3月にユニセフから世界基金の戦略投資効果局長に転身された國井修氏が、ご出身の栃木県の下野新聞に「ソマリアの子に光を:スイス・世界基金に転身、多くの人々救うため」を寄稿されました。著者と下野新聞社のご了解を得て、転載しご紹介させていただきます。
下野新聞紙面 [PDF: 913KB]
ソマリアの子に光を ユニセフ國井医師レポート
2013年3月25日 下野新聞
國井 修
世界エイズ・結核・マラリア対策基金 戦略投資効果局長、前ユニセフソマリア支援センター保健・栄養・水衛生事業部長 大田原市出身
ユニセフを辞職し、3月1日からスイス・ジュネーブに事務局のある世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)に移った。知人たちは「華麗なる転身」「ご栄転」と持て囃す。が、パンツひとつで過ごせる、大自然豊かな熱帯地域が好きな自分にとって、寒くて曇りがちで物価の高いジュネーブは住みにくい。何より現場が好きな私には、そこから離れることへの抵抗感もある。
それでも転身には理由がある。
今から10年以上前、アフリカに行くと驚くほど多くの人々がエイズで死亡していた。ある国では3人に1人がエイズウイルス(HIV)に感染。働き盛りの若者も次々に死亡し、そのため農業生産が低下し、孤児が急増した。エイズになった患者を診断・治療する医師や看護師も病に倒れる始末。このひとつの病気により、平均余命が20歳も下がった国もある。エイズで国が滅亡するのではないか、との危惧も冗談には聞こえなかった。
このエイズの流行で結核への感染の勢いも強くなった。地球温暖化、人口の移動などで、マラリアも世界に拡がり、多くの子どもの命を奪っていた。
このような感染症は地球規模で拡がり、今、これを食い止めないと世界の未来はどうなるのか。保健医療だけでなく、地球規模の社会・経済問題となった。
ここで2000年のG8九州沖縄サミットを迎える。世界で感染症の蔓延をどうにか食い止めよう、そのためには大規模な資金を調達し、援助国、被援助国、企業や民間財団、NGO、感染症に苦しむ人々のグループ、学界、国際機関などが一致団結して感染症と闘おう、と日本が議長国として呼びかけた。これが発端となって設立されたのが世界基金である。2002年に創設され、10年間で2兆円以上の資金を世界から集め、世界151カ国で300万人以上のエイズ患者の治療、900万人以上の結核患者の治療、2億張以上のマラリア予防の蚊帳などが行き渡った。私もアフリカの現場にいて、これらの感染症による死亡者や感染者が減少していくのを肌で感じた。やればこんなことができるんだ。国際支援を続けていくことへの自信と希望がついた。
しかし、より効果的、効率的に人々を救うため、感染症を減らすため、データの収集、成果の計測、資金の分配、専門機関との協力体制、リスク管理などをどのように改善していったらよいか。世界基金にも様々な課題がある。
この戦略部分を私は担当することになる。これらを改善することで、母子保健や保健システム全体の強化にもつなげ、アフリカを含め世界中でより多くの人々を救うことができるかも知れない。
ソマリアを離れても、ソマリアの人々のことは忘れない。むしろ、現場を離れたほうが見えること、できることもある。そう信じて・・・。