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国際シンポジウム「エイズを考える:アフリカと日本の共通課題」

2013年6月15日
国際シンポジウム「エイズを考える:アフリカと日本の共通課題」

日時:2013年6月1日 14:30-16:00 場所:パシフィコ横浜アネックスホール 主催:外務省 協力:日本国際交流センター、TICAD V 学生プロジェクト

日本国際交流センターでは、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)配偶者プログラムの一環として開催された安倍昭恵内閣総理大臣夫人主催の同シンポジウムにおいて、アジェンダ設定やパネリストの選定に協力し、専務理事の勝又英子がモデレーターを務めました。

このシンポジウムは、安倍夫人のエイズ問題に対する深いご関心を受けて開催に至ったもので、ナミビアのポハンバ大統領夫人(エイズと闘うアフリカ・ファーストレディーの会OAFLA会長)、潘淳沢国連事務総長夫人、林文子市長、ジャン・ビーグルUNAIDS事務局次長、ダイブル世界基金事務局長、日本からは、日本国内でエイズ対策の最前線で活躍する大木幸子氏、長谷川博史氏、TICAD V学生プロジェクト代表の前田実咲さんがパネリストとして登壇しました。また特別ゲストとして、野口英世アフリカ賞を受賞されたピーター・ピオット博士、アレックス・G・コウティーノ博士からもショートスピーチをいただきました。

左から、アレックス・G・コウティーノ博士、ピーター・ピオット博士、勝又 英子(モデレーター)
左から、アレックス・G・コウティーノ博士、ピーター・ピオット博士、勝又 英子(モデレーター)

各パネリストの発言要旨は以下をご覧ください。

開会挨拶
安倍昭恵 内閣総理大臣夫人

安倍昭恵 内閣総理大臣夫人本シンポジウムは、エイズと闘うアフリカ・ファーストレディーの会(OAFLA)の協力を得て開催に至った。アフリカのエイズの現状を知るきっかけとなったのは、2004年に南アフリカのHIV/エイズ関連の施設を訪問し、エイズ患者や母子感染した子どもたちと接したこと。それまではエイズは遠い世界のものと思っていたが、帰国後に、日本は感染率が上がっている唯一の先進国と聞き、さらに関心を持つようになった。現在は日本ロレアル社が行っている啓発活動にも協力している。エイズ問題を女性が語ることは難しく、性に直結するためオープンに語るのが難しいテーマでもあるが、率直に意見交換する中で見えてくる問題もある。今日は、これまでエイズ対策に長年関わってきた方々の話を聞き、エイズだけでなく様々なことに問題意識を持ってもらえればと考える。

 

冒頭挨拶
ペネフピフォ・ポハンバ エイズと闘うアフリカ・ファーストレディーの会(OAFLA)代表(ナミビア大統領夫人)

ペネフピフォ・ポハンバ エイズと闘うアフリカ・ファーストレディーの会(OAFLA)代表(ナミビア大統領夫人)日本政府による世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)への資金拠出に感謝する。ナミビアは世界基金から支援を受ける国の一つであり、その支援によってマラリア撲滅を達成した。90年代、何百万もの命がエイズによって失われた。HIV感染は死刑宣告を意味し、エイズはアフリカ大陸を崩壊させる敵の如くであった。アフリカのファーストレディーたちは各国政府の取り組みを支えるべく、2002年に「エイズと闘うアフリカ・ファーストレディーの会(OAFLA)」を設立した。OAFLAの活動を通じて、多くの困難にぶつかったが、その一つが活動資金の不足である。ナミビア国内で支援している母子保健プロジェクトも資金源を寄付に頼っている状況であり、活動に必要な資金確保のためには、国内/地域レベルにとどまらず、国際的な連携が不可欠であると実感している。長期的なパートナーシップとネットワーク構築に向け、日本とアフリカの共通点を見出すための機会として本シンポジウムに期待する。

 

特別挨拶
潘淳沢(パン・スンテク)国連事務総長夫人

潘淳沢(パン・スンテク)国連事務総長夫人「HIV新規感染ゼロ、差別ゼロ、エイズ関連死ゼロ」という目標は簡単ではないが、新しい世代を以ってすれば達成できると信じている。貧しい国では今も、毎日1,000人の子どもが新たにHIVに感染しているとされるが、「エイズのないアフリカ」を実現するために私たちは、ケア・サポートを必要とするすべての妊婦に手を差し伸べなければならない。出産した3人の子どもをHIV感染から守ったHIV陽性者の活動家、レベッカ・アミティは「すべての子どもたちは母子感染を受けてはならず、エイズ遺児になってはならず、治療が受けられないことが原因で死んではならない」と述べている。レベッカのような女性たちの存在が目標を達成する鍵であろう。母が子を守り、子が成長してより良い明日をつくるのである。

 

