日本人とグローバルファンド Vol.4 山本栄二氏

この記事の掲載日 : 2019年01月23日(水) この記事のカテゴリー : ,



 

外交官が
グローバルファンドの「ファン」になった理由(わけ)

インタビュー 山本栄二氏
(外務省特命全権大使(国際テロ対策・組織犯罪対策協力担当兼北極担当))

 

 

G8九州・沖縄サミットや北海道洞爺湖サミットを経て、国際保健が外交の課題として定着しつつある時期、2008年の夏から約1年半、グローバルファンドの拠出国である日本政府の理事を務めた。それまで外交官として、経済協力や援助問題を担当したり、カンボジア勤務時には現場との協力も経験したが、グローバルファンドはもちろん、国際保健についても知見は少なかったと述懐される山本大使に話を聞いた。

 

グローバルファンドのユニークな組織に驚く

—理事任期は1年半でしたが、私たちにとって大使のお名前は、いまも懐かしく思い出されます。

経験したことのない分野でしたが、飛び込んでいって、勉強させてもらいましたね。当時から10年たっても強烈な記憶にあるのは、グローバルファンドの理事会の構成や意思決定の方法がきわめて斬新だったことです。

私は国連代表部に勤務したことがあるので、国際機関の仕事は承知していましたが、グローバルファンドは既存の援助機関や国際機関とはガバナンスがまったく違った。ドナー側、つまり支援を提供する側には、政府だけでなく、民間の財団や企業代表が平等な立場で参加している。そして、支援を受ける側からはアジア・アフリカの国々の政府や、NGO、当事者団体も参加し、平等に一票をもつ。支援する側が一方的に意思決定する国際機関が多いなか、グローバルファンドは、支援を受ける側も、そして政府以外の民間企業やNGOといった多様なセクターも平等な立場で参加しています。これは他にない組織ではないでしょうか。

ジュネーブでの理事会では、白熱する議論も経験しました。私が在任中、NGO代表団には日本の団体も入っていました。官・民が、そして先進国・途上国が一体となって、自由で透明性のある議論を通じて意思決定することは、印象的でしたね。

 

—こうして民間が参加していることについて、どう感じられましたか。

NGOも含めた民間からはよく意見を聞かないといけない、これは大原則です。役人的な、上から目線はあってはならない。当事者の意見を聞くことが、グローバルファンドでは制度化されています。たしかに私は官の立場だったかもしれないけれど、それでやりにくさを感じたことはないですね。

 

—民間の声を「聞き置く」だけならよくあることですが、NGOや支援を受ける国が意思決定にかかわることで何が変わると思われますか?

まったく同じ立場で意思決定に参加したからには、NGOもお金の使い方・使われ方に責任をもちます。結果に対して一方的な政府批判や先進国批判で済ませられなくなりますね。途上国についても同様です。当時そこまで気づいていたわけではないですが、いま振り返ると、三大感染症の流行を終息させることに対して、官も民も先進国も途上国も、全員が「共同責任」を持つんだ、という意識を生み出す意義があったのかなと思います。

もう一つ思ったのは、組織がスリムということですね。運営コストをできるだけ小さくして、集まったお金を少しでも多く現場に届けようという発想がオモシロかった。

 

多士済々な人たちとの熱い交流

—なにが大使にとって魅力的だったのでしょう。

グローバルファンドには主要国に「フレンズ」という後援組織がありますね。国連機関が各国に事務所を置くのとは違って、フレンズはグローバルファンドからは独立し自発的に組織されたものとうかがいました。日本のフレンズは、日本国際交流センター(JCIE)が中心となったグローバルファンド日本委員会で、そこに国会議員のタスクフォース、医師や教授など有識者、企業経営者、国際保健にかかわるNGOのメンバーなど応援団がおられ、そういう人びとの熱気に魅了され、私も巻き込まれていった(笑)。

また、この頃から、グローバルファンドのみならず、国際保健を通じて様々な立場の方々と出会い、交流することが増えていきました。それまでは役所中心の仕事でしたが、役所外の人と一緒に現地視察に行ったり、セミナーをやったり。省庁側も厚労省、外務省、ときに財務省などさまざまな役所の人間がおり、集まっては意見交換する熱い時間がありました。

そうすると、だんだん「チーム国際保健」「オールジャパン」みたいな感情がわいてきて、政府の人ばかりでなく、研究者、NGOや民間の多士済々な人たちも含め、ネットワークができる不思議な経験をしましたね。

 

—理事在任中も、そして退任後も、グローバルファンドを応援してくださいました。

任期中の2009年でしたか、先進国ばかりだったドナー国を中進国へも広げようと、グローバルファンドの渉外局長を韓国へお連れして、私が駐韓公使だった頃の人脈を活用して、援助担当の局長さんと会ってもらったりしました。

異動になり理事は退任しましたが、その後トロント総領事に着任したときも、国際保健には関係がないにもかかわらず、その種の会議や催しごとがあると自分で出かけていって、グローバルヘルスでの日本の貢献のPRに努めたり、著名な学者に会いに行ったり。トロント総領事としてやらなくてもいいことをついやってしまい(笑)、帰国すればまた仲間と会って報告をするんですよ。

 

