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新型コロナ禍でのエイズ対策:国連HIV/エイズハイレベル会合ーSDGs達成まで10年

2021年6月26日
新型コロナ禍でのエイズ対策:国連HIV/エイズハイレベル会合ーSDGs達成まで10年

2021年6月8日〜10日、NYの国連本部にて国連HIV/エイズハイレベル会合がオンラインで開催され、賛成多数で新たな政治宣言が採択されました。

エイズは、そのパンデミックの規模と影響の大きさから、2001年に国連史上初めて単独の疾病として国連特別総会のテーマとなり、全会一致で政治宣言が取りまとめられました。以来、5年ごとにハイレベル会合が開催され、世界規模での対策の進捗を確認するとともに、新たな目標を定めた政治宣言が採択されています。

エイズ40年、UNAIDS設立25年、SDGs達成残り10年

今年は、エイズが初めて米国で報告されて40年、エイズ専門の国連機関UNAIDS(国連合同エイズ計画)の設立25年という節目の年です。グローバルファンドも来年1月に20周年を迎えます。さらに、SDGs(国連持続可能な開発目標)達成まで残り10年ということで、目標達成に向けた具体的な道筋を引く必要性が明確になっています
ヴォルカン・ボズクル国連総会議長とウィニー・ビニヤマ国連エイズ合同計画事務局長
本会合で採択された政治宣言を受け、同時に開催された様々なサイドイベントでは、これらをどのように現実の対策に落とし込んでいくかについて、活発な議論が行われました。グローバルファンドは世界のエイズ対策の25%を担う組織であり、ピーター・サンズ事務局長はこれらの会合に連日パネリスト、スピーカーとして参加し、議論をリードしました。

新型コロナとHIV/エイズ:本会合およびサイドイベントでの主な議論

今回の会合で議論の焦点となった点がいくつかありますのでご紹介します。

不平等・差別

1つ目は、コロナ禍で深刻化した、不平等・差別についてです。世界的なパンデミックとなった新型コロナに対応するため、各国・地域で公衆衛生的な施策が行われる中、人権やジェンダーによる差別・スティグマを受けやすい立場にいる人々への支援が後回しになったり、草の根の支援がしづらくなり、必要な人々に行き届かなくなったりしています。エイズ対策の鍵を握る「キーポピュレーション」と呼ばれる人々こそ、このように脆弱な立場に置かれていることが多く、エイズ対策における大きな障害となっています。

SDGsは「誰も取り残さない」ことを目標として掲げていますが、エイズの40年の歴史から得た教訓としても、社会経済的に脆弱な立場にある人々こそ感染症流行の影響を受けやすいことを再認識し、法的整備も含め、不平等や差別を無くしていくことの重要性が、改めて確認されました。また、そうした活動に取り組むコミュニティに根ざした団体や人々の声を聞き、彼らを資金的にも政治的にも支援することも重要です。これは、新型コロナ対策にも当てはまります。

予防活動や検査へのコロナの影響

2つ目は、予防活動や検査への新型コロナの影響です。サンズ事務局長も、新型コロナ流行以前から予防プログラムが目標未達成であり、新型コロナ流行の影響によってさらにその状況が悪化していると指摘しましたが、予防啓発のための活動やIV感染予防のためのコンドームの配布、検査につなげるための支援などは、人の動きが制限される中で以前よりもさらに難しくなっています。

検査については、2020年にグローバルファンドが32のアフリカ・アジア諸国で抽出検査を行った調査でも、新型コロナの影響でHIV検査が前年同時期より40%あまり減っていることがわかっています。

コミュニティ・ヘルスワーカーの重要性

3つ目は、コミュニティ・ヘルスワーカーの重要性です。グローバルファンドは年間10億米ドル以上を投資してエイズ・結核・マラリア対策のための保健システム強化に取り組んできており、その一つが、コミュニティ・ヘルスワーカーの育成です。アフリカなど、医者や専門家が不足し、保健システムも整っていない地域では、地域の健康の最前線がコミュニティ・ヘルスワーカーによって支えられています。実際に、彼らが新型コロナの流行下においても地域での新型コロナ流行の状況を把握し、これまでのエイズ・結核・マラリア対策を継続する力となってきましたが、それは逆に言えば、彼らが倒れてしまえば、地域の保健システムが成り立たないということでもあります。

グローバルファンドは新型コロナ流行の当初から、この危機に対処するために、コミュニティ・ヘルスワーカーを守る重要性を訴え、個人用防護具 (PPEs)の調達に努めてきていますが、新型コロナ流行が続き、エイズを含む既存の感染症の対策に悪影響が及ぶ中、ますますその役割が大きくなっていると言えます。

データの重要性

4つ目はデータの重要性です。新型コロナに関してはその流行の状況を追うことができるよう、世界から日々データが集められ、即日で公開されていました。それに対し、エイズを含めこれまでの感染症の多くは、統計的なデータを見るのに数ヶ月から半年(またはそれ以上)かかるのが普通でしたが、新型コロナ対策は、ある意味、この「常識」を覆したと言えます。

エイズの(または結核の、マラリアの)「今」の流行状況が把握できれば、それに応じたきめ細やかな対策が可能です。以前から、サンズ事務局長は、データの収集・分析・公開に時間がかかりすぎると指摘してきましたが、新型コロナの経験はその重要性を改めて浮き彫りにし、課題として明確にしたと言えます。

政治の意思の重要性

最後に、これも新型コロナ対策とのコントラストでさらに明確になったことですが、感染症対策における、政治の意志の重要性も再度確認されました。本会合の冒頭でUNAIDSビヤニマ事務局長は、エイズ流行終息の鍵として、新型コロナで政治が動いてワクチンや治療薬、検査薬の早期開発・普及が実現できたように、エイズ対策においても、科学の進展とその恩恵を全ての人が受けられるようにすることが重要だ、と指摘しました。


新型コロナ対策も道半ばですが、最初の報告から40年が経ったエイズでは、これまでに3200万人の命が失われており、今、少しずつ改善してきたその歩みを止めることはできません。SDGsまでの10年、いかに新たな感染症の脅威にも備えながら、すでにあるパンデミックを終えるという強い決意と実行力が求められています。

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