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WHOが抗エイズ薬の早期投与を勧告

2013年7月3日
WHOが抗エイズ薬の早期投与を勧告

世界保健機関(WHO)は、2013年6月30日に、抗エイズ薬の早期投与の勧告を出しました。世界基金支援日本委員会の委員である島尾忠男エイズ予防財団代表理事に、勧告の背景と意義についてご寄稿いただきました。


WHOが抗エイズ薬の早期投与を勧告

島尾 忠男
公益財団法人エイズ予防財団代表理事
公益財団法人結核予防会顧問

6月30日から7月3日にかけてマレーシアのクアラルンプールで行なわれた国際エイズ会議で、抗エイズ薬の使い方について重要な勧告がWHOから出された。抗エイズ薬は使い始めると一生飲み続けねばならず、薬を止めると血中のHIV(エイズウイルス)の量が再び増え始める。副作用が全くない薬はないので、長期間の服薬は容易ではない。抗エイズ薬を使い始める時期は、身体を守る免疫の程度を知る物差しとして使われている血液1mm3(ミリリットル)中のCD4リンパ球の数が用いられ、従来はこれが350を切ると、抗エイズ薬を使い始めていた。今回の勧告ではこの基準を500まで上げ、より早く治療を始めることを勧告した。この他に、CD4リンパ球の数とは関係なく、HIVに感染している5歳より小さい子供、妊婦、授乳中の母親、そして性的なパートナーの一方がまだHIVに感染していない場合の相方は、抗エイズ薬を使うよう勧告した。

世界全体で現在HIVに感染している人は3400万人、1年間に新たに感染する人が250万人、亡くなる人は170万人で、新たに感染する人数が多いため、HIV感染者の数は徐々に増え続けている(下図参照)。

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この動きを止めるために、非常な決心で行なわれたのが今回の勧告である。その根拠には、①抗エイズ薬の使用が感染を防ぐのに役立つことが証明されたこと、②抗エイズ薬が進歩して、効果がより有効で、副作用が少ない薬剤が開発されてきて、3種類の薬を一緒に混ぜた錠剤が使えるようになったことがあげられる。

 

2005年から米国のノースカロライナ大学国際保健感染症研究所が主導し、ブラジル、タイ、ジンバブエ、インド、南アフリカの13都市に住む1763組の性的カップル(97%は異性愛カップル)で、CD4リンパ球数が350-500の者を対象に、通常の感染防止のための衛生教育を行なった上で、直ちに抗エイズ薬を使用する群と、エイズの症状が出るかCD4リンパ球が250を切るまでは抗エイズ薬を使用しない群の2群に無作為に分け、観察開始時には感染していなかったパートナーへの感染状況を観察した。2011年2月までに39人がHIVに感染し、この内パートナーから確実に感染した者が28人、100人を1年観察すると0.9人が感染した割合になり、この内抗エイズ薬を早期に使用した者からは1名だけ、残り27名は抗エイズ薬を早期には服用しなかった者が感染しており、両群に感染状況に著明な差が見られた。

途上国のHIV陽性の母親から生まれた子供に母乳を与えながら子育て出来るのも喜ばしいことである。世界エイズ・結核・マラリア基金やユニセフ、各国の開発援助機関や民間の基金が協力してこの勧告が完全実施されることを期待したい。

WHOのプレスリリース

世界基金のプレスリリース


 島尾 忠男

公益財団法人エイズ予防財団代表理事、結核予防会顧問

shimao

1948年東京大学医学部医学科卒業。1949年より結核予防会に勤務し、同会結核研究所所長、名誉所長を務めた後、結核予防会の会長を経て2000年より顧問、2010年より公益財団法人結核予防会評議員会会長。1999年よりエイズ予防財団理事長、会長を務め、現在は代表理事。また、国際協力機構(JICA)の海外医療協力委員会委員(1981-85年)、同委員長(1982-1996年)、日米医学協力計画日本側委員長(1993-2000年)、国際結核予防連合(IUAT)理事(1975-81年)、世界保健機関(WHO)執行理事(1987-90年)、総理府対外経済協力審議会委員(1988-96年)等を歴任。

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