“持続可能な保健財政は政治的・道義的要請である。なぜなら、国民の健康は経済の基盤であり、同時に安全保障と我々共通の繁栄の礎でもあるからだ”(ケニア共和国アデン・デュアレ保健大臣)
JCIE/ グローバルファンド日本委員会では、2025年8月20日、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)のテーマ別イベントとして、グローバルファンドとの共催で「アフリカにおける持続可能なヘルス・ファイナンシング:約束から実行へ」を開催し、公共財政管理(PFM)などアフリカ主導で保健財政の持続可能性を強化する取り組みについて、議論を深めました。
政府開発援助(ODA)のあり方が大きく変化を遂げている中、アフリカなど低・中所得国にとっては、国外からの援助資金と自国の国内資金の双方をより効果的かつ持続的に管理し活用していくことが重要です。本イベントでは、アフリカ政府、ドナー、市民社会等の様々な観点から具体的な経験をもとに議論し、保健の世界では議論の対象になりにくい公共財政管理を取り上げ、どのように保健財政とつなげていくかを顕在化させ、今後の議論の方向性に一石を投じることができました。
会合の要旨は以下の通りです。
冒頭、開会挨拶にたったグローバルファンドのピーター・サンズ事務局長は、グローバルファンド設立以来の日本の支援への感謝と高い日本の技術力に期待を述べるとともに、日本をはじめとするパートナーの協力により6500万人の命が救われ、三大感染症による死亡率は合計63%減少したとこれまでの成果を紹介しました。しかし、援助資金の削減・紛争・気候変動等の影響によりこれまでの成果が脅かされていると警告を鳴らし、保健システムの長期的な持続可能性を確保する上で重要なのは、感染症対策への支援を継続しつつ、段階的に低・中所得国自身が保健財政の責任を負うように変革していくことだと訴えました。
基調講演に登壇したケニアのアデン・ドゥアレ保健大臣は、保健財政はアフリカ大陸にとって最も重要な課題の一つであると述べ、ケニアが取り組む保健財政改革の3本柱として、(1) 国内資金動員の強化、(2)プライマリーヘルスケアの優先化を通じたUHCの推進、(3)ソーシャルインパクトボンドや医療保険など民間のイノベーションを活用する官民連携の強化を挙げ、それらの進捗を紹介しました。ドゥアレ大臣は、日本のUHC達成の経験と保健システム強化への投資は、アフリカにとって貴重な教訓の宝庫であると述べ、我々全員がこの基盤を活用し、アフリカ・日本保健ファイナンス・アクセラレーターを設立すべきであると提唱しました。大臣は、持続可能な保健ファイナンスは政治的・道義的要請である、なぜなら国民の健康は経済の基盤であり、同時に安全保障と我々共通の繁栄の礎でもあると結びました。
続く第二の基調講演で、南アフリカ共和国のマトゥメ・ジョセフ・ファーラー保健副大臣は、持続可能な保健財政における課題と進展を振り返り、多くのアフリカ諸国がアブジャ宣言の目標15%を達成できておらず理想と現実に乖離があると指摘し、その原因として経済の低迷、債務負担、誤った優先付けが依然としてなされていることを挙げました。また、保健省と財務省の連携強化の必要性、保健プログラムの資金調達における国内財源の重要性、グローバルファンドやPEPFARのような外部パートナーの重要な役割を強調しました。ファーラー副大臣は各種の保健システムが平行し分断化している状況に警鐘をならし、民間セクターの貢献を公衆衛生に取り込むなど相乗効果をめざすプローチをとるべきと指摘しました。
日本からは、国会および政府を代表し、グローバルファンド日本委員会共同議長で日本・AU友好議員連盟会長を務める逢沢 一郎衆議院議員および英利アルフィヤ外務大臣政務官が登壇しました。逢沢一郎衆議院議員は、グローバルファンドは成果をあげる費用対効果の高い機関としては世界トップクラスであるとし、前週のザンビアへの視察で、グローバルファンドの非常に優れた支援と現地の人々の努力による現地主導の活力を実感したと実例を披露しました。そして、どの国も財政は厳しいが、来る11月の第8次増資会合で各国は、まさにこのイベントのタイトル通り、約束を行動に移す必要がある。我々は努力を重ねていかなければならないと決意を述べました。
英利外務大臣政務官は、国際的な資金調達環境は困難になっているが、日本のグローバルヘルスに対する姿勢は変わっていないとし、日本は保健を外交の中核的柱の一つと位置づけUHC達成に向けて一層の努力を行っていく決意を述べました。また、今回のTICADで、「アフリカ保健投資促進パッケージ」を発表したことを紹介し、JICA、市民社会、グローバルファンドを含む多国間機関と連携していくことを提案しました。英利政務官は、アフリカ各国が国際支援からの自立性を高めようとする中、保健ファイナンスの包括的アプローチが必要であり、強固な公共財政管理(PFM)システムは持続可能性を実現する重要な基盤となるとし、パネル・ディスカッションの議論に期待を示しました。
