世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の國井修 戦略・投資・効果局長が、2020年11月に来日し、超党派の国会議員、省庁の幹部、メディア関係者、研究者、企業やNGOリーダーなどと会合を重ね、グローバルファンドの新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)への対応や、エイズ・結核・マラリア対策への影響、低・中所得国での新型コロナ感染状況、国際社会が連帯して感染症対策に取り組む重要性などについて報告しました。
全世界で新型コロナが流行している中での訪日であったため、新型コロナにグローバルファンドの支援がどのように貢献できるかという点についても、多くの時間を割いて意見交換が行われました。来日中の諸会合での主要メッセージは以下の通りです。
世界における新型コロナ感染拡大状況
世界における新型コロナの感染拡大は止まらず、2020年11月6日時点で、新型コロナの世界における累計感染者数は5000万人、累計死亡数は120万人に達している。現在、第2派が欧州を襲っており、スイスでは人口あたりの感染者数が欧州で一番多く、グローバルファンドがあるジュネーブでは病院が満床のため、患者が他の地域に搬送されている状況である。しかし、全世界的にみて、年間の感染者数では、新型コロナよりもマラリアの方が圧倒的に多い。年間死亡数も、現時点では結核による年間死亡数の方が新型コロナより多い。
感染症の脅威を表す指標の一つに、致死力(感染した人のうち死に至る割合)と感染力(感染者1人あたり何人に感染するか)があるが、他の感染症と比較しても、新型コロナの致死力は0.7~3.4%と、それほど高くない。また、感染率も新型コロナの場合、感染者1人から感染が広がるのは約3~4人である。その他、感染力が強い感染症の例として麻疹が挙げられるが、1~15人に感染するといわれている。新型コロナの怖さは、風邪に似た症状であることから、油断すると突然重症化する危険があることだ。
新型コロナによる三大感染症への影響
新型コロナ感染拡大の影響により、エイズ、結核、マラリア対策事業が停滞しており、酷い国では、その国で実施している事業の70~90%が影響を受けている。具体的には、治療薬が現場に届かない、診断ができない、患者が診療所に行くことができないという状態が続いている。また、新型コロナ感染拡大防止策としてロックダウンを実施したことにより、公共施設やマーケットが閉じてしまうことから、病気以前に生活が成り立たないという事象も生じている。
このような新型コロナによる事業停滞などへの影響の結果として、三大感染症に死亡数増加の可能性が懸念されている。特にアフリカでは、エイズ、マラリアによる今後1年間の死亡数が、最悪の場合には倍増する可能性があると推計されている。
グローバルファンドの新型コロナ対応と比較優位性
新型コロナによる三大感染症への影響を最小限に抑えるため、グローバルファンドは、従来の三大感染症への支援に加えて、新型コロナ対策にも尽力している。(グローバルファンドの新型コロナ対応詳細は、こちらをご参照ください。)新型コロナ対策における、グローバルファンドの比較優位性は以下の通り。
1.迅速性
既に各国に供与されていた資金の一部を新型コロナ対策に振り分けており、新型コロナ対策の事業案件申請を3日間で承認している。
2.既存システムの柔軟な応用・大規模調達の提供
結核、エイズの検査機器を新型コロナの検査に応用して活用している。また、三大感染症対策に必要な物資を大量調達・分配する既存の体制を、新型コロナ対策に必要な物資の調達、配布に活用している。
3.現地での大規模展開
新型コロナ対策を現地で大規模に展開するため、グローバルファンドが三大感染症対策において構築してきた現地の官民ネットワーク、民間セクター、市民組織、NGOなどを活用している。また、現地でのネットワークを活用し、第一線で活動する保健医療医従事者を守るための個人防護具(PPE)や迅速検査などをラストマイル(最後の1人)まで届けている。
更に、グローバルファンドは、世界の新型コロナ対策においても新たな役割を担っており、グローバルファンドの感染症対策の実績や、大量の調達能力、市民社会・NGOなどとの強い連携などの比較優位性を活かし、日本政府も参加するACTアクセラレーターの主要メンバーとして、低・中所得国における「診断・検査」の拡充、「治療薬」の調達供給、「保健システム強化」に取り組んでいる。
検査・診断の重要性
検査による陽性者の診断、接触者追跡、隔離は、すべての感染症対策の基盤であることは日本の例を見ても明らかである。また、ワクチンや治療薬の臨床試験、開発された後の接種拡大の戦略作りをする上でも、高い精度の検査が必須である。ワクチンや治療薬がまだ開発されていない中、今すぐ実行可能な唯一の革新的技術として、低所得国でも使える迅速抗原検査が開発された今、その普及が死活的に重要である。
グローバルファンドの新型コロナ対策支援の資金ニーズ
グローバルファンドは6月末に、今後12か月間に新規に50億ドルが必要であると試算を発表し、各国政府やパートナーに資金の緊急動員を呼び掛けている。グローバルファンドファンドの新型コロナ対策支援に係る資金ニーズの内容は以下の通り。
- エイズ、結核、マラリアプログラムの適応策:10億ドル
- 保健医療従事者の支援(PPE提供など):18億ドル
- 保健システムの強化:9億ドル
- 診断・治療薬の調達、供給、支援:23億ドル(診断:19億ドル、治療:4億ドル)
※上記のうち、10億ドルはグローバルファンド第5次・第6次増資で調達済みの資金から充当
各国における新型コロナ感染収束は最重要課題であるが、世界のどこかで感染が続く限り、再輸入・流行リスクが伴う。また、経済活動の回復も遠のいてしまう。自国の新型コロナ対策に加えて、世界的な新型コロナ対策への支援をお願いしたい。
来日中に出席した主な会合
- グローバルファンド日本委員会(FGFJ)第31回議員タスクフォース・第24回アドバイザリーボード合同会合
- 国会議員表敬
- 主要省庁訪問
- 日本記者クラブ会見
- 自民党感染症ガバナンス小委員会