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多国間協力の進展に 4つの教訓を生かせ(National Interest誌への寄稿)

2022年1月14日
多国間協力の進展に 4つの教訓を生かせ(National Interest誌への寄稿)

米国法人日本国際交流センター(JCIE/USA)のジェームス・ギャノンと米国フレンズ・オブ・ザ・グローバルファイト のマーク・レイゴンによる寄稿が、2022年1月10日、米外交専門誌The National Interest(オンライン)に掲載されました。”Multilateral Renovation and Innovation: Don’t Let a Crisis Go to Waste” ー多国間協力の刷新と革新:ピンチをチャンスに変えるために、と題する記事の中で、世界が気候危機とパンデミックに対応するためには、2022年こそ多国間協力を推し進めるべきであり、そのためにはこれまでの国際機関や多国間枠組みの歴史から得た4つの教訓を活かすべきだと説いています。

Mark P. Lagon, Chief Policy Officer, Friends of the Global Fight
James Gannon, Senior Fellow, Japan Center for International Exchange (JCIE/USA)

要旨は以下の通りです。


今日の世界は危機に瀕しているが、国際協調を促すはずの国際機関がその役割を果たせないでいる。これまでにも国際システムは幾度となく改革の時を迎えてきた。例えば戦後の国際秩序を構築するために、国際連合国際通貨基金世界銀行など、さまざまな機関が設立された。他にも国際エネルギー機関(IEA)が1973年のオイルショックを契機に、G20が1997年のアジア通貨危機が引き金となって設立された。その反面、ソ連崩壊後、G7からG8への移行が失敗したように、指導者がそのチャンスをつかめなかったこともある。

人権侵害や残虐行為と闘うために2002年に設立された国際刑事裁判所(ICC)は、中国、ロシア、米国などの大国がメンバーから外れ、2011年のリビアにおける”保護する責任”の適用は、軍事介入の正当性と目的についてロシア、中国、ブラジルなどから疑念を持たれた。他方、国連人権理事会(UN HRC)は、米国がより積極的な役割を果たすことで、その前身である人権委員会(CHR)から大きく改善された。

気候変動の分野の多国間協力は遅々とした歩みである。国連の気候変動枠組み条約(UNFCC)が中心となりCOPで交渉が続いているが、大国のリーダーシップの度合いや、途上国が自分たちの声が十分に反映されていると感じるかどうかに大きく左右され、一進一退の状態が続いている。この交渉の結果として、多国間の枠組みの基金が少なくとも7つ設立され、その最たるものが、地球環境ファシリティ(GEF)緑の気候基金(GCF)である。気候変動分野は、資金が圧倒的に不足しているが、既に数多くの基金がある中、さらに新たな基金を立ち上げるのではなく、既存の組織の増強を考えるべきだろう。

これらに比べると、グローバルヘルス分野の多国間協力は、比較的健全に発展している。特に、世界ポリオ根絶イニシアティブ(GPEI) , Gavi アライアンスグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)など、感染症分野で新たに設立された多国間の枠組みが顕著な実績をあげてきている。成功している保健の組織にはいくつかの共通点があり、それは他の分野にも応用可能であろう。

世界の指導者たちは、昨年11月末のCOP26が失敗と成功を内包したものであったことを受け、2022年は現実の行動につながる次のステップを模索している。そして同じ世界の指導者たちは、将来のパンデミックにより良く対応するために何をすべきかについても検討を重ねている。米バイデン政権は、パンデミックの備えのための新たな基金を提唱しており、2022年はその議論が進み、新型コロナウイルスに対応するために臨時に作られたACTアクセラレーターをより制度化していくか、全く別の体制を作るか、道筋が見えてくると思われる。既に多くの組織が存在することを考えると、既存の組織を強化(例えばグローバルファンドの保健システム強化を増強)したり、技術革新の成果を迅速に活用することが賢明だろう。

今、国際社会はその総力を挙げて様々なグローバル問題に取り組まなければならない転換期にある。多国間協力をより効果的にするためには、過去の経験から得た以下の4つの教訓を活かしながら多国間の組織体の創設や改変の議論をしていくべきだろう。

教訓1:国際機関の創設・改革に向けた取り組みは野心的でなければならない。ただし、完璧主義を求めないこと。例えば、パンデミックへの準備と対応について、中途半端な対策で感染症は収束させられないが、はじめから完璧を目指そうとすると前に進めない。

教訓2:国際機関が成功するためには、米国をはじめとする先進国からの支援は必須だが、途上国が主体的に関わることも不可欠である。両者のバランスをとることが重要だ。1カ国または数カ国のみが「所有」し、資金を提供する国際機関では意味がない。ICCのいくつかの失敗、地球環境ファシリティ(GEF)への建設的な批判、グローバルファンドの成功から、そうした教訓が導き出せる。

教訓3:多様性の重視は、複雑で国境を越えた問題に取り組む国際機関のガバナンスにおいて鍵を握る。市民社会、民間企業、当事者コミュニティなどの多様なステークホルダーを意思決定プロセスに巻き込むことが極めて重要た。その最たる例としてグローバルファンドやGaviがあげられる。

教訓4:新しい組織であれ、既存の組織の刷新であれ、国際機関が成功するためには、成果指向であること。そして、支援の対象となる人々、相手国政府、ドナーの信頼を得るための説明責任メカニズムを確立することが必要である。

今年こそ、このパンデミックと気候に関する大きな一歩を踏みだすべき年であり、この機会を逃すと悲惨な結果になる。過去の経験から、危機的状況に陥った時に重要なのは単に「行動すること」ではなく、「どう行動するか」だ。

(JCIE/グローバルファンド日本委員会による抄訳、英文原文を正文とする)

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