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日本人とグローバルファンド Vol.2 長嶺由衣子氏

2018年7月5日
日本人とグローバルファンド Vol.2 長嶺由衣子氏

わたしとグローバルファンド2

最後は私という人間を信頼してもらえるか。
国際機関で知った理解の基本

長嶺由衣子氏
(医師、千葉大学予防医学センター特任研究員)

一橋大学社会学部を卒業後、長崎大学の医学部へ学士入学。離島医療の経験を経て、現在、千葉大学予防医学センターに特任研究員として勤めながら、同大学大学院で学ぶ長嶺氏に、グローバルファンドとの繋がり、そこから学んだことなどを聞いた。
長嶺さん写真
グローバルファンド離任の送別会で(長嶺さん提供)

世界から来た人との信頼を高め、成果を出す仕事

― グローバルファンドとの繋がりを教えてください。

2017年の2月から9月まで半年間、インターンとしてジュネーブにある事務局に所属しました。国際機関で働くことや国際保健に関心をもちつつも、私はまだ現場を見たことがありませんでした。自分がやりたいと思った予防や健康施策を立案するためのエビデンス作りについて、現在所属する千葉大学大学院や留学先のロンドンで学んだあと、実際に国際機関でどんなことが行なわれているのか、自分の力はどういうところに生かせるのか、見てみたいという気持ちが出てきたのです。

たまたまグローバルファンドの國井修先生(戦略・投資・効果局長)が長崎大時代の恩師なのですが、先生のお勧めでグローバルファンドに応募してみました。

国際機関のなかでも、お金を動かしているところはシステム作りをする基盤になる場所ですし、実際にお金をどう配分するかに今後世界をどう動かしていくのか、というポリシーが表現されていると思います。グローバルファンドは組織規模も、3大感染症の終息という課題規模も大きく、お金の配分はもちろん、官や民間、企業もNGOもどう連携して動いているのか、肌で知るには格好の場所だと思いました。

 

― 実際にどういう仕事をされたのでしょうか。思い出などお教えください。

戦略情報部というところに所属しました。グローバルファンドには創設の2002年から膨大なデータの蓄積があります。しかし、当初は今ほど評価を目的としたシステム設計になっておらず、一部は手入力で入力ルールが統一されていない時期もあり、手探りの状態が続いていたようです。システム化されたあとも、時代に応じてどういうデータが求められるのか、周りからのリクエストもどんどん変わります。データ管理にあたるスタッフも、既存のものをなんとか新しいものに対応させてきたのですが、戦略立案には経年変化を見るため年ごとの数字にほぐし直すとか再編成するとか、さまざまな作業が必要なのです。

私がグローバルファンドで任された仕事は、今後グローバルファンドが組織として出していきたい結果のレポート用に必要なデータの再編でした。ところが、再編成するといってもそんな簡単にいくものではない。当初のシステムの事情やデータ入力方法を熟知している人に聞いたり、現在のデータから再編する方法を考えたり、ときには現地国担当者へ聞きにいったりと、10階建てのグローバルファンドの入っているビルを飛び回って作業していました。

始めてみてわかったのは、データ再編が必要だと感じているボスやスタッフと、そのシステムを作りあげてきたデータ再編スタッフとのミスコミュニケーションがあったことです。ボスや他の部署のスタッフが必要と思うデータの見せ方をしようとすると、実は現在のデータ構造ではすぐにはできないことがある。頼んだものが出てこないことにとまどうスタッフと、再編する時間を取れないデータ管理スタッフの間でうまくコミュニケーションが取れず、見えないメンタルコンフリクトのようなものが起こっていたのです。スタッフの皆さんがサポーティブに、率直に話をしてくれたので見えてきた状況でした。

まず大事だったのは、私という人間を信頼してもらえるかどうか、目指すゴールを共有して必要なアウトプットが出せるかどうか。そんな関係性のブレイクスルーになったのは、テニスのウィンブルドン大会の時期に、世間話をしていたら、協力を仰ぎたい相手がテニス好きだとわかり、私もテニスを見るのが大好きなので、テニスの話をすると思わず打ち解けられたこと(笑)。最後にはチームスタッフみんなの信頼と理解が得られ、求めるデータにたどりつき、良い経験にすることができましたね。

