将来のグローバルヘルス危機にどう備えるか:サンズ事務局長 欧州国際問題研究所主催のウェビナーで講演

この記事の掲載日 : 2021年05月06日(木) この記事のカテゴリー : ,



2021年5月4日、グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長は、欧州の有力シンクタンクの一つである国際欧州問題研究所(IIEA, アイルランド)主催のウェビナーで講演し、現在の新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)のパンデミックと、長期に流行が続く未解決のパンデミックであるエイズ・結核・マラリアの双方の対策に関わる立場から、現在の課題と、今後起こりうるグローバルヘルス危機に対し我々はどう備えていくべきかを論じました。

要旨は以下の通りです。


  • 「すべての人が安全にならない限り、誰も安全ではない」(No one is safe until everyone is safe) は、単なるキャッチフレーズではなく、感染症疫学のリアリティである。高所得国ではワクチン接種が拡大しトンネルの出口が見えてきたが、低・中所得国では、まだ暗く長いトンネルの真っただ中にある。インドの惨状がすべてを物語っている。他にも同様な道をたどる国がでてくるかもしれない。急速な勢いで変異しているウイルスと闘っている以上、自分の国が(トンネルの)どの位置にいるかにかかわらず、世界中のすべての国が一致団結してこの闘いを終わらせる必要がある。
  • グローバルファンドは、約100ヵ国の低・中所得国が新型コロナに対応するのを緊急支援してきた。その支援は、3つに分けられる。(1)新型コロナ対策そのものへの支援(検査キット、治療薬、医療従事者のための防護具、医療用酸素などの調達・供給)、(2)新型コロナの影響でエイズ・結核・マラリア対策が滞るのを阻止、(3)検査ラボや供給網を強化し、新型コロナのために保健医療制度が崩壊しないよう支援。これらの支援の2021年分の予算として、これまでに37億ドルを調達したが、まだ圧倒的に資金が不足している。グローバルファンドは、単独に新型コロナ対策支援を行っているわけではない。ACTアクセラレーターの創設メンバーとして、他の国際機関との協調のもとに検査、保健システム強化、治療の部門で主要な役割を担っている。
  • ワクチンは極めて重要な手段である。しかし、ワクチンは特効薬(silver bullet)ではなく、ワクチン戦略だけに頼っていては新型コロナは収束できない。なぜなら、ウイルスが広がる速度の方が、ワクチンを届けるスピードより速いからだ。低・中所得国にワクチンが普及するまでに時間がかかる。今必要なのは、ワクチンの普及と平行して、検査(による陽性者の隔離)で感染の広がりを止めることであり、医療用酸素や治療薬で重症者を治療することであり、医療従事者に防護具を配ることだ。我々が手にしている医療手段のすべてを使った包括的なアプローチが求められている。高所得国は皆、自国の対策としては、検査や医療従事者用の防護具を使っている。しかし、低・中所得国への支援となると、そこへの投資が足りていない。ACTアクセラレーターの各分野の中で圧倒的に資金が足りていないのは、検査と防護具だ。
  • 三大感染症対策上の課題の一つはデータの欠如である。新型コロナについては、たとえ完全に正確ではなくても感染者数や死亡数の最新情報が常に入手できている。もともとインドの結核患者は世界最多であり、新型コロナによりさらに増え、新型コロナによる死亡より結核による死亡の方が上回るかもしれないが、データが欠落している。データがあれば人々を説得できる、これは新型コロナ危機から得た教訓である。
  • 将来のパンデミックにいかに備えるかを考える際、現在目の前にあるパンデミックとの闘いを忘れてはいけない。新型コロナ対策、長い間脅威であり続けているエイズ・結核・マラリアの対策で構築したインフラや人材などの資源やシステムは、将来のパンデミックのへの備えのためのメカニズムとして十分活用することができるだろう。さらに加えると、高所得国がこの危機意識を持続させることが重要だ。過去を振り返ると、パンデミックが起きるたびにその対策として多額の資金が集まるが、やがて関心が薄れると資金は集まらなくなり、次のパンデミックに備える資金はなくなる、この繰り返しだった。資金のサステナビリティが鍵となるだろう。一つの提案は、IMFが加盟国の経済政策を定期的に評価する際、保健リスクの評価を組み入れることだ。
  • 世界のパンデミック対策への支援は開発援助の一環ととらえるのではなく、人間の安全保障、経済の安全保障として考えるべきだ。新型コロナの危機をすぐに終わらせることができるか長引くかで、高所得国の経済損失には膨大な違いが生じる。そのことを考えれば、ACTアクセラレーターを通じたグローバルな新型コロナ対策への支援(現在の不足額190億ドル)は非常に「投資効果」が高いということを改めて訴えたい。

国際欧州問題研究所IIEAのウェブサイトより

 

以上はグローバルファンド日本委員会の責任でとりまとめた。ウェビナーEnhancing Global Health Preparedness for the Futureの 映像と詳細は国際欧州問題研究所(Institute of International and European Affairs) のウェブサイトに掲載される予定。

 

ピーター・サンズ(Peter Sands)
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長

英国外務省、マッキンゼー・アンド・カンパニーでの勤務を経て、新興国・地域を主なマーケットとする英スタンダード・チャータード銀行グループの最高財務責任者に就任。2006~15年まで同行の最高経営責任者として、事業や利益を拡大し、政府援助を受けず欧州経済危機を回避したことで知られる。任期中、発展途上国の保健に重点を置く同銀行のCSRプログラムを統括し、寄付やロジスティック支援などエイズやマラリア対策に貢献した。その後、グローバルヘルス分野に身を投じ、ハーバード・グローバルヘルス研究所およびハーバード大学ケネディ・スクールのモサヴァー・ラーマニ政治経済センターのリサーチフェローに就任。金融界での豊富な経験を生かしグローバルヘルス財政分野で活躍、2015~16年には、米国医学アカデミーの「グローバルヘルス・リスクフレームワーク委員会」の委員長、2016~17年には、世界銀行の「パンデミックに備えるファイナンスに関する国際ワーキング・グループ」の議長を務めた。2018年3月にグローバルファンド事務局長に就任。オックスフォード大学卒業、ハーバード大学大学院公共経営学修了。