視察現場から
日本の拠出金はグローバルファンドを通じて、途上国でどのような成果を挙げているのでしょうか。現地にはどのような課題があるのでしょうか。エイズ・結核・マラリア対策において、日本の技術・サービスをもっと活用できる領域はないのでしょうか。それらの答えを探すべく、グローバルファンド日本委員会は9月上旬に、議員タスクフォースのメンバーの中から4 名の国会議員─木原誠二衆議院議員、 黄川田仁志衆議院議員、豊田真由子衆議院議員、濱村進衆議院議員にご参加頂き、インドネシアのジャカルタと東ティモールのディリで視察を実施しました。
結核:患者の発見と治療の継続が課題
インドネシアは結核高まん延国の一つで、世界で2番目に結核の発生数が多い国です。特に薬が効かない多剤耐性結核がまん延していることが深刻な問題となっています。今回の視察を通じて、多剤耐性結核患者の発見や、治療の継続が大きな課題であることを改めて認識しました。インドネシア保健省は多剤耐性結核の診断を強化する方針で、今後2 年間で300台の検査システムの導入や、多剤耐性結核の治療ができるよう100カ所の保健センターの改修を予定しています。また、地域で結核を疑われる人をみつけ、保健センターへつなぎ、診断し完治するまでを支援する、元結核患者からなるコミュニティ・グループが重要な役割を果たしています。グローバルファンドの資金は、医薬品や機器類のほかにも、このようなコミュニティ・グループの活動にも使用されています。
エイズ:キー・ポピュレーションへの支援と国民感情との間のジレンマ
国民の約9 割がイスラム教徒のインドネシアでは、薬物使用は犯罪、そして同性愛は社会的にタブーとされています。近年、売買春施設の閉鎖や麻薬撲滅の取り締まりが強化されていることに加え、公の場で同性愛者の愛情表現が増えていることに対する国民の反感が高まっています。インドネシア政府は、セックスワーカー、薬物使用者、同性愛者などのエイズ対策を優先して届けるべきキー・ポピュレーションを対象としたHIV対策を早急に打ち出さなければいけないところですが、伝統・宗教的な価値観が障壁となり、積極的な取り組みに着手できずにいます。
社会から排除されるキー・ポピュレーションに対し、政府の代わりに医療サービスやケアを届けているのはコミュニティ・グループです。当事者やその家族からなるコミュニティ・グループはソーシャル・ネットワーキング・サービス( SNS)を駆使し、積極的にアウトリーチ活動を行っています。HIV対策の切り札となるコミュニティ・グループの人材育成やトレーニングなどに、グローバルファンドが果たす役割に期待したいと思います。
マラリア:根絶に向けた取り組み
21世紀最初の独立国東ティモールでは、かつて最大の死因の一つがマラリアでした。しかしこの10 年足らずの間に、グローバルファンドの資金、世界保健機関( WHO)の技術支援などを受けて、マラリアの脅威は劇的に改善しました。島国であるという地理的な要因も幸いしているかもしれませんが、医療従事者の研修、長期残効型蚊帳の大規模配布、室内の殺虫剤散布、検査の質の向上、流行の予測やアウトブレイクの管理、意識啓発などの対策を、政府が本腰をいれて実施したことが功を奏したと分析されています。
東ティモールの医療水準はまだ低く、地方では医療施設での治療よりも伝統医療を選ぶ人が多くいます。そこで保健省はグローバルファンドの支援を受けて、村レベルの保健センターの数を3 倍に増やし、人々が身近な場所でマラリアの診断や治療を受けられるようにしています。訪問したヘラ村では、科学的な効果を確かめながら長期残効型蚊帳の配布、屋内殺虫剤噴霧、サーベイランスに地道に取り組んでいます。
日本のグローバルファンドへの支援に感謝
今回の視察では、在東ティモール日本大使館の協力を得て、ルイ・マリア・デ・アラウジョ首相への表敬訪問、マア・ド・セウ・サルメント・ピナ・ダ・コスタ保健大臣やドアルテ・ヌネス国民議会第二副議長ほか国会議員など、政府や議会関係者とも懇談する機会を持ちました。
医師でもあるアラウジョ首相は、マラリアの流行が激減した東ティモールは、日本のグローバルファンドへの支援が途上国で目に見える成果を挙げている具体的な好事例であると強調し、グローバルファンドとのパートナーシップを評価し日本への感謝の念を表しました。また、保健分野における今後の日本との協力関係に期待したいと述べました。
アジアの感染症対策
一週間の視察を通じて、グローバルファンドの支援が両国で大きなインパクトを与えていることを確認し、保健システムやコミュニティの強化などいくつかの課題を把握することができました。グローバル化に伴い国境を越えた人の移動が増加する中、日本はアジアの感染症対策に一層の協力をしていく必要があります。特に長い期間の実績を持つ結核に関して、日本は途上国の行政官や医師を対象とした国際研修や、専門家の派遣のほか、日本企業が開発した治療薬や診断システムの活用など、グローバルファンドを通じた資金的協力と補完関係となる様々な協力の可能性が秘められていることを認識しました。
(日本国際交流センター プログラム・オフィサー レオン・シャオイン)
FGFJレポートNo.11(2016年11月)掲載