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時代の流れをつかみ、最大の成果をあげる

2017年7月4日
時代の流れをつかみ、最大の成果をあげる

グローバルファンドのマーク・ダイブル事務局長は5月31日、4年間の事務局長任期を終え、退任しました。グローバルファンド理事会におけるダイブル氏の離任挨拶を紹介します。

MD

保健分野における世界のリーダーが立ち上がり、グローバルファンドを設立してから15年が経過しています。この間、強靭で持続可能な保健システムの実現に向けて資金の投入を続け、エイズ、結核、マラリアに苦しむことのない世界を目指して大きな成果を上げてきました。グローバルファンドが支援する国々で2,000万人以上の命を救い、コミュニティや国家は活気を取り戻しています。15年前には不可能だと思われていたことが成し遂げられているのです。私たちはいま、エイズ、結核、マラリアの流行を終わらせるための大きな転換期を迎えています。

しかし、転換期とは、成功と失敗のどちらに転ぶか分からないということでもあります。私たちの前には、新たな、そして喫緊の課題が立ちはだかっています。闘いは往々にして、終盤こそが最も厳しくなるものです。これから進む1インチ、1インチが、これまでよりも困難で、より多くの犠牲を払うものになるかもしれません。失敗すれば三大感染症は薬剤耐性を伴って再び流行し、医学的にも、資金的にも、制御不可能になってしまいます。

本気で問題を解決するには、若い世代の人たちとともに闘う必要があります。人口ボーナス(注1)か、人口災害か、私たちはどちらを手にすることもできるのです。これは開発分野全般にあてはまることですが、とりわけHIVにおいては顕著です。南部アフリカのHIV流行は思春期の少女と若い女性たちを中心に広がっていることがここ数年、データによって明らかになっています。CAPRISA(南アフリカ・エイズ対策研究センター)のグループが遺伝学的にウイルスを追跡し、HIV感染がどのように起こっているのかを明らかにしたことで、私たちはその力学的構造を本当の意味で理解できるようになりました。性的な関係のサイクルが構造的要因を生みだしているのです―サハラ以南のアフリカのいくつかの地域では、15-25歳の女性は同年代の少年や男性に比べ14倍もHIV感染の可能性が高くなっています。25-35歳の男性からHIVに感染することが多いのです。

(注1)子ども、および高齢者人口に比べ、働く世代の人口が割合が大きいことによって、経済成長が後押しされる現象

どのような人たちがリスクにさらされているのか。彼女たちがHIVに対してだけではなく、他の様々な面でも弱い立場に置かれているのは、どうしてなのか。その行動に影響を与え、選択の自由を制限する社会的、経済的な圧力は何なのか −−−。最も高い感染リスクにさらされている若年層が完全に見落とされていたことをデータは示しています。彼女たちはHIVの検査すら受けていない。本人が検査を受けようとしなければ、サービスを届けることもできないので、負の連鎖が続いてしまうのです。彼女たちに手を差し伸べなければ連鎖を断つことはできません。サービスを必要しているのは誰なのか、それを正しく理解することで、負の連鎖を断ち、必要な予防や治療のサービスが提供できるようになるのです。

若い人たちがもっとHIVに関心を持てるようにする方法を大急ぎで見つける必要があります。選択の余地はありません。現状のままでいれば―サハラ以南のアフリカ地域の若年人口が増え、HIVの高い感染率がこのまま続けば―、2030年のHIV新規感染は2000年代より増えます。しかし、若者が直面する問題にいま、私たちが精力的かつ革新的な方法で取り組むことができれば、HIVの流行は終わります。問題を正しく理解して取り組めば、またとない好機なのです。それができなければ、大きな代償を支払うことになります。

考え方や人の流れが大きく動いている現状にも、緊急に取り組む必要があります。私たちが生きているのは、これまでになく人がつながっている時代です。アイデアを共有できるよう様々なツールを活用しなければなりません。開発コミュニティにおいても、もっと早くアイデアを共有できるようにすべきです。メカニズムやツールの開発には、オンラインでその成果を共有できるオープンソースのツールもあわせて用意する必要があります。アイデアはどんどん動いています。様々なアイデアを取り入れ、共有していけば、開発もそれだけ進みます。人の移動もこれまで以上に増えています。2015年には2億2,400万人が国境を越えて移動しました。2000年に比べて7,100万人も増えているのです。難民の数は2,000万人で、その2億2,400万人のうちの10%以下なのです。人々はより良い仕事や生活を求めて移動しています。その動きは、難民問題への対応にとどまることなく、もっと広い課題としてもとらえていく必要があります。

グローバルな健康安全保障を実現し、三大感染症の流行を終わらせるには、人々がどこにいても予防と治療のサービスを受けられるようなモデルを作らなくてはなりません。モルディブがその好例です。専門職の44%、肉体労働の78%を占めている海外からの労働者に向けた結核治療プログラムを開始しました。結核に感染したまま入国した場合でも、治癒して働けるようにするため、包括的な治療を受けることができます。結核に感染した人の入国は認めないという別の道を選べば、その人が治療の機会を完全に失う恐れがあるだけでなく、結核の拡大に繋がってしまう可能性もあります。

タイでは、合法的な出稼ぎ労働者が国民健康保険に加入できるし、現在は非正規の労働者でも加入が可能になるよう検討が進められています。これが未来のあるべき姿です。保健の観点に立ち、国境を越えて移動する人びとを守れるようにすること、これは私たちが実現を目指す大きな課題の一つであり、各国が保健医療サービスを提供できるように支援をしていかなければなりません。

感染症のアウトブレイクがどこかで起きれば、私たちはすべてその脅威にさらされることになります。人びとが移動するときには、そこがどこであっても良好な保健サービスを提供できるようにしなければなりません。薬剤耐性による新たな脅威は世界各地を襲っているのです。メコン流域での薬剤耐性マラリアや世界中で見られる薬剤耐性結核との闘いは、私たち全員が担うべきものです。世界中が相互に深く結びついている現代の社会では、他の人が安全でないのに、自分が安全でいることなどできません。

グローバルヘルスはいま、最も高揚し、やりがいを感じる時期を迎えています。これまでと同じやり方を続けていても、それなりに良い仕事はできるでしょう。ただし、それでは到底、必要な目標に到達することはできません。エイズ、結核、マラリアの流行を実質的に終結させるために、グローバルファンドとそのパートナーは行動し、新しいものを取り入れ、進化していく必要があります。これまでの15年もそうでした。直面する問題に対し、果敢に挑むことができれば、必ず成功を収めることができます。くじけそうになることがあるかもしれません。それでも、15年前には不可能だと思われていたことを私たちは実現してきました。再びそれを成し遂げることは、もちろん可能です。

本文(英語)
Megatrends and Maximizing Impact by Mark Dybul
May 31, 2017

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