ジェンダー配慮でより効果的な感染症対策を目指す

この記事の掲載日 : 2014年09月12日(金) この記事のカテゴリー :


Share on LinkedIn

グローバルファンド@ジュネーブから

三大感染症対策にジェンダーの視点を

世界基金は、感染症に対して脆弱で社会サービスが届きにくい女性や子どもに保健知識やサービスが効果的に行き渡るよう多数のプログラムを展開し、保健におけるジェンダー不平等を是正する大きな役割を担っています。世界基金戦略投資効果局ジェンダーアドバイザーの瀬古素子氏に、三大感染症対策におけるジェンダー配慮の取り組みに関してご寄稿頂きました。


瀬古素子
世界基金戦略投資効果局 ジェンダーアドバイザー

エイズ、結核、マラリアのいずれの感染症対策においても、社会に根強く存在する男女格差や差別、性別役割分担のために、感染拡大が起こったり、治療の遅れによって命を落とすことが広く認識されています。三大感染症対策を行う世界基金にとってジェンダー配慮は不可欠なものであり、世界基金の支援を受ける各国に対し、より一層のジェンダー視点に基づく感染症対策の計画及び事業実施を求めています。

なぜジェンダー視点が重要なのか

殺虫剤処理された蚊帳の使用によるマラリア予防を啓発する劇を保健施設で鑑賞する妊婦たち(ザンビア)。マラリア罹患で重症化するリスクが高く、医療の意思決定権が弱い若い妊婦グループをターゲットに、保健施設での妊婦健診の機会を利用し集中的に啓発を行うこともジェンダー配慮のひとつ。 (©The Global Fund/John Rae )

殺虫剤処理された蚊帳の使用によるマラリア予防を啓発する劇を保健施設で鑑賞する妊婦たち(ザンビア)。マラリア罹患で重症化するリスクが高く、医療の意思決定権が弱い若い妊婦グループをターゲットに、保健施設での妊婦健診の機会を利用し集中的に啓発を行うこともジェンダー配慮のひとつ。 (©The Global Fund/John Rae )

南部アフリカの国々では教育や就労機会に恵まれない10代の女性が経済的理由により年配かつ性的経験の多い男性と結婚し、同世代の男子に比べて約3倍ものHIV感染が起こっています。経済力がない女性は通院費用を捻出できず、結核やマラリアの自覚症状があっても検査を受けるまでに男性より長い期間を費やし、適切な治療を受ける前に重症化し命を落としています。幼い子どもがマラリアで高熱を出したとしても、家庭内での意思決定権のない母親は夫の同意を得るまで子どもを病院に連れていけません。また、女性・女児に対する性暴力や配偶者間暴力が横行し、HIV感染が広がります。

どれほど感染症対策が公衆衛生や医学の面で進歩しても、このようなジェンダー不平等がある限り、防げるはずの感染や、救えるはずの命を失うことを止められません。だからこそ世界基金にとってもジェンダーや人権の視点が重要なのです。

妊婦健診の機会を利用して、妊婦へのHIV検査が実施され ている。(ルワンダ)配偶者とのコンドームなしの性交渉によってHIV感染する女性のケースは大変多く、妊娠時にHIV感染を早期発見することは生まれてくる子への二次感染の予防、妊婦の早期治療にも繋がる。HIV感染に脆弱な妊婦女性への対策は世界中で重点課題とされている。(©The Global Fund/John Rae )

妊婦健診の機会を利用して、妊婦へのHIV検査が実施され ている。(ルワンダ)配偶者とのコンドームなしの性交渉によってHIV感染する女性のケースは大変多く、妊娠時にHIV感染を早期発見することは生まれてくる子への二次感染の予防、妊婦の早期治療にも繋がる。HIV感染に脆弱な妊婦女性への対策は世界中で重点課題とされている。(©The Global Fund/John Rae )

途上国における感染症対策支援の恩恵を最も受けているのは女性たちです。医療や保健サービスの男女間アクセス格差は根強く存在するものの、世界基金の支援で感染症治療の裾野が広がったため、数多の女性とその子どもたちが命をつないでいます。2014年6月現在、世界中で660万人のHIV感染者が世界基金の支援を受けて治療を受けており、その半数以上は女性です。また2014年前半に配布された5,540万張の蚊帳の大半は妊婦と5歳以下乳幼児をマラリアから守る目的で配られています。

ジェンダー不平等は男性にも不利益を与えます。鉱山や職場での結核感染の可能性が女性より高いにも関わらず、「男たるもの頑強であるべき」とのイメージに囚われ病院を受診せず、重症化する男性も少なくありません。

このようなジェンダー特性を踏まえ職場に出向いて行う啓蒙や治療のアウトリーチサービスの積極的な提供も増えました。医療費が自己負担であったならば治療を受けられなかった女性やその家族も、生きて、健康を享受できる—これこそが途上国におけるジェンダー格差解消に対する、世界基金の最も大きな貢献だと自負しています。

女性自身が感染症対策の担い手に

エチオピアの地域保健普及員による家庭訪問の様子。家庭 訪問を通して、身近な女性同士で基礎的な保健知識を共有 する女性相互扶助の仕組み。

エチオピアの地域保健普及員による家庭訪問の様子。家庭 訪問を通して、身近な女性同士で基礎的な保健知識を共有 する女性相互扶助の仕組み。(©The Global Fund/Guy Stubbs )

またこのような感染症対策の受益者である女性たちは、同時に感染症対策の重要な担い手でもあります。

えば世界基金が支援するエチオピアの地域保健普及員制度では、各村から選ばれた女性代表が普及員として活動していますが、マラリア症例の早期発見や結核が疑われる患者を保健施設に連れていく等、地域住民の命を直接的に救う手助けとなっています。このため彼女たちは地元住民から信頼を得て、各村における女性の地位向上に関する意識変革に貢献していると言われています。一方、世界基金の支援に関する国レベルでの意思決定の場である国別調整委員会(CCM)には、女性委員の比率を3割まで上げるように新しく要件を定めました。女性の声を反映し、世界基金支援による感染症対策を確実に女性たちに届くようにしていくことが 期待されています。こうした事業実施を通じて各国の女性たちが活躍する機会を生み出すことも、世界基金の目指す姿です。

男性、女性、男児、女児、それぞれ異なるニーズに応える支援を行い、より多くの命を救うためには、どのような感染症対策プログラムの実施においても、ジェンダーの視点が重要になってきます。新しく導入された資金供与モデルが目指す「成果のための戦略的投資」が実現するよう、ジェンダーや人権配慮をより一層進めた事業計画および実施を進めていきたいと思います。

●ジェンダーとは
「社会的・文化的価値観や男女の性役割によって形成された性のありよう」の ことで、このジェンダーに基づく社会的不平等や偏見(ジェンダー格差)が数多く存在します。国際 開発分野では、このジェンダー格差を男女間の力関係や社会構造の中で理解し、ジェンダー格差を配慮して開発政策や施策を考えていかなければならないとするアプローチが取られています。

FGFJレポートNo.7(2014年9月)掲載