 

― グローバルファンドにはどのような人たちが働いているのでしょう。

入ってみてわかったことですが、インターンは通常、20台前半で、大学院教育からのキャリアパスとして来る方が多いようです。私の場合、すでに医師の経験もあり、仕事で遭遇した疑問を解決したいと思って大学院へ入った再学習組で、当然、年齢も高め。留学先のロンドンでもそうで、日本人は社会に出たあとの再学習組というタイプが多かった印象です。

しかし、国際機関に来る海外の人たちのハングリー精神はすごいものがありました。世界中から優秀な人たちが集まる環境の中で、ポジションを取っていくのは容易なことではありません。世界に貢献するんだという気持ちだけでは折れてしまうこともある。いろんな人と話していくうちに、何が何でもポジションを取ろうと挑み続ける人たちの中には、母国が紛争地で帰りたくても帰れない、だからこそ外から母国に貢献するんだという人や、母国の失業率が高く、求める仕事がない場合もあるーーそんなことが見えることもありました。母国が好きでも帰れない。でも、国際機関では崇高な目的のために自分が一生懸命つけてきた知識や経験を活かす場がある。だから必死なんです。日本は紛争地でもなく、安全できれいな国です。すべての人にとってとは言いませんが、努力を重ねていけばある程度やりがいのある仕事を見つけることができ、美味しいご飯食べて、屋根のある家に住むことができる。ハングリーさに影響するバックグラウンドが違うんだな、と痛感しました。もちろん、ジュネーブでお会いした国際機関を渡り歩いている日本人の方々も同じだけの強いハングリー精神を持っていると感じました。

 

世界に行ったからこそ見えた足元の豊かさ

― 半年のインターン後、帰国し千葉大学へ復学されました。

国際機関での経験はとても刺激的でしたが、インターンの仕事自体はデータ作業が主軸でもあり、もうちょっと自分がこの業界の大きなビジョンを描けるようにならないと、と思って帰国することにしました。

いま、HIVも慢性疾患になって患者の高齢化が顕在化してきたように、かつての感染症で多死だった時代を抜けて、高齢化が進み、日本では47都道府県中40都道府県がすでに人口減少期に入ってきています。人口増加を前提に構築されてきた社会において、さまざまな不具合にどう対応していくのかに元々関心を持っていました。その点、日本は高齢化にすでに取り組んできた蓄積もあり、国際的にはむしろ日本から発信していく時期ではないかと思っています。千葉大で学んでいることは、あるいはかつて沖縄の離島医療で取り組んでいたことは、世界がこれから求めていくことをすでに具体的なかたちに落とし込んだテーマではないか、ということが見えてきたんですね。世界に行ったからこそ見えてきた足元の豊かさだと思います。

いま、こちらの教授や研究仲間と、日本の高齢者調査の分析を高齢化が迫りつつある東南アジアの国ぐにに応用するべく、世界保健機関とレポートをまとめているところです。先日もASEAN諸国にいってきましたが、向こうのコンテクストにあわせた介護予防施策につながるような調査をできないか、進めているところです。

 

― 最後にグローバルファンドでのインターンシップは、長嶺さんにとってどんな経験だったでしょう。

国際機関に行くこと、そこで働くことを目標とするなら、若いときに早く行くに越したことはないでしょう。国際機関で働くために必要なスキル、自分が磨かないといけないもの、どういうネットワークに身を置くことが大事なのかなどは、そこへ実際に行くと、外から見るより100倍よくわかる。社会人経験をしてから行った自分の場合、そこに身を置いたことで自分の強みとか、自分が今後なすべきこと、自分の関心がより明確になり、グローバルにアプローチする意味や方法論を深めることができました。結局、国際の仕事といえども、いろんなところと人とをつないで、調整をして、一歩一歩、前に進めていくしかないんだな、と実感した経験でした。貴重な機会をいただくためにご尽力いただいた方々に、この場を借りて心から感謝いたします。

 

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グローバルファンド日本委員会(FGFJ)では、グローバルファンドと何らかの関わりのある日本人をインタビューし、「日本人(わたし)とグローバルファンド」というコラムでウェブサイトに掲載しています。バックナンバーはこちらのページからご覧ください。

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