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日本人とグローバルファンド Vol.3 瀬古素子氏

2018年11月20日
日本人とグローバルファンド Vol.3 瀬古素子氏

現地女性のエンパワーメントに伴走して
私のライフワークを見つけた

インタビュー 瀬古素子氏 (ガーナ保健省 UHC政策アドバイザー)

バナーのちょうど中心を支えているのが本人(本人提供)

ジェンダー不平等で女性が命を落とす現実に衝撃を受けた

グローバルファンドで、ジェンダーアドバイザーを2012年5月から16年5月まで勤めました。 最初にこれまでの経歴をお話しします。

私は慶応大学の総合政策学部を卒業したあと、アメリカの大学院で「リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)」を軸とした女性学、ジェンダー学を学びました。もともと国連で働きたいと思っていて、外務省が費用を負担して実施されるJPO(Junior Professional Officer)派遣候補者選考試験に合格、国連人口基金(UNFPA)カンボジア事務所へ派遣されました。2000年のことです。ちょうどカンボジアはHIV対策が国レベルで動き始めた時期で、これがHIVとの出会いとなりましたね。セックスワーカーなど社会的に脆弱な層への取り組みに深くかかわりました。

2002~05年までは、女性の社会進出やジェンダー平等を支援する国連女性開発基金(現在のUN Women)へ移りました。男性同性愛者(MSM)や薬物使用者などHIV対策の取り組みが「男性」主導のなか、女性の陽性者団体が主体的に発言できるようにするための支援に力を入れました。

その後、HIVの仕事をするならもっと状況が苛烈なアフリカを知りたいと思いました。それで日本国際協力機構(JICA)専門家として、2007年にザンビアへ赴任しました。当時、現地のHIV感染率は20%超ともいわれ、バタバタと人が亡くなっている状況でした。

現地ではグローバルファンドや米政府の支援で治療薬が強力に展開されはじめた時期でしたが、女性が置かれている状況には厳しいものがありました。経済的に自立できず、夫に扶養されるかわりにセックスを拒めない、夫の女遊びを許容せざるを得ない。そして、外でHIVに感染した夫から自分も感染させられても、家の恥とばかりに、展開されはじめている治療を受けさせてもらえない。ジェンダー不平等で女性が命を落とす現実に打ちのめされたのです。

一方で、たくましいのも女性たちでした。夫がエイズで死んだあとHIV陽性の女性たちは、「子どもを残して自分は死ねない」と薬を求めて立ち上がる。パワフルでしたね。アフリカの一部の国では女性が土地を所有や相続できない法律があり、女性の経済基盤が脆弱です。HIVで死んだ夫の財産を女性が相続して自立するため、法律改正に取り組む人たちとも連携しました。こうして女性・ジェンダーとHIVの課題がいわば自分のライフワークになってきたのです。

また、ザンビアではグローバルファンドともいろいろかかわり、人脈もできてきました。そうしたことから帰国後もJICAでグローバルファンド担当としてかかわっているうちに、ご縁があって2012年5月からジュネーブのグローバルファンドで働くことになった、というわけです。

 

ジェンダー視点でのさまざまな取り組み

グローバルファンドでは2000年代の半ばから、ジェンダーに関する戦略を策定するようになります。例えば、国によっては女性の外出や行動が抑圧される環境に鑑み、単に資金を出すだけでなく、その治療や検査を家まで届けるようなデザインが重要だと指摘するようになりました。そうしたコミュニティ、人権、ジェンダーに関する施策にアドバイスをするのが私の所属していた部署であり、私に課された役目でした。赴任当時は私と上司の2人でしたが、4年後の離任のときには10人のチームになっていました。

グローバルファンドで支援している国からのレポートには、HIVの感染率や感染者数における女性割合、感染経路も不明、結核治療からの離脱率の男女差もわからない、そうしたものもかなりあります。国によっては、わが国にジェンダー問題はない、男女平等だ、と報告してくるところさえあります。

どこをターゲットにした介入が効果的か知るためにはデータが必要です。それでまず、データを性別ごとに分類すらしない状況ではグローバルファンドの資金をつけるわけにはいかない、といって差戻すシステムを作りました。また援助供与案件申請書類の作成には、国内の女性グループも参加して当事者の意見を取り入れながら審議することも義務づけました。