パネル・ディスカッション
「強力な公共財政管理(PFM)システムを活用し、アフリカの保健財政を持続可能にする」
パネルでは、グローバルファンドのアダ・ファイ最高財務責任者(CFO)が、グローバルファンドが取り組む公共財政管理の概要、ヘルスファイナンスを推進する中での公共財政管理の位置付けについて概説した上で、5名の専門家・実務家が、それぞれの経験から具体例に基づき意見を交わしました。
ファイCFOは、ヘルス・ファイナンシングの議論は持続可能性という理念を掻き立てるが、その大望を実際の変革につなぐ架け橋となるのが、公共財政管理(PFM)であるとその重要性を強調しました。成熟した機能的な公共財政管理システムが必要であり、保健分野における制度的ガバナンス、説明責任、持続可能性の強化が求められるが、20年余り保健分野に投資をしてきたグローバルファンドだからこそ提供できる価値があると強調。また、ドナーによる支援から自立にむけての移行は大胆な変革を必要とされるが、単にスイッチを切り替えるようにはいかない。支援を突然停止すれば、20年間の成果を失うことになる。自立に向けた道は、スピード感を持ちつつも、国の実情に応じて漸進的に、しかし覚悟を決めて粘り強く進める必要があると提起しました。
各国政府の公共財政管理システムの健全性や有効性を評価するプラットフォームであるPEFA(公共支出・財政アカウンタビリティ)事務局長のスリニバス・グラザダ 氏は、 PEFAでは各国政府の公共財政管理システムの健全性や有効性を評価しているが、多くの低・中所得国では保健省に配分された予算がすべて執行されておらず、それは保健省側の財政管理能力の不足と、財務省のシステムの柔軟性の欠如に起因すると指摘。保健省と財務省が相互の信頼関係を構築し連携して予算執行を改善する必要性を強調しました。
マグダ・ロバロUHC2030共同代表は、自身がギニアビサウの保健大臣を務めた経験を踏まえ、保健省が直面する政治的・制度的課題、特に財務省に対する交渉力が限られている点を指摘しました。加えて、保健省はドナー国や国際的な基金との交渉力も弱く、公共財政管理を強化することがその解決策の一つであると述べました。そして、グローバルファンドやGaviなどの基金に対しては、国が財政システムを強化するようインセンティブを与え、そして各国を信頼し、進んでリスクをとる姿勢(risk appetite)に転換することが重要だと提起しました。
続き、アフリカの市民社会を代表しパネルに登壇した WACI Healthアフリカ連合リエゾン・オフィス所長のフィツム・ラケウ・アラマイユ氏は、市民社会にとって公共財政管理は比較的新しい分野であるが、説明責任と保健の公平性の向上にとって重要であるという認識を示しました。市民社会の役割は、この国は”公共財政管理成熟度”が何パーセントであるといったデータの裏にある実態を可視化した上で実際のヒューマンストーリーを伝えることであるとし、この瞬間にも新たに感染し、死亡していく人がいることを忘れてはならないと警鐘を鳴らし、セクター横断的な連携と強固な説明責任枠組みの構築を訴えました。
ルワンダのアレクシス・カムヒレ会計監査院院長はオンラインで参加し、2003年に開始したルワンダにおける公共財政管理改革の経験を参加者に共有しました。まず公共財政管理関連法を制定し、議会の会計委員会、会計監査院、公共調達庁、検察庁など関係各分野の組織で財政を監督する体制を構築。現在、ルワンダの公共財政管理は、国家予算計画の策定、予算編成、予算執行、会計、監査を包括し、統合財務管理システムが国内外の歳入・歳出、財務報告をリアルタイムで管理し、電子調達システムは調達業務の効率性と透明性を高めていると説明しました。カムヒレ氏は、あらゆるレベルで説明責任を強化したことが、今日のルワンダの経済社会発展の基礎となっているとし、国のトップ自らが政治的意思を示すこと、保健財政を維持するための強固な監査システムの重要性を訴えました。
日本政府からは厚生労働省の江副聡国際保健福祉交渉官が登壇し、まだ経済発展途上だった1961年のUHC達成がその後の国の社会経済発展の礎を築いたと日本の経験を共有し、UHCは国の繁栄のための必要条件であると強調しました。日本は世界銀行やWHOなどのパートナーと共同で「UHCナレッジハブ」を設立するが、その目的の一つが、アフリカを含む低・中所得国の保健省・財務省の政策立案者や実務家に対する研修と能力構築の提供であると紹介し、これは国主導の公共財政管理の強化と極めて関連性が高く、グローバルファンドやアフリカ諸国が公共財政管理システムを含む保健ファイナンスへの関心を高めていることを高く評価すると述べ、日本は、UHCナレッジハブを通じた取り組みを含め、効果的かつ効率的な支援のための協働を模索していきたいと結びました。