基調演説
ジャン・ビーグル国連合同エイズ計画(UNAIDS)事務次長

ジャン・ビーグル国連合同エイズ計画(UNAIDS)事務次長エイズは、健康問題の域を超え、開発、人権、ジェンダーなど様々な側面を持つ課題である。エイズ対策はここ数年で成果を挙げており、増加の一途をたどっていた新規感染者数、死亡者数ともに減少に転じ、800万人以上のHIV陽性者が治療を受けている。エイズ対策に必要な資金も世界的に増加した。しかし多くの課題が残されている。昨年だけで250万人が新たにHIVに感染しており、エイズは未だに生殖可能年齢の女性の死因第一位である。偏見や差別は根強く残っており、特に男性同性愛者、セックスワーカー、ドラッグユーザーなど脆弱な集団は治療や社会支援などのサービスへのアクセスが限られている。サブサハラアフリカには、世界のHIV陽性者の69%、HIV陽性の妊婦の92%が暮らしているが、アフリカにおける新規感染者は2001年の1/3まで減少し、陽性者700万人が治療を受けているなど、エイズの状況は好転してきている。これらの進捗はアフリカ連合やOAFLAをはじめとするハイレベルでのコミットメントと共同行動が効果を生んだものである。アフリカ連合は三大疾病対策の責任と国際社会の連帯を共有するためのロードマップを採択し、その中で「多様で持続可能な資金調達」、「低価格で質の高いサービスへのアクセス」、「リーダーシップとガバナンスの強化」を解決に向けた行動の三本柱として据えている。どのような対策が有効かはこれまでの経験から明らかであり、私たちは予防に注力するとともに、治療を拡大していかなければならない。そして、様々なセクターの広範な参加が必要である。一国のみでエイズとの闘いに勝てるわけではない。このエピデミックを終わらせるために、UNAIDSはOAFLAの方々、そしてアフリカの人々と共にエイズ対策に取り組んでいく。

 

プレゼンテーション「コミュニティの経験を政策に生かす」
大木幸子 杏林大学教授

大木幸子 杏林大学教授日本におけるエイズの報告数は増加の一途をたどっており、2011年の新規感染者数は約1,500名であった。日本人の男性がその8割を占め、感染経路は同性間性的接触が最も多い。日本国内では誰もがエイズの治療をうけることができ、社会生活が継続可能であるものの、エイズおよびゲイ男性への差別偏見により、HIV陽性者が就労やエイズ以外の疾病の治療に関して、様々な社会サービスを受けられない事態が起こっている。これまでのエイズ対策は、ターゲットを絞らない全般的なものが多く、そのためにターゲット集団であるゲイ男性たちに対策が届いていなかった。そのような中で、地方行政と専門医療機関、HIV陽性者が参加するNGOやケアを行っているNGOが協働して取り組んだ東京都のプログラムや、首都圏でのゲイ男性向けの検査行動促進プログラムなど効果的な取り組み事例もある。プログラムでは、ゲイタウンに設置したコミュニティセンターを中心とした予防啓発活動や、多様なセクシャリティに配慮した検査を実施するための保健所の質的な環境改善などを行った。その結果、首都圏での2006~2011年のエイズ発症者数は、プログラム開始前の予測値を下回った。プログラム成功の要因として、①予防、検査・相談、治療、ケアが連動したプログラムであったこと、②支援者、当事者、研究者が協働してプログラムをデザインしたこと、③研究者、NGO、行政の協働によって実行されたこと の3点が挙げられる。エイズ対策は私たちの心の内にある偏見に気づかせてくれる重要なテーマであり、私たちの社会はエイズによって、多様性を獲得するための挑戦を迫られていると考える。

 

プレゼンテーション「東京のゲイコミュニティのスティグマとの闘い」
長谷川博史 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)代表

長谷川博史 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)代表1994年にこの横浜で開催された国際エイズ会議が、自分の陽性者としての活動の起点であり、今日ここに戻ってこられたことは感慨深い。日本国内の男性同性愛者・両性愛者などのMSM(men who have sex with men)人口は成人男性の3-5%と推計されているが、その多くはセクシュアリティを公表しておらず、MSMの存在は見えにくい。加えて、HIV 陽性であることを周囲に伝える事が難しく、エイズ問題に対する国民の関心も低いため、HIV/エイズの問題が自分や自分のコミュニティの問題だと感じられず、触れられたくない問題、すなわちスティグマとなっているのが現状である。またこれが、HIV感染が止まない一因ともなっていた。

日本におけるエイズとの闘いは、スティグマとの闘いといっても過言ではない。その中で、差別偏見を減らすために実施した3つのプログラムを紹介したい。①研修を受けたHIV陽性者が当事者の視点から社会に等身大の語りを提供するHIV陽性者スピーカー研修・派遣事業、②MSMを対象とするエイズ対策拠点Community Center aktaの運営とaktaを基盤とした予防啓発やアウトリーチ、検査体制構築などの活動、③HIV陽性者や周辺の人々の手記の読み聞かせを音楽イベントや朗読会など様々な場面で行い、その体験を共有する共感型プログラムであるLiving Together計画の3つであり、いずれもHIV/エイズ問題を「見える」ようにすることで成果を挙げることができた。セクシャリティ、肩書き、国籍、HIVが陽性かどうかといった様々な立場を超えてHIV/エイズと向かった時、初めてこの問題の解決に向かって動き出せると信じている。

