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新型コロナによる金融危機はなぜ見抜けなかったか – グローバルファンドのサンズ事務局長による投資専門誌への寄稿-

2020年3月26日
新型コロナによる金融危機はなぜ見抜けなかったか – グローバルファンドのサンズ事務局長による投資専門誌への寄稿-

3月24日 グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界の金融危機について、投資専門誌Barron’sに寄稿を発表しました。

サンズ事務局長は、2017年までスタンダート・チャータード銀行のCEOを務めており、国際金融とグローバルヘルスの双方で要職を務めた経験を持つ数少ないリーダーの一人です。なぜエコノミストや投資家たちは今回の新型コロナによる金融危機を見抜けなかったか、さらに、リーマンショック時の金融秩序の回復と比較し、今回は何が足りていないのか、今、何に投資すべきなのかを分析しています。是非ご一読ください。

● When Finance Fails: Why Economists Didn’t See a Coronavirus Collapse Coming
BARRON’s
Commentary by Peter Sands March 24, 2020


[仮訳]金融が失敗する時:なぜエコノミストは新型コロナによる金融危機を見抜けなかったか

グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)
事務局長 ピーター・サンズ

私は、かつて大手の国際銀行のCEOを務め、現在は、保健分野の国際機関のトップを務めている。その経験から言えることがあるとすると、国際金融と国際保健の世界は分断しているということだ。相互理解が欠落している。

金融界のリーダーは、感染症の発生に伴う経済的リスクを真剣に受け止めてこなかったし、保健医療のリーダーは、なぜ真剣に受け止めてもらえないか、理解ができなかった。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への備えのなさ、パニックに陥りつまずき、バランスに欠く国際社会の対応の根源は、この両者の分断にある。

これまでの歴史や調査結果を見れば、そして現在のように直接的な経験をすれば、感染症の流行は、経済成長に対する最大の脅威の1つだということは明白である。それなのに、マクロ経済分析で、こうした感染症リスクへの言及がほとんど見られないのはなぜなのか。

2016年、スタンダードチャータード銀行を退き、グローバルファンドの事務局長に就くまでの短い学究生活で、私はこの質問を探求した。ハーバード大学の2人の同僚と共に、経済予測において健康リスクが過小評価されていると思うか、と尋ねることから始めた。 SARSが流行した香港やMERSが流行した韓国など、感染症のアウトブレイクを経験した15か所で、国際通貨基金(IMF)、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)、スタンダード&プアーズ(S&P)の関連レポートを、それぞれの感染症アウトブレイクの前と後の2年間づつ、合計で約400件のレポートを調査した。これら有名な組織が、感染症の発生の後に、それが国の経済に大きな影響を与えたと見なしたかどうか、また発生の前に、そのリスクが経済への潜在的な脅威であると見なしていたかどうかを確認したかったのである。

結果は驚くべきものだった。 IMFの場合、15か国でアウトブレイク後に書かれたレポートの63%は、感染症の経済への影響は言及する価値のあるものであるとしていた。しかし、発生前の2年間に書かれた15か国のレポートで、感染症の発生による経済への潜在的なリスクについて言及したものは1つもなかった。 EIUとS&Pはさらに低かった。

私はこのギャップを埋めようとした。しかしその大部分は失敗したことを告白しなければならない。私はIMFに対し、国の経済財政政策に関する4条協議の評価に健康関連のリスクを組み込むようにと働きかける努力をしたが、無理だった。ビジネスリーダー向けにワークショップも実施し、感染症のアウトブレイクが起きると、ビジネス上、何が起きるかを検討できるようにした(2017年にMERSよりも危険なコロナウイルスが中国で発生したというシナリオに基づくものを含む)。しかし、結局のところ参加者の多くは、すでに公衆衛生に携わっている企業ばかりだった。ごく最近、1か月ほど前に、世界の主要な機関投資家や中央銀行で個人的に知っている人達に手紙を送り、Covid-19について話をする必要があると伝えた。しかし、返事をくれた人はほとんどいなかった。ある人は、部下を通じて、夏になったら話を聞きたいと言ってきた。

その後、ご存知のように、株式市場が急落した。それは2008年よりもひどいものだった。中央銀行は、金融危機の時に開発されたさまざまな手段を使って、暴落を阻止しようと試みた。しかし、何兆ドルもの支援にもかかわらず、市場は沈み続けている。

なぜ、著名な経済学者や投資家は、感染症アウトブレイクのリスクに盲目だったのだろうか。そして、なぜリーマンショックの世界金融危機の時には有効だった手法が、今回は市場の暴落を阻止できていないのだろうか?

