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世界基金 10周年の最新成果

2012年10月1日
世界基金 10周年の最新成果

世界基金は2012年9月25日に、10周年の成果報告書 Global Fund Results Report 2012 Strategic Investments for Impact を発表しました。
世界基金でインパクト評価課長を務める小松隆一氏に、世界基金のこれまでの成果と日本への期待について寄稿していただきました。


10周年成果報告書『インパクトへの戦略的投資』上梓にあたって

小松 隆一   世界エイズ・結核・マラリア対策基金インパクト評価課長
2012年9月

2012年に設立10周年を迎えた世界エイズ・結核・マラリア対策基金(以下、世界基金)は、途上国で蔓延する三疾患対策に対して先例のない額の支援を行ってきた。効率と効果をさらに挙げるため、「インパクトへの戦略的投資」に焦点を当てた2012-16年度新戦略を実施し始めた。

世界基金が支援するプログラムの2012年中期までの成果は、360万人がエイズ治療を実施中で、総数930万人が結核治療を行い、殺虫効果のある蚊帳2億7千万帖を配布した。これらの成果により870万の命を救うことができたと推計されている。マラリア治療、薬剤耐性結核の治療、HIVの母子感染予防については2010年と比較して成果は5割増となった。

図1 世界基金が支援する事業の2012年中期までの成果
図1 世界基金が支援する事業の2012年中期までの成果

早期から多額の資金配分を受けたいくつかの国では疾病・死亡に対するインパクトが明らかになりつつあり、ミレニアム開発目標(MDG)の保健目標の達成に希望を与えている。たとえば、ナミビアでは、世界基金やその他のドナーの支援を受けたエイズ治療の増加につれて、病院でのエイズ関連死が98%減少した図2。カンボジアでは、世界基金が支援する結核事業が拡大した2002年から2011年にかけて、結核(注2)が43%減少した図3。バングラデシュでのマラリア事業は2007年から本格的に拡大し、殺虫効果のある蚊帳が家庭に普及するにつれ、保健施設から報告されるマラリア死が急速に減少した図4

なお、こうした事例の妥当性を詳細に検討するため、世界基金はインパクト評価課を新設し、WHOなどと共同での評価を開始した。インパクト評価の基礎となるデータシステムの整備についても「女性と子供の健康のための説明責任枠組み」と共同で取組んでいる。

図2:ナミビアでのエイズ治療薬の増加、エイズ関連入院日数、および病院でのエイズ関連死の変化
図2:ナミビアでのエイズ治療薬の増加、エイズ関連入院日数、および病院でのエイズ関連死の変化
図3:カンボジアの喀痰塗抹陽性結核の変化
図3:カンボジアの喀痰塗抹陽性結核の変化
図4:バングラデシュでの殺虫効果のある蚊帳の普及度とマラリア死の報告数の変化
図4:バングラデシュでの殺虫効果のある蚊帳の普及度とマラリア死の報告数の変化

しかし、資金配分が十分でないため、保健システムが機能せず、サービスがいきわたらず、インパクトが見られるに至っていない国がいまだに多い。世界基金としては効率性をさらに改善し、インパクトの高い対策に戦略的に重点投資することで限られた資金の投資効果を高める努力をしている。一方、こうした国でMDGが達成できるように投資をさらに増加することは国際社会の責務である。また、それだけでなく、この10年間の成果を維持するという視点も欠くことができない。マラリア対策は1960年代に大きく進展し、いくつもの国で成果が見られたが、ドナーの関心が薄れ対策資金が急減した結果、再び途上国で蔓延してしまった。過去の教訓を活かさなければならない。

日本の貢献は、世界基金に対する資金のうち約7%を担ってきた。JICA事務所や外務省在外公館、NGOなども含め、さまざまな形で世界基金の出資事業を現場で支援する日本人も増加し、JICA事業との連携も軌道に乗り出している。日本の技術による殺虫効果のある蚊帳の評価も高い。世界基金理事会での発言力も増し、現在は、新事務局長選出委員会議長という高い信用が必要な職に日本人が任されている。MDG達成に向けて、さらには、2015年以降にも途上国の人々の保健状況を改善するために主要ドナーが世界基金に対する拠出を増額し、より関与を深めようとするなか、日本の貢献が引き続き評価されるためにも今後もオールジャパンでの支援と協力が期待されている。

注1:本稿は2012年世界基金成果報告書に基づく、個人的見解である。
注2:喀痰塗抹陽性肺結核(sputum smear-positive pulmonary TB)


小松 隆一
世界エイズ・結核・マラリア対策基金インパクト評価課長

komatsu早稲田大学大学院修士(心理学)、ハワイ大学大学院修士(公衆衛生)、博士(疫学)。米国のイースト・ウェスト・センターにてディグリー・フェロー、国立社会保障・人口問題研究所室長を経て、2005年より世界基金事務局に勤務、2008年より戦略・パフォーマンス・評価局戦略情報課長、2012年より現職。タイ赤十字社エイズプログラム、 JICA専門家としてニカラグア国地域保健プロジェクト、UNAIDSによる世界のHIV感染者数推計プロジェクト等にも従事した。

 

世界基金2012成果報告書 
Global Fund Results Report 2012: Strategic Investment for Impact

世界基金プレスリリース (2012年9月27日)
Global Fund-Supported Programs Effective in Preventing and Treating Disease

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