 

プレゼンテーション「HIV啓発活動におけるユースの役割と可能性」
前田実咲 TICAD V学生プロジェクト東日本代表

前田実咲 TICAD V学生プロジェクト東日本代表日本では、HIVの感染率が低いこともあり、アフリカに比べて予防啓発活動を行うユースグループは多くない。エイズはユースにとって身近な問題ではなく、エイズへの偏見はあっても、その向かう先がはっきりしない。その一因として、「寝る子を起こさない」とされる日本の性教育が挙げられるだろう。学校での性教育は、慣れ親しんだ担任や保健室の先生による表面的な内容であることが多く、気恥ずかしさも手伝って、性そのものへの抵抗感を生んでしまう。その結果、性感染症は知らなくてもよい、自分とは関係のない問題として遠ざけてしまっているのではないだろうか。そこで提案したいのがピアエデュケーションの拡充である。ピアエデュケーションでは、年の近い若者が性やエイズのことを教えてくれることにより、他人事ではなく自分の事として、これらの問題について知ることができる。若者は、教育やHIV/エイズの予防啓発を受ける側であると同時に、共に課題解決をしていくアクターでもあり、アクターとしての可能性を感じてほしい。TICAD V学生プロジェクトは、ユース参画の意義として、①若者が全人口の過半数を占めるということ、②これからの未来を担うのは若者だということ、③当事者であるということ、④自由な立場であることの4つを挙げている。ピアエデュケーションの役割と可能性を踏まえると、ユース参画の意義は、日本の性教育やHIV/エイズの課題においても同様と考える。日本とアフリカ各国の未来と、HIV/エイズの課題解決に向け、ユースも当事者としての思いを持って取り組んでいきたい。

 

総評
マーク・ダイブル 世界エイズ・結核・マラリア対策基金事務局長

マーク・ダイブル 世界エイズ・結核・マラリア対策基金事務局長これまでの発表を踏まえて議論のポイントをいくつかまとめたい。一つ目は、アフリカ連合とTICAD Vとの連携であり、日本とアフリカのパートナーシップが、両者のリーダーシップ強化につながっている。二つ目はこの10年間でのHIV/エイズを取り巻く状況の変化である。治療がなく、絶望的だった状況について言及があったが、この10年で感染率の低下や治療へのアクセス向上など状況は大きく改善し、その中でアフリカの首脳夫人たちも重要な役割を果たしてきた。三つ目は女性や少女たちがいかにエイズに影響を受けているかという点であり、これは妊産婦と新生児の健康にも大いに関係している。四つ目は差別偏見の問題であり、日本、アフリカに関わらず、女性や少女たちが被害を受けやすいこと、MSMやドラッグユーザー、セックスワーカー、移民、囚人といった人々がサービスから取り残されていることなどが指摘された。五つ目は、日本における対策の成功例の鍵としても紹介されたが、HIV陽性者やコミュニティの巻き込みである。政府の対策を推し進めるのがHIV陽性者であり、コミュニティである。六つ目は若者である。若者とは未来である。最後に改めてパートナーシップに触れたい。アフリカ各国のリーダーシップによって、この10年で、日本の国民を含む非常に多くのパートナーが支援してくれるようになった。共に歩むことで、もっと先へ進むことができる。そして我々は今や、エイズ、マラリア、結核やその他の公衆衛生上の脅威に打ち勝つための科学技術の進歩と疫学的な理解、現場での知見を手にしている。アフリカと日本には年配者を敬う文化がある。若者が我々の背中を押し続けてくれれば、我々は年配者として、尊敬に値するだけの働き、即ち三大疾病に打ち勝つという目標を達成することができるだろう。

 

閉会挨拶
林文子 横浜市長

林文子 横浜市長約20年前に国際エイズ会議がここ横浜で開かれており、縁を感じている。エイズという課題を抱えるのは横浜も同様で、毎年新たに約50件のHIV感染者、AIDS患者の届出がある。市民に正しい知識を持っていただくとともに、感染拡大を食い止める必要な対策をとっていくことが基礎自治体の役割と考えている。横浜市では、夜間検査・即日検査の実施や、感染者・患者への心理的支援、感染予防のための啓発活動、特に青少年に向けた情報提供や相談体制の充実に重点的に取り組んでいる。本シンポジウムを通じて、エイズが女性にとって非常に大きな問題であることを改めて実感した。未来を担う子どもたちのために、今日のこの場が日本とアフリカ各国のみならず世界全体としてエイズの終焉に向けて踏み出す新たな一歩になればと考える。


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