その理由の1つは、経済アナリストも人間である以上、確率が低く影響の大きいリスクの扱いに悩むという弱点がある、ということだ。私たちは通常、リスクの過大評価(サメの攻撃、テロ)と、過小評価(金融危機、パンデミック)の間で右往左往している。

もう1つの理由は、経済学者や投資家は、自分たちが理解できるリスクを評価することが最も得意だからである。IMFのある高官は、マクロ経済リスク評価に、物価などの要素は含めたが健康リスクは含めなかったと述べ、その理由を明かしてくれた。物価は理解できるが、疫学は理解できなかったからであり、また、商品に関するデータほど、感染症のアウトブレイクに関するデータがなかったからだ、と。

グローバルヘルスのコミュニティは、すべての健康問題を、しばしば大げさで信頼のおけない分析を使って国際社会の緊急優先事項にしようとする傾向があり、これもよくなかったのだろう。

中央銀行と政府による大規模な介入が、市場パニックを阻止するほどの効果をまだだしていない理由は明らかだ。(リーマンショックの)世界金融危機の時、各国の中央銀行と財務省は、パニックの結果と原因に同時に対処した。資本の注入と流動性の供給の両方を行ったのである。今回の場合、中央銀行は直近の影響を緩和することはできるだろうが、根本原因である病原体への対応はできない。我々がCOVID-19を克服するまで、中央銀行ができるのは、経済財政的な影響が制御不能になるのを止めることだけだ。

しかし、ここに、著しく不均衡な政策対応がみられる。経済的影響を軽減するために数兆ドルが動員された。しかし、検査と治療を拡大し、新しい診断、治療、およびワクチンの開発と使用を加速するためには、数十億ドルどころか数億ドルでさえ、調達することは非常に難しいと言われている。もし、科学者が死亡率を半減させる、新型コロナウイルスの治療法をすぐに特定した場合、市場がどのように反応するか考えてほしい。そして次に、なぜ金融界は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラスト、マスターカードによって数週間前に開始されたTherapeutics Acceleratorなどのイニシアチブに対し、こぞって支援を申し出ないのだろう、と尋ねてほしい。このイニシアチブは、1億2,500万ドルの初動資金をもとに、特許期間が満了した既存の薬(クロロキンやさまざまな抗レトロウイルス薬など)が新型コロナウイルス感染症の治療に有効かを確認する大規模な治験に資金を提供し、調整するプラットフォームである。結果に期待ができれば、薬の製造の拡大も支援する。ギリアド社のレムデシビルのように特許期間中の薬であれば、投資する商業的インセンティブがあるが、特許期間が満了した薬には、そのようなインセンティブがない。そのための役割を効果的に果たすために、Therapeutics Acceleratorはもっと資金を、例えば30億ドルといった資金を、必要としているのだ。

COVID-19は、人類と経済に重大な影響を与える健康上の課題である。 私たちは、この危機に対する対応のバランスを見直すべきだ。ウイルスそのものと闘うために、もっと多くのリソースを投入する必要がある。

この機会を捉えて、保健と金融の間に橋を架け、分断を解消しなければならない。

 

ピーター・サンズ
グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)事務局長
元スタンダードチャータードCEO

 

 


原文

When Finance Fails: Why Economists Didn’t See a Coronavirus Collapse Coming
初出 BARRON’s Commentary by Peter Sands March 24, 2020 8:08 pm ET

上記はグローバルファンドウェブサイトに掲載の3月26日時点の英文に基づく日本国際交流センターによる参考仮訳であり、英文を正文とします。

 

●3月11日のフィナンシャル・タイムズへのサンズ事務局長の寄稿もご覧ください。
Coronavirus response must be ‘never again’ (コロナウイルスへの対応 ”再び過ちをを犯すな”)
by Peter Sands MARCH 11 2020

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