日本人とグローバルファンド Vol.5 髙山眞木子氏

この記事の掲載日 : 2019年06月03日(月) この記事のカテゴリー : ,



ビジネスに応えた緊張感が命のミッションへ向かうとき

インタビュー 髙山眞木子氏(グローバルファンド渉外局ドナーリレーションズ専門官)

 

テレビ局、証券界を経て40代からグローバルファンドへ

―もとはテレビ局で報道の仕事をしていたとうかがいました。

私は父親の仕事の関係でニューヨークで育ち、大学の時期、日本へ帰国しました。大学で芝居に熱中し、ドラマを作りたくてテレビ局へ入ったのですが、報道に配属され、警察回りから始めました。その後、パリに駐在し海外の空気を吸って、やっぱり海外で働きたいと思ったんです。

7年務めたテレビ局を辞め、ハーバード大学院で行政学の修士をとったころから、国際機関で働きたいという気持ちが高まってきました。しかし、その機会に恵まれず、ニューヨークのソニーのアメリカ本社に勤務し、新規事業開発部でベンチャー・キャピタル・ファンドを担当した後、北米投資家に向けてソニーの経営状況や業績動向に関する情報を発信するインベスター・リレーションズ・スポークスマンを務め、その後、証券会社へ勤めることになりました。

リーマンショックのあおりで部署がなくなったのを好機ととらえ、メーリング・リストで情報を得たグローバルファンドのキャリアセミナーに参加しました。ちょうど組織を大きくしようとしていたときで、増員の公募が出ていたのですね。ニューヨーク大学の夜間コースでファンドレイジングのクラスを取り、周りにNGOなどにかかわる人も多く興味がわいたこともあり、応募して採用されました。

 

―証券会社より収入はずいぶん減ったでしょう?

そうですね、でも、金融界は、私にはちょっと水が合わなかったみたいです(苦笑)。ちょうど40歳前後で、キャリアを変えようと模索していたときにグローバルファンドを知って、まさにこれだ! と。三大感染症では、父が若いころ結核で苦労した「ご縁」もあり、私が育ったニューヨークはエイズともゆかりの深い街。調達したお金で途上国の人びとの命が救われるミッションに深く共鳴しました。

国際機関は、若いときからそこに入るために努力してきた人が多く、私のように40代で民間セクターから入れたのはラッキーでした。その点、グローバルファンドはユニークな組織で、金融やコンサルタント業界、企業で勤めていた人など民間出身者も多く、多彩な経歴の人が働いています。

 

―グローバルファンドでは、最初、民間企業からのドナーを募る部署を担当されました。

ドナーになってくれそうな企業や財団にゼロから地道に説得を続けていく仕事です。いろいろな方法でのアプローチを試みました。たとえば、インドでは新しく法律ができ、純利益の2%をCSR(企業の社会的責任)に配分しなければいけなくなると知り、インドの企業に開拓に行ったこともあります。基本的に寄付で、出資ではないので、金銭的リターンではなく社会的なリターンで説得していく必要があります。「御社の事業所があるアフリカではエイズの課題もある。また、狭くて換気が悪い住宅に、季節労働者が多く住んでいて結核の感染率が高い。グローバルファンドの取り組みによって現地の保健環境が改善することで、御社の労働者にもメリットがあります……」、そんな戦略を立てて「営業」に行くわけです。

 

質問回答や来日時の会合などで密な連携を積み重ねる

―現在は渉外局で、グローバルファンドと拠出国との連絡調整にあたられています。

いまのポジションには2014年からですから、5年になります。現在は日本、オーストラリア、ニュージーランド、タイを担当しています。前の民間セクターのような新規開拓の苦労はありませんが、相手国政府の担当者が変わればその人との個人的な信頼関係をまた一から築く必要があります。日本の外務省は異動が多いので、丁寧なコミュニケーションが重要です。

 

―各国の担当者とはどのような接触をしているのですか?

第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)の際には、前職の経験を生かし、安倍昭恵夫人へのインタビューを実施

多いときは毎日のようにメールのやりとりをしています。グローバルファンドの取組み状況や成果、各国が抱える課題などに関する質問に対して、グローバルファンドの各部署から情報やデータを集め回答する――そういった拠出国とグローバルファンドのリレーションシップ・マネージャーとしての役割を担っています。国ごとに特徴があり、たとえばオーストラリアはアジア太平洋地域に関心があるので、その地域でどういった対策をし、どのような成果が出ているかに重点を置いて説明したりします。民間セクターで培ったコミュニケーションやリレーションシップ・マネージメントのスキルと経験が活用されています。

 

―今は増資を控え、厳しい質問が続いているようですね。

今年10月、グローバルファンドの第6次の増資会合が開かれますが、前回の第5次増資は目標が130億米ドルだったのに対し、今回の資金調達目標は140億米ドルです。これまでの成果も出てきているのに、どうして前回を上回るこの金額が必要なのか、など日本を含むドナーからさまざまな質問があります。国際保健は日本の外交政策でも大きな位置を占めるようになりましたが、税金の中から大きな拠出金をいただくわけですから、説得力のある情報や正確なデータで丁寧に説明することによって理解が深まることを期待しています。