もう一つは、10か国ほど重点国を決めて、ジェンダー視点で小さくても必要な支援に力を入れる取り組みも進めました。あるアフリカの国では女性が中学卒業後、結婚するまでにHIV感染することが多い。在学中は学校を通じて介入できるけど、その後は空白期になります。それで、女性たちが集まる市場で出張の性教育や検査を実施しました。

あるいは私がこれまでネットワークのある国連機関には、女性の水汲みを軽減するため井戸を掘る活動をしているものもあり、そこには水汲み往復中のレイプ危険率というデータがある。そうしたデータに基づく啓発活動にHIV予防の視点も上乗せしてもらえるよう、現地NGOとの連携などにも取り組みました。

他にも例えば、結核検査の一つに痰を調べる方法がありますが、インドなど南アジアでは、女性は男性の前で痰を出すことに抵抗があります。結核検査を行う係も含め女性を配置していくなどの改善も、ジェンダー視点の活用ですね。

 

男性たちも、ジェンダーの縛りに影響されている

一方で、男性も「男らしさの呪縛」に様々な影響を受けています。若い男たちが買春をするのは、ピアプレッシャーや、同性愛への侮蔑がある中で自分はゲイではないことを証明するなど、さまざまな内心的理由があります。そして感染予防の知識もないまま性交渉をもって、HIV感染につながることもあります。

また、感染をしていても、女性は妊娠時に医療機関を訪ね、そこで陽性がわかるなど介入契機がありますが、男性は「男らしさ」に呪縛されて、たとえ体調不良を感じても倒れる寸前まで病院へ来ようとしないことがある。ジェンダーの視点を入れて、対策を工夫することが必要です。

一時、HIV感染の可能性を低下させると言われる男性割礼(包皮切除手術)を進めたこともあります。手術前にはそこでHIV検査も受けますし、来院中は様々な知識を知ってもらうなど介入の機会にもなりますから。母親たちのグループを通じて、「中学生の子どもが性的にアクティブになる前に手術をしましょう、お母さんからもHIV予防を伝えてください」といった啓発を進めました。こうして、男の子たちが先入観や社会的通念にとらわれないうちに介入を始めるとともに、彼らが理解しやすいような伝えかたにも工夫をしました。現地の状況に合わせて、きめ細かい、手作り感満載の対策が、実はグローバルファンドの資金で実施されているのです。

 

当事者女性のエンパワーメントへ

グローバルファンドで支援対象国に、ジェンダーに基づく施策の実施や審議会の体制を義務づけたことで、各国の意思決定の場である国別調整委員会(CCM)がジェンダーの専門家を起用・雇用することにも繋がり、ジェンダーの視点や施策が定着していったのは紛れもない事実です。私自身を振り返っても、ジェンダーアドバイザーという立場でこんなに多くの国に小さくても影響を与える仕事ができたことは誇りですし、それはグローバルファンドという組織にいればこその醍醐味だったと思います。

それにも増して、大きな喜びがあります。各国の女性HIV陽性者団体を対象にグローバルファンドについて研修して回りましたが、そこから巣立った女性たちが各国保健省などの検討委員会に入ったり、彼女たちが意見を上げたことで国の対策が動き始めていることです。さらに、彼女たちがグローバルファンドの理事になったり、2016年ダーバンでの国際エイズ会議で基調講演に登壇したり、先日行われた国連総会結核ハイレベル会合でスピーチを行ったりと、国際的なリーダーとして活躍しているんです!

彼女たちは、メールやSNSで今も連絡や報告、相談をよこしてくれ、私もそんなたくましい彼女たちに支えられ続けています。世界に広がる女性のエンパワーメントを感じる瞬間です。

写真右端、グレーのカーディガン姿が本人(本人提供)

 

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グローバルファンド日本委員会(FGFJ)では、グローバルファンドと何らかの関わりのある日本人をインタビューし、「日本人(わたし)とグローバルファンド」というコラムでウェブサイトに掲載しています。バックナンバーはこちらのページからご覧ください。

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