当事者コミュニティとともに、グローバルファンドが変わる

  • 2016月7月4日(月)

この記事の掲載日 : 2016年07月04日(月) この記事のカテゴリー :


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2016年5月末までグローバルファンドでジェンダー・アドバイザーとして活躍された瀬古素子さんに、4年間の総括としてご寄稿いただきました。これまでに国連や援助機関での勤務経験もある瀬古さんは、グローバルファンドの最大の特徴は、当事者の声をよく聞きその意見を素早く反映させる仕組みを持つことだ、と述べています。

瀬古素子
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)
ジェンダー・アドバイザー*

グローバルファンド中期戦略(2012−16年)の実施期間も最終年になりました。この期間中にグローバルファンドの資金供与の方法は大きく変わりました。より効果的に命を救うために、2014 年に「新規資金供与モデル」が導入され、より戦略的に支援が行われるようになり、人権やジェンダーへの配慮も強化されました。HIV・結核・マラリアの当事者の声をより強く反映したことで、保健医療サービスの質の向上や利用者の増加などの成果が出はじめています。

当事者の意向を反映する「国内対話」

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インドネシアで行われた「国内対話」。政府関係者や企業、NGO、感染者団体、キーポピュレーション代表者が一同に会して、申請案件の形成や調整などが話し合われる。 (The Global Fund/ John Rae)

グローバルファンドが「21世紀型のパートナーシップ」と言われる所以の一つに、NGO や感染症当事者人々、各国政府や援助機関、企業等との協働が挙げられます。それぞれの持つ知見を活かすことで、効果的で持続可能な支援を行うことができます。2014 年に本格導入された新規資金供与モデルでは、各国への支援内容を決めるプロセスで、合意形成を行う「国内対話」の場に、政府やNGOのみならず、感染者団体やキーポピュレーション( 性産業従事者等のより高い感染リスクにある人々)の代表などの当事者を含めて議論することが義務付けられました。その結果、ほぼ全ての国で保健医療サービスの提供者と主たる利用者が一堂に会して、疾病対策の優先事項を決められるようになりました。

■新規資金供与モデルのプロセス

201607-FGFJreport-NFM国際機関や政府が、利用者の声を聞きサービスの質向上に努めるのは珍しいことではありません。しかし、時に差別の対象になるHIVや結核感染者や、犯罪者として扱われることも多いキーポピュレーションが、政策立案者たちと同じ土俵に立ち、グローバルファンドの資金をどのように使えばより効果的かを議論できる仕組みは画期的です。これは、日本も推進してきた「誰も置き去りにしない」ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成のためにも、またよりインクルーシブな保健分野ガバナンスの実現においても、非常に価値のあるプロセスであったと評価されています。

当事者の意見は、何を変えたのか?

対話に参加した当事者の代表も、政府などの参加者も、いずれも8 割近くが、当事者を含む「開かれた国内対話」が、キーポピュレーションや女性・女児への支援増加につながったと回答しています。さらに多様な当事者団体が国内対話に参加することで、国内での支援優先度を上げるためのロビー活動にもつながりました。

例えば南アフリカの女性団体グループは、10 代未婚女性を対象とした包括的な予防対策をHIV対策の最重要課題とするよう要請しました。そして、国内対話時に関係者を説得し、支援申請の中核に10 代女性の就学支援とHIV予防教育を組み合わせた事業等を含めることに成功しました。

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カンボジアでは、必要に応じて一般の蚊帳もしくはハンモック状の蚊帳を出稼ぎ労働者たちに配布している。 (The Global Fund/ John Rae)

またカンボジアでは、マラリア案件の申請を議論する過程で、マラリア発生数が最も多い林業従事者の男性のグループから、一般的な家屋内使用の蚊帳ではなく、森林の中で使えるハンモック状の蚊帳を求める意見が出されました。これを受け、より確実に蚊帳を使用してもらうために、調達する蚊帳の種類が変わりました。こうした当事者コミュニティの声を反映したグローバルファンド支援事業の実施が、より大きな成果の達成に寄与すると期待されています。

また昨年は、次期戦略策定のためのパートナーシップ・フォーラムも世界3か所で開催され、当事者やNGOの代表が戦略枠組みを決める議論をリードする場面が多々見られました。グローバルファンドの強みは、そのサービスを裨益する人たちの声をコミュニティから聞き、素早く政策や支援事業に反映する仕組みを持つこと。次期戦略では、三大感染症の流行を終結させるためにより効果的な事業を行うべく、これまで以上に当事者をはじめ、多様なパートナーとの協働が求められています。

瀬古 素子
201607-fgfjreport-sekoグローバルファンド ジェンダー・アドバイザー
国連大学高等研究所を経て、ジェンダーとHIVの専門家として国連人口基金カンボジア事務所、国連婦人開発基金南アジア及び東南アジア地域事務所で勤務。2007-10 年にはJICA 専門家として、ボツワナやザンビアのHIVプログラム形成や政策実施の支援に従事し、2012年までJICA 本部感染症対策・保健システム強化分野のインハウス・コンサルタントを務めた。2012-16 年グローバルファンドのジェンダー・アドバイザーとして活躍。
*2016 年5月末にグローバルファンド退職。本稿は在勤中に執筆

FGFJレポートNo.9(2016年7月)掲載