 

―JCIEとはどのように連携しているのですか。

江田康幸 衆議院議員(写真向かって右から3人目)を訪問(右端が髙山氏)

グローバルファンドの事務局長など幹部が来日するときには、閣僚、国会議員や政府関係者、有識者や市民団体などステークホルダーの方々との会合や表敬訪問を積み重ねています。それらの日程調整や会合のアレンジでは、JCIEのみなさんには本当にお世話になっています。どの方も会いたいからといって簡単に会える人でもなく、JCIEの長年のネットワークがあればこそです。

 

現地国の視察で再確認した「命を救う」ミッション

―髙山さんにとってグローバルファンドとは、どんな組織でしょうか?

まず、新しいことにチャレンジさせてくれる組織ですね。渉外局内で、民間セクター部門から革新的ファイナンス部門に異動して新しい資金調達のメカニズムの構築を担当したのですが、その頃はまだ環境が熟しておらず、実現することができませんでした。

でも、成果が出ないからといって、私がかつていた証券界のようにドライに切るのではなく、グローバルファンドは努力とチェレンジ精神を認め、次の部署でもまたトライさせてくれたんです。グローバルファンドの清新な一面を感じました。また、組織としても、失敗を恐れずチャレンジする文化をもっており、これが、斬新な仕組みを次々に生み出すグローバルファンドの原動力になっているのだと思います。

 

―グローバルファンドにかかわっていて、日本人である自分を意識するのは、どんなときでしょう。

私はニューヨーク育ちで、人生の3分の2以上を日本以外で暮らしているので、自分が何人という感覚が乏しく、グローバルファンドでも自分を日本人として意識したことはあまりないんですよね……。

日本はありがたいことに拠出額は増えていますし、グローバルファンドの「生みの親」とも言われます。そのことが日本国内であまり知られていないのは、残念です。ただ、他の国際機関ほど広報に力を入れているわけではなく、広報活動よりも調達した資金を少しでも現場に回すことを優先しているので、ジレンマですね。

 

―では、ご自身がグローバルファンドにかかわり続けることはどういう意味がありますか。

FGFJによる議員インドネシア視察に同行し、結核病棟を訪問(写真向かって一番左が髙山氏)

私はふだんジュネーブの事務局にいて、カントリー・プログラムの担当者のように現地へ赴く機会がないのですが、2016年にFGFJが実施した日本の国会議員の視察に同行して、インドネシアと東ティモールに行きました。初めて支援の現場を実際に見て、感動しましたし、自分がやってきた仕事の意義を再確認しました。

インドネシアでは、結核薬の副作用が強くなかなか6か月の服薬を継続できない難しさなど、現地の病院でみなさんが薬を飲んでいるのを自分の目で確かめることで、資料を読んでいるだけではわからない現実を感じることができ、それからは各国の政府担当者に対しても、より現実的なこととして話せるようになりました。

それから、東ティモールではマラリア対策として、蚊帳を張って寝ることをお芝居で教えている様子、家族全員が一部屋で生活する貧しい一家で1歳にもならない赤ちゃんが祖父から結核感染したこと、などを目の当たりにし、自分が調達するお金がこの人々の命を救うのだ、やっててよかった、の思いを深めました。これはグローバルファンドにかかわる人みんなが異口同音に言うことですが、「これだよね!」という感動です。

ジュネーブで、グローバルファンドを退任した先輩とたまにランチをすることがあるのですが、その方がいつも、「で、今年は何人の命を救ったんだい?」と、ジョークがてらおっしゃいます(笑)。でも、グローバルファンドにかかわっている人はみんな、このミッションに共感して仕事を続けているのだと思います。

FGFJによる議員インドネシア視察に同行し、結核病棟を訪問した(写真前列、向かって左から2番目が本人)

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BACK NUMBER

グローバルファンド日本委員会(FGFJ)では、過去にグローバルファンドと関わりのあった日本人をインタビューし、「日本人(わたし)とグローバルファンド」というコラムでウェブサイトに掲載しています。バックナンバーは下記からご覧ください。

日本人とグローバルファンド Vol.4

「外交官がグローバルファンドの「ファン」になった理由(わけ)」
山本栄二氏 (外務省特命全権大使(国際テロ対策・組織犯罪対策協力担当兼北極担当))

日本人とグローバルファンド Vol.3

「現地女性のエンパワーメントに伴走して私のライフワークを見つけた」
瀬古素子氏 (ガーナ保健省UHC政策アドバイザー)

日本人とグローバルファンド Vol.2

「最後は私という人間を信頼してもらえるか。国際機関で知った理解の基本」
長嶺由衣子氏 (千葉大学予防医学センター特任研究員、医師)

日本人とグローバルファンド vol.1

「このお金を無駄にしてはいけない、人の命を救いたい。心はみな一致していました」
井戸田一朗氏 (しらかば診療所院長)