際交流センター/グローバルファンド日本委員会も参加しました。これは、本会合で採択する政治宣言の作成交渉をする前に、各国政府が市民社会や研究者、国際機関、企業などの意見を聞くために、国連総会議長の主催で開かれる場です。終日にわたるヒアリングには、世界各国から250名以上の出席者が集まり、各セクターの代表者が4つのパネルでそれぞれの立場から発言を行いました。市民社会側からは事前に5つの「Key Asks」という要求をまとめた文書が出されており、会場に詰めかけた参加者からも数十にのぼる意見が出され、非常に活気のあるヒアリングとなりました。

201806-TB CSO hearing

診断につながっていない人たちをどう把握するか:日本の経験を生かす

最初のパネルは「Reaching the unreached: closing gaps in TB diagnosis, treatment, care, and prevention」。日本から結核予防会結核研究所の加藤誠也所長が登壇し、戦争直後の日本は、現在の結核高まん延国よりもさらに結核の罹患率が高かったが、1965年から78年の間に毎年10%罹患率を低下させることができたと述べました。その背景として、1)保健所を中心に学校や職場、地域組織などが総ぐるみで結核の発見に取り組んだマルチセクターアプローチをとったこと、2)徹底的に結核対策に資金を投入し、結核対策予算とUHC予算をそれぞれ確保したことで、いずれの対策・発展にとっても相互に有用な効果をもたらしたと分析しました。さらに、小児結核への対応の重要性を指摘し、小児に適した診断治療や指標作りを呼びかけました。

201806-TB CSO Hearing- Kato“日本の戦後の結核対策の経験に照らし合わせると、結核のための予算ー現代のコンテクストであれば、グローバルファンド からの支援ーとその国自身のユニバーサル・ヘルス・カバレッジの予算を適切に組み合わせることで、結核の終息に向けた相乗効果を最大化することができる。” ―結核予防会結核研究所所長 加藤誠也

更なる資金の必要性:国内資金を増やす

第2パネルは、資金の必要性を話し合う「Investing to end the world’s leading infectious killer」。登壇者の一人、グローバルファンドのマライケ・ヴェインロクス官房長は、グローバルファンドが2002年から2018年の間、100以上の国・地域に60億ドル以上を支援し、累計1740万人の患者に結核治療を提供した成果を説明しました。一方で、グローバルファンドは支援国に対して国内支出すべき保健医療予算の最低額を設定しており、その結果として2015ー2017年に保健に充てられた支援国内の資金が前3年間に比べて60億ドル増えたというデータを示し、一方で、結核の流行を終わらせるためには、まん延国自身も結核に充てる国内資金を増やすことが不可欠だと指摘しました。

201806-TB CSO Hearing- Marjike“結核の流行を終息させるためには、資金の増加および効率性の改善、保健医療サービスへのアクセスに誰一人とり残されないようバリアを取り除く絶え間ない努力があって初めて実現できる。” ―グローバルファンド官房長 マライケ・ヴェインロクス

診断・治療技術開発への資金投入の必要性:副作用の少ない治療薬の開発を

今回のヒアリングでは、各パネルの冒頭に結核サバイバーが登壇し、それぞれの体験を共有しました。第3パネル「Innovation on TB: new tools and approaches」に登壇したルーマニアのパウラ・ルス氏は、最も軽い結核で片側の肺を失ったという自分の体験を述べ、薬の副作用で関節が激しく痛み、治療中の4ヶ月間は歩くことすらできなかったこと、副作用の少ない治療薬の開発が必要であることを強く訴えました。また、第2パネルに登壇したペルーのメルキアデス・ウアヤ氏は、自身の治療費のために他の兄弟の教育費が出せなかったことを語り、結核治療により貧困に陥る危険性を指摘しました。

201806-TB CSO Hearing-Paula Rusu“私がかかった結核よりずっと辛い結核が2種類ある。これらの結核の治療の副作用では、幻覚を来し、聴覚を失うのだ。彼らが納得してこの辛い治療を続けられる理由を一つでも教えてほしい。「生きて」というだけでは足りないのだ。なぜならば、この治療は毎日何回も死にたいと思わせるほど辛いのだから。” ―ルーマニアの結核サバイバー パウラ・ルス

市民社会の力を対策に生かす:人権を尊重した結核対策のために

第4パネルのテーマは「Partnerships for success – the role of communities in an equitable, person-centred, rights-based response」。コンゴ民主共和国の市民社会グループ Club des Amis Damienのマキシム・ルンガ氏は、結核にまつわる差別や排除が行われている現状を指摘し、地域レベルでの啓発や診断・治療への橋渡し、ピア・サポートなどが十分に行われていないこと、またそのために不可欠な市民社会グループへの資金を含めた支援が不足していることを訴えました。性別、人種、宗教、年齢、社会的地位などによる差別をなくし、人権を尊重すること、そのためのパートナーとして市民社会グループを位置づけることが、各国の結核対策を成功させる唯一の方法だと主張しました。

“結核対策において鍵となるグループの人々の人権を尊重すること、ジェンダーの観点を取り入れること、そして、市民社会や地域社会、最も結核の影響を受けている人々の関与を増やすこと。これらなくして、結核対策の成功はない。” ーコンゴ民主共和国 市民社会グループ Club des Amis Damien マキシム・ルンガ

政治宣言の実行に向けて

ヒアリング全体として強調されたのは、人権を尊重した対策、他の深刻な感染症と比較しても遅れていると言わざるを得ない診断・治療技術の研究開発への更なる投資、診断・治療に結びついていない人たちの発見、予防のための資金や子どもの結核対策の強化、市民社会への資金援助や医療従事者への結核対策の必要性などです。これを受けた閉会の言葉として、別所浩郎国連大使は、市民社会からの貴重な意見に感謝を述べ、結核は治療できる病気にも関わらず、これまで放っておかれていた課題であり、結核に関する国連ハイレベル会合を機に結核の流行を終息に導きたいと、会合の共同議長としての意気込みを示しました。また、国連総会議長も各パネルに登壇したサバイバーの訴えを引用し、誰のための対策であるかを明確にした上で、本会合の重要性を強調しました。

201806-TB CSO Hearing-Bessho“これからは、市民社会の意見を首脳や政府が採択する政治宣言に転換し、実行する番である。” ―国連日本政府代表部 別所浩郎大使

 

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市民社会ヒアリングは、国連のUN Web TV より動画でご覧いただけます。

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