—東ティモールへの議員視察にも、ずいぶんお骨折りいただきました。

東ティモールに大使として赴任したとき、着任早々にグローバルファンドはここでもなにかやっているはずだと思って館員に聞くと、みな困った顔をして、「なんですか、それ」って(笑)。「君、知らないのか。日本は大きな額を拠出してるんだぞ。それが現場に届いているはずだ」と。現地の保健省と連携をとって、さっそく視察をアレンジしてもらいました。山奥の村へ行ってみると、蚊帳が供給されていたり、マラリアの検査キットがあったり。聞くと、おかげでマラリアは見事に減った。でも、これからは結核だ、と。認識も改まりました。

そのあとグローバルファンド日本委員会の議員タスクフォースの国会議員の先生たちに、東ティモールに来て現場の成果をぜひ見てもらいたいと思い、JCIEのみなさんと相談しました。多忙な国会議員の日程を調整しつつ、視察プログラムを組むのは大変だったと思いますが、皆さんが努力してくださって、ようやく実現できました。

東ティモールへの議員視察でアラウジョ首相(当時)に表敬訪問した際の写真(写真向かって右手が山本氏)

そのとき、東ティモールの保健大臣や、国民議会の副議長と会議をし、グローバルファンドも含めた保健医療分野での両国協力を話し合いました。日本の国会議員が現地の保健医療分野の大臣や議会リーダーと会議をしたのは初めてじゃないですかね。さらに首相が医師出身の方だったので、表敬訪問も実現させました。

理事の任期は1年半と短いものでしたが、そのとき飛び込んだネットワークがずっと続いているのは不思議なものです。いま、私の担当はテロ対策なのに、グローバルファンド関係のイベントがあると、いまでもみなさんが声をかけてくれる。「UHCフォーラム2017」のサイドイベントや、グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長来日にあわせイギリス大使館で開かれたレセプションにも、伺わせていただきました。

こうしたネットワークの中心に、いつもJCIEがいて、「フレンズ」として受け皿になって支えてくれている、その信頼感は大事だなと思っています。

 

世界の課題として定着する「グローバルヘルス」

—大使のお話をうかがっていて、ご関心やネットワークがその後も続くのは、保健や健康という人の命にかかわることだからではないかという気がしました。

もともとUNDP(国連開発計画)が提唱し、緒方貞子先生とアマルティア・セン先生が保護(プロテクション)と能力強化(エンパワーメント)双方を重視するアプローチとしてまとめられた、「人間の安全保障」という考えがあります。一人ひとりの人間を貧困や病気からプロテクトすることと、自立へ向けエンパワーする、まさに人間の安全保障のコンセプトのもと国際保健は進められていますが、そこに興味がわくんですかね……。

でも、一番の魅力はこの人間関係のおもしろさですね(笑)。年に一度は、いまも交流が続いています。

 

—保健医療は医師や専門家が中心になりがちな世界ですが、外交官がかかわる意義、外交官だからこそできることとはなんでしょう。

たしかに保健は外交の主流課題とまでは認識されていないでしょう。しかし、九州・沖縄サミットで感染症が議題として取り上げられ、グローバルファンドの設立につながり、洞爺湖や伊勢志摩のサミットでも、感染症や保健システムの課題は取り上げられ、保健は、人の移動の激しいグローバル時代の重要な外交課題の一つとして定着しています。

日本国内の医療・保健であれば医者に任せておくのでよいのでしょうが、世界では貧困と病で人びとが苦しむなか、それをどう改善するかが問われている。人間の安全保障が必要とされるわけです。疾病対策にとどまらない、保健システム作りなどの環境整備、貧困対策などとの関連もあり、開発援助は外交官の仕事です。もちろん、厚労省も外務省も、資金の話があれば財務省も、一体となってやる必要があります。

 

—後輩の外交官にも、国際保健に関心をもつかたが増えているのでしょうか。

ええ、省内にも多士済々な後輩がいます。日本の場合、グローバルファンドの理事は1年半程度の短い任期で交代してしまっていますが、逆にかかわる人が増え、省内で賛同が広がるメリットもあります。先ほども述べたように、国際保健はサミットを経るごとにクローズアップされてきています。

私自身も、理事になる以前はまったく縁がなかったテーマですが、いまでは自分の大事な関心事になり、それを通じてできたネットワークは私の宝の一つになっています。外交官現役中も、退官した後でも、サポーターの一人として貢献できたらいいな、と思いますね。

 

<<<<<<<<<<>>>>>>>>>>

 

BACK NUMBER

グローバルファンド日本委員会(FGFJ)では、過去にグローバルファンドと関わりのあった日本人をインタビューし、「日本人(わたし)とグローバルファンド」というコラムでウェブサイトに掲載しています。バックナンバーは下記からご覧ください。

 

日本人とグローバルファンド Vol.3

「現地女性のエンパワーメントに伴走して私のライフワークを見つけた」
瀬古素子氏 (ガーナ保健省UHC政策アドバイザー)

日本人とグローバルファンド Vol.2

「最後は私という人間を信頼してもらえるか。国際機関で知った理解の基本」
長嶺由衣子氏 (千葉大学予防医学センター特任研究員、医師)

日本人とグローバルファンド vol.1

「このお金を無駄にしてはいけない、人の命を救いたい。心はみな一致していました」
井戸田一朗氏 (しらかば診